NURSEBESIDE ? 潜入者
2006年5月25日コメント (1)○ 63歳の男性肥満型。胸部痛。胸部CTで肺癌+閉塞性肺炎の疑いあり。
○ 55歳男性。頻呼吸。慢性腎不全で透析中。肺水腫の疑い。緊急透析中で症状・所見ともに改善中。
○ 中年女性肥満型。意識障害。低血糖。ブドウ糖で意識を取り戻すが、ベッドから転倒して各種画像検査中。
「この3人は、まあ入院だろな」医長は内視鏡を点検していた。
「はやいとこ、片付けようぜ」
「慎吾先生。口が悪いですよ」
「あいよ。胃カメラ、俺がしようか?医長先生」
「いいです」
医長は冷たくあしらった。学年的には先輩の慎吾は、彼には非常に扱いにくかった。
電話が鳴った。近くのザッキーが出る。
「はいな!こちら救急室!うそ?」
ザッキーは立ち上がり、走り始めた。
「MRIに行った人が、コンバルジョン(けいれん)!」
「僕も行く!」シローが続いた。
「任せるか・・」
医長は退屈そうに、患者のトイレからの帰りを待つ。
「遅いな・・・」
「おい医長先生。これ、電極がおかしいのか?」慎吾はモニターを凝視した。
しかし異変だとすぐに気づいた。
「や、やばいよ!」
慎吾は椅子ごとサーと横に移動した。
「DCだDC!」
両手でパッドを取り出した。波形はVf(心室細動)だった。
ズドンと1回。サイナスに戻る。
「はあ。焦ったよ!見た?見た?」慎吾は汗をぬぐった。
「いまひとつ、反応が遅かったですよ!」医長はカメラを覗きつつ、注意した。
「そんなことないだろ?俺なりによくやったって!」
患者は少し顔をしかめたが、目をパチパチ開けてきた。
「ん?わし、何かしとった?」
「しないでくれよね!」慎吾は患者の体を押さえた。
「遅いな。婦長も、患者も・・・慎吾先生!」
「あ?」
医長は胃カメラをまた台に置いた。
「この心筋梗塞は私が診ますので、先生は痙攣患者の応援に!」
「はいはい・・・こんなに応援、いらんでしょうが!ぶつぶつ」
慎吾は不服そうにだが、言われたとおりに部屋を出た。
彼はゆっくりMRI室へと歩いた・・横目に薬局が映る。
「看護部長。何してんだ?」
ドアの開いた薬局。中はアカアカと電気がついてる。
入り口からは全体は見えず、ゆっくり足を踏み入れた。
「(・・・・中で休んでるのか?よくサボるって話だしな)」
日ごろ、(年下の医長から)不本意な説教を受けたことのある医師としては関心ごとだった。
小さな曲がり角を曲がったら行き止まりなので、そこにいるはずだ。
「こーら看護部長!おわっ?」
とっさの判断で、慎吾は飛んできた小ダンボールをよけることができた。
ダンボールはガシャア、と崩れ落ち、アンプルの束が散乱した。
「てっ!」
再び目を開けると、うつぶせの看護部長の上に・・馬乗りになった男がいた。
トイレに行ったはずの<患者>だ。
「な、何をしてるんだ!」
「へへ。ガキが!動くな!」
「な、な・・・!」
慎吾は極度のビビリだった。妻と子供の顔が頭の中をよぎった。
「このナップサックにやな。そこのアンプル。入れえや。はよ!」
男は自分に何か注射している。
「この注射と同じヤツ!」
「こ、この注射って・・・」
「ペンタペンタ!ペンタジンってそこにあるやろ!うっ?」
男はおもわず振り向いた。近くをストレッチャーが大急ぎで走っていく音が聞こえたのだ。
慎吾は黙々と背中を向けたまま、ナップサックにアンプルをザラザラ入れ始めた。
「こ、こんなに・・・も、もっと・・・?」
「はよせいやはよう!」男が後ろで注射器を投げつけた。
「こ、これ以上は・・・」
慎吾はラグビーボール大のナップサックの緒を丁寧にもギュッと締め、ゆっくりと男に渡した。
「あーとう!おい。そこ、どけや。帰るから」
注射した後だからか、男には妙な落ち着きがある。
震える慎吾の横をかすめ、男は大股で歩いていった。
「お。タクシー来とんな。ナイスタイミング」
薬局を出て、ゆっくり正面玄関へ。男は開け方を知っていたようで、中の鍵をカチンとはずした。
僕とじいがタクシーの横で口論しているとき、その男が玄関から出てきた。
「なんや。こいつら・・・」
「じいさん!金、どこやった!タクシーのおつり!」
「し、知らん知らん」
じいはポケットに手を突っ込んでいた。
「俺が運ちゃんに1万渡して、もらったおつり!どこだ?」
「あ〜、どこ行ったかな〜?どこやろ」
「おい!ガモ!」男が傾いた姿勢のまま叫んだ。ナップサックを背負っている。
じいは反射的に固まった。
「お・・・久しぶりやな。にいちゃん」じいは落ち着いていた。知人のようだ。
「お〜お。一段と、ジジくささが増したんとちゃうんか?」
「その袋。収穫か?」
「チャリチャリいうてるやろ?大漁やがな」
一体、何が入って・・・。僕にはまだ分からなかった。
「ジジイは、もうちとそこにおんのか?」
「まあな。時が来るまではな」
何の話なんだ。何の・・・。
男はタクシーの後部座席にそのまま乗り、ドアは自動で閉まった。
夜中に病院から出てきた・・・患者か?
タクシーはブブウ、と駐車場へと走っていった。
「じいさん。あの人、知ってるのか。じいさん!」
「さ、病室へ戻ろうか」
「じいさん!」
病院に入ると、遠くに光が見えた。救急室の光だ。
部屋内に、5つのベッドがある。
○ 透析が回っていて酸素吸入している男性患者(肺水腫)
○ 痛みなのか顔をしかめている中年肥満女性(転倒)
○ 小刻みに体を震わせている男性(痙攣発作後)
○ t-PAを点滴している男性(心筋梗塞)
○ 酸素吸入中の肥満男性(肺炎+胸膜炎)
そして、周囲で僕を睨んでいる7〜8名のスタッフ。なんと内科医師がみな集合している。
「な、なんだよ、おまいら〜あああ!」
すべては、この夜に。
○ 55歳男性。頻呼吸。慢性腎不全で透析中。肺水腫の疑い。緊急透析中で症状・所見ともに改善中。
○ 中年女性肥満型。意識障害。低血糖。ブドウ糖で意識を取り戻すが、ベッドから転倒して各種画像検査中。
「この3人は、まあ入院だろな」医長は内視鏡を点検していた。
「はやいとこ、片付けようぜ」
「慎吾先生。口が悪いですよ」
「あいよ。胃カメラ、俺がしようか?医長先生」
「いいです」
医長は冷たくあしらった。学年的には先輩の慎吾は、彼には非常に扱いにくかった。
電話が鳴った。近くのザッキーが出る。
「はいな!こちら救急室!うそ?」
ザッキーは立ち上がり、走り始めた。
「MRIに行った人が、コンバルジョン(けいれん)!」
「僕も行く!」シローが続いた。
「任せるか・・」
医長は退屈そうに、患者のトイレからの帰りを待つ。
「遅いな・・・」
「おい医長先生。これ、電極がおかしいのか?」慎吾はモニターを凝視した。
しかし異変だとすぐに気づいた。
「や、やばいよ!」
慎吾は椅子ごとサーと横に移動した。
「DCだDC!」
両手でパッドを取り出した。波形はVf(心室細動)だった。
ズドンと1回。サイナスに戻る。
「はあ。焦ったよ!見た?見た?」慎吾は汗をぬぐった。
「いまひとつ、反応が遅かったですよ!」医長はカメラを覗きつつ、注意した。
「そんなことないだろ?俺なりによくやったって!」
患者は少し顔をしかめたが、目をパチパチ開けてきた。
「ん?わし、何かしとった?」
「しないでくれよね!」慎吾は患者の体を押さえた。
「遅いな。婦長も、患者も・・・慎吾先生!」
「あ?」
医長は胃カメラをまた台に置いた。
「この心筋梗塞は私が診ますので、先生は痙攣患者の応援に!」
「はいはい・・・こんなに応援、いらんでしょうが!ぶつぶつ」
慎吾は不服そうにだが、言われたとおりに部屋を出た。
彼はゆっくりMRI室へと歩いた・・横目に薬局が映る。
「看護部長。何してんだ?」
ドアの開いた薬局。中はアカアカと電気がついてる。
入り口からは全体は見えず、ゆっくり足を踏み入れた。
「(・・・・中で休んでるのか?よくサボるって話だしな)」
日ごろ、(年下の医長から)不本意な説教を受けたことのある医師としては関心ごとだった。
小さな曲がり角を曲がったら行き止まりなので、そこにいるはずだ。
「こーら看護部長!おわっ?」
とっさの判断で、慎吾は飛んできた小ダンボールをよけることができた。
ダンボールはガシャア、と崩れ落ち、アンプルの束が散乱した。
「てっ!」
再び目を開けると、うつぶせの看護部長の上に・・馬乗りになった男がいた。
トイレに行ったはずの<患者>だ。
「な、何をしてるんだ!」
「へへ。ガキが!動くな!」
「な、な・・・!」
慎吾は極度のビビリだった。妻と子供の顔が頭の中をよぎった。
「このナップサックにやな。そこのアンプル。入れえや。はよ!」
男は自分に何か注射している。
「この注射と同じヤツ!」
「こ、この注射って・・・」
「ペンタペンタ!ペンタジンってそこにあるやろ!うっ?」
男はおもわず振り向いた。近くをストレッチャーが大急ぎで走っていく音が聞こえたのだ。
慎吾は黙々と背中を向けたまま、ナップサックにアンプルをザラザラ入れ始めた。
「こ、こんなに・・・も、もっと・・・?」
「はよせいやはよう!」男が後ろで注射器を投げつけた。
「こ、これ以上は・・・」
慎吾はラグビーボール大のナップサックの緒を丁寧にもギュッと締め、ゆっくりと男に渡した。
「あーとう!おい。そこ、どけや。帰るから」
注射した後だからか、男には妙な落ち着きがある。
震える慎吾の横をかすめ、男は大股で歩いていった。
「お。タクシー来とんな。ナイスタイミング」
薬局を出て、ゆっくり正面玄関へ。男は開け方を知っていたようで、中の鍵をカチンとはずした。
僕とじいがタクシーの横で口論しているとき、その男が玄関から出てきた。
「なんや。こいつら・・・」
「じいさん!金、どこやった!タクシーのおつり!」
「し、知らん知らん」
じいはポケットに手を突っ込んでいた。
「俺が運ちゃんに1万渡して、もらったおつり!どこだ?」
「あ〜、どこ行ったかな〜?どこやろ」
「おい!ガモ!」男が傾いた姿勢のまま叫んだ。ナップサックを背負っている。
じいは反射的に固まった。
「お・・・久しぶりやな。にいちゃん」じいは落ち着いていた。知人のようだ。
「お〜お。一段と、ジジくささが増したんとちゃうんか?」
「その袋。収穫か?」
「チャリチャリいうてるやろ?大漁やがな」
一体、何が入って・・・。僕にはまだ分からなかった。
「ジジイは、もうちとそこにおんのか?」
「まあな。時が来るまではな」
何の話なんだ。何の・・・。
男はタクシーの後部座席にそのまま乗り、ドアは自動で閉まった。
夜中に病院から出てきた・・・患者か?
タクシーはブブウ、と駐車場へと走っていった。
「じいさん。あの人、知ってるのか。じいさん!」
「さ、病室へ戻ろうか」
「じいさん!」
病院に入ると、遠くに光が見えた。救急室の光だ。
部屋内に、5つのベッドがある。
○ 透析が回っていて酸素吸入している男性患者(肺水腫)
○ 痛みなのか顔をしかめている中年肥満女性(転倒)
○ 小刻みに体を震わせている男性(痙攣発作後)
○ t-PAを点滴している男性(心筋梗塞)
○ 酸素吸入中の肥満男性(肺炎+胸膜炎)
そして、周囲で僕を睨んでいる7〜8名のスタッフ。なんと内科医師がみな集合している。
「な、なんだよ、おまいら〜あああ!」
すべては、この夜に。
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