サンダル医長 月曜日 ? ダル回診2
2006年6月13日2人部屋。
「遠藤先生。この2人はいずれも長期で、レスピレーター管理を行っている。脳梗塞の後遺症」
「脳梗塞・・部位は?」
「なっ・・・の、脳幹。脳幹梗塞」
遠藤先生は瞳孔を確認。
「・・・ピンポイント」
「鎮静剤も流してるんで、神経学的所見は純粋には取れない」
「・・・眠らす?」
「ファイティングだよ。人工呼吸器と患者さん側の激しい呼吸がぶつかって気道内圧が・・」
「いや。それは知ってるんやけど。ふにゅるる・・」
「・・・・・」
血液検査伝票を確認、抗生剤変更の指示。
遠藤くんは覗き込み、過去へさかのぼる。
「・・・・うわ。ずっと抗生剤いってる」
「監査にでも来たのか?」
「かんさ?」
「いやいや。別にいいんだけど。長期になり、あらゆる菌が出ている」
「うわ。多いなー」
「肺、尿路、ときにじょく創、カテ熱・・・外界と通じるすべての部位が感染源となる。だから抗生剤の投与はやむなく・・おい!」
遠藤くんは知らぬ間に部屋を出そうになっていた。
「まだ話、終わってないぞ?」
「で、起炎菌は?」
「原因の菌?この培養結果にある菌、すべての可能性があるよ。MRSAに緑膿菌、カンジダ・・・」
「でも起炎菌とは限らない」さきほどの僕のマネか。
「でも起炎菌かもしれない」
「でも。起炎菌とは限らないふにゅふふ・・・」
事務長の声が聞こえたような気がした。
『ユウキ医長!この方は大学からの大事なお客様なのです!もし何か無礼なことがあったら、当直など人脈をカットされてしまいますので・・!』
「それがどうしたよ・・!我慢にも限界がある!」
『さすれば、ユウキ先生らの仕事の負担が倍になりますが・・・!』
僕は遠藤先生に歩み寄った。
「・・・遠藤先生!」
「は?」
「どうぞ。好きなとこに行ってきなさい」
「あり?なんかヘンだなふひゅひゅ・・・おかしいぞひひゅひゅ・・・」
以下、1人で回診。
45歳男性の心筋梗塞発症2週間目。
「こんにちは。どうです?」
「ああ。おかげさんで、もうふつうや!」
「もう退院ですね」
「おかげでゆっくり、さしてもろうた!」
運動負荷の心電図を見せる。
「大きな変化はなかったので、今のところ日常生活に制限はないですが・・・いやいや、待った!」
「?」
「タバコ吸う?」
「今は要らんわ」
「いやいや。ふだん、吸ってましたよね?」
「ああ。ちとばかし」
「酒は?」
「毎日飲む」
「塩分多い?」
「辛いもの大好き」
「甘いのも?」
「目がない」
「・・・・・全部、改めてもらいましょうか!」
「ああ、それは無理」
「ななっ・・・!」
「仕事が不規則でんがな。いきなりの呼び出し食らうこともあんねん。ほんでな、発注先からはクレームばかりや。何の生きがいもない仕事や」
転職を勧めたいところだ。
「でもな。それしか今のところ食うていく道があれへん。そのストレスをやな、それらは癒してくれんねん」
「それらって・・タバコに酒に、塩分糖分?すべて、のちに血管にとって好ましくないものですよ」
「へっへ。先生。大事なこと1つ忘れとる」
「な、なにを?」
「ストレスも重要な因子やろ?前の医長さんが言うてた」
「・・・・・」
「わしの場合、それらでストレスが解消されて、結果的に動脈硬化のリスクが抑えられまんねん」
「しかし、抑えられなくて今回のようなことに」
「大丈夫やって。先生、おっしゃったやん。予防の薬を出しますって」
「バファリンですか・・・絶対的なものではないですよ?」
「わしは先生を信頼しとる!信じるものは救われる!」
「あのなあ・・・」
見事に言いくるめられた。
56歳女性。自己免疫性肝炎。ステロイド内服で軽快。
「どうです?」
「はあはあ。熱も下がったようやねえ」
「今日の採血は・・・AST・ALTいずれも正常化」
「食事も気をつけてたのに。なんでこんな病気になるんですか?」
「遺伝も一部言われてますが・・自己免疫疾患ということしか」
「じゃ、もう帰れますな?」
「肝臓の生検をできればもう一度・・・」
「ああ、あれはもうええ」
「え?先日は受けてくれるって」
「隣の部屋のばあさんがね、脅かすんですよ。肝臓に針刺すんかって!」
「困ったな・・」
「そうよ。あたしも困った」
この人が自主的に受けたくないという気持ちがよく分かる。
今後は外来にてステロイドを減量。
外来から電話。
「もしもし?」カリカリしたおばさんナースだ。
『ユウキ医長?32歳喘息の方。いつまでほったらかしにするつもりなんですか?』
「喘息って・・・?ああ?午前の外来の?」
今、午後3時なんだが。
『患者さん怒っちゃって、まだしんどいのに何もしてくれないって』
「今は取り込み中なんだよ」
『酸素飽和度イマイチですよ』
「イマイチ?いくら?」
『・・・お待ちください』
測定したのかよ?
『コホン。98%ですかね。かろうじて』
「98だったらいいじゃないか?」
『さあそれは!わたくしたちナースなので!患者さんへの説明は主治医から!』
「すまんが。看護士のほうに代わってくれ」
しばらくして、看護士が出た。
『ザビタン!』
「へいへい!イビル!」
『ひいひい!』
「・・・すまんが、そこにすぐには降りれない」
『喘鳴はまだ聞こえますね。起座呼吸ぎみです。追加を?』
「そうだな。じゃあサクシゾンをもう一丁」
『おなじ内容でね。300mg追加ですね?』
「ああ」
『サクシゾンね!』
「そうだって」
『点滴ね!』
「切る」
電話を切り、別の部屋。
脳梗塞発症12日目の66歳男性。やくざ風。
「おう。ご苦労」
「こんにちは。リハビリは終わった?」
「終わった。このあと点滴、そして食事。先生な、この腕見てくれよ・・・」
上腕に、見事な刺青だ。
「ははあ・・」
「いやいや、このイレズミと違うで。点滴の跡や」
「ああそうか」
よく見ると・・・点滴の漏れた跡、発赤などがあちこちに。血管はよく見えるんだが、脆いようだ。
「だからな先生。点滴は今日で終了にしてくれんか?」
「いやあそれは・・・あと2日で終了なんです」
「同じやろ?」
「この点滴は14日間投与で効果を発揮することになっています」
「飲み薬に変えるとかできんのか?」
「あったらいいんだけどなあ・・・」
トロンボキサンA2阻害剤。血小板凝集による血栓形成を防ぐのと、脳血流改善作用がある。
投与14日後、投与してないのに比してADLの改善が有意にみられている。
「まあしゃあないか。主治医の先生がおっしゃるから!」
強引だが納得してもらった。
36歳男性。糖尿病とSAS(睡眠時無呼吸)で評価中。鼻マスク(nasal CPAP)を装着し効果判定中。
「医長先生。これ、僕には合いませんわ」
「まあ慣れるまでと思って」
「よく眠れるためとはいえ・・・流れる空気がキツイですわ。よけい眠れへん」
「そっか・・」
「先生のせいちゃいますで。わしがこんなに太ってるさかい」
「せっかくねえ。診断までついたからそこは頑張りたいんですが」
「頑張るのはワシやろ?」
「え、ええ」
「でもな。イビキは減った気はする!」
なんで分かるんだ・・でも気遣いか。
「ではもうちょっと見させて。せめてあと4日ここで入院を!」
「アカン。2日!」
「じゃあ3日!」
「うんわかった・・・ええやろ。ところでここの病院の食事、おいしいな?」
「糖尿病食でもそう言っていただけたら嬉しいですね」
「アンタが作ったんと違うやろ?」
「くっ・・ええそうです」
「ところで、リンゴがええってみのもんたさんが・・」
「よくないよくない!」
外は、日が暮れ始めてきた。
「遠藤先生。この2人はいずれも長期で、レスピレーター管理を行っている。脳梗塞の後遺症」
「脳梗塞・・部位は?」
「なっ・・・の、脳幹。脳幹梗塞」
遠藤先生は瞳孔を確認。
「・・・ピンポイント」
「鎮静剤も流してるんで、神経学的所見は純粋には取れない」
「・・・眠らす?」
「ファイティングだよ。人工呼吸器と患者さん側の激しい呼吸がぶつかって気道内圧が・・」
「いや。それは知ってるんやけど。ふにゅるる・・」
「・・・・・」
血液検査伝票を確認、抗生剤変更の指示。
遠藤くんは覗き込み、過去へさかのぼる。
「・・・・うわ。ずっと抗生剤いってる」
「監査にでも来たのか?」
「かんさ?」
「いやいや。別にいいんだけど。長期になり、あらゆる菌が出ている」
「うわ。多いなー」
「肺、尿路、ときにじょく創、カテ熱・・・外界と通じるすべての部位が感染源となる。だから抗生剤の投与はやむなく・・おい!」
遠藤くんは知らぬ間に部屋を出そうになっていた。
「まだ話、終わってないぞ?」
「で、起炎菌は?」
「原因の菌?この培養結果にある菌、すべての可能性があるよ。MRSAに緑膿菌、カンジダ・・・」
「でも起炎菌とは限らない」さきほどの僕のマネか。
「でも起炎菌かもしれない」
「でも。起炎菌とは限らないふにゅふふ・・・」
事務長の声が聞こえたような気がした。
『ユウキ医長!この方は大学からの大事なお客様なのです!もし何か無礼なことがあったら、当直など人脈をカットされてしまいますので・・!』
「それがどうしたよ・・!我慢にも限界がある!」
『さすれば、ユウキ先生らの仕事の負担が倍になりますが・・・!』
僕は遠藤先生に歩み寄った。
「・・・遠藤先生!」
「は?」
「どうぞ。好きなとこに行ってきなさい」
「あり?なんかヘンだなふひゅひゅ・・・おかしいぞひひゅひゅ・・・」
以下、1人で回診。
45歳男性の心筋梗塞発症2週間目。
「こんにちは。どうです?」
「ああ。おかげさんで、もうふつうや!」
「もう退院ですね」
「おかげでゆっくり、さしてもろうた!」
運動負荷の心電図を見せる。
「大きな変化はなかったので、今のところ日常生活に制限はないですが・・・いやいや、待った!」
「?」
「タバコ吸う?」
「今は要らんわ」
「いやいや。ふだん、吸ってましたよね?」
「ああ。ちとばかし」
「酒は?」
「毎日飲む」
「塩分多い?」
「辛いもの大好き」
「甘いのも?」
「目がない」
「・・・・・全部、改めてもらいましょうか!」
「ああ、それは無理」
「ななっ・・・!」
「仕事が不規則でんがな。いきなりの呼び出し食らうこともあんねん。ほんでな、発注先からはクレームばかりや。何の生きがいもない仕事や」
転職を勧めたいところだ。
「でもな。それしか今のところ食うていく道があれへん。そのストレスをやな、それらは癒してくれんねん」
「それらって・・タバコに酒に、塩分糖分?すべて、のちに血管にとって好ましくないものですよ」
「へっへ。先生。大事なこと1つ忘れとる」
「な、なにを?」
「ストレスも重要な因子やろ?前の医長さんが言うてた」
「・・・・・」
「わしの場合、それらでストレスが解消されて、結果的に動脈硬化のリスクが抑えられまんねん」
「しかし、抑えられなくて今回のようなことに」
「大丈夫やって。先生、おっしゃったやん。予防の薬を出しますって」
「バファリンですか・・・絶対的なものではないですよ?」
「わしは先生を信頼しとる!信じるものは救われる!」
「あのなあ・・・」
見事に言いくるめられた。
56歳女性。自己免疫性肝炎。ステロイド内服で軽快。
「どうです?」
「はあはあ。熱も下がったようやねえ」
「今日の採血は・・・AST・ALTいずれも正常化」
「食事も気をつけてたのに。なんでこんな病気になるんですか?」
「遺伝も一部言われてますが・・自己免疫疾患ということしか」
「じゃ、もう帰れますな?」
「肝臓の生検をできればもう一度・・・」
「ああ、あれはもうええ」
「え?先日は受けてくれるって」
「隣の部屋のばあさんがね、脅かすんですよ。肝臓に針刺すんかって!」
「困ったな・・」
「そうよ。あたしも困った」
この人が自主的に受けたくないという気持ちがよく分かる。
今後は外来にてステロイドを減量。
外来から電話。
「もしもし?」カリカリしたおばさんナースだ。
『ユウキ医長?32歳喘息の方。いつまでほったらかしにするつもりなんですか?』
「喘息って・・・?ああ?午前の外来の?」
今、午後3時なんだが。
『患者さん怒っちゃって、まだしんどいのに何もしてくれないって』
「今は取り込み中なんだよ」
『酸素飽和度イマイチですよ』
「イマイチ?いくら?」
『・・・お待ちください』
測定したのかよ?
『コホン。98%ですかね。かろうじて』
「98だったらいいじゃないか?」
『さあそれは!わたくしたちナースなので!患者さんへの説明は主治医から!』
「すまんが。看護士のほうに代わってくれ」
しばらくして、看護士が出た。
『ザビタン!』
「へいへい!イビル!」
『ひいひい!』
「・・・すまんが、そこにすぐには降りれない」
『喘鳴はまだ聞こえますね。起座呼吸ぎみです。追加を?』
「そうだな。じゃあサクシゾンをもう一丁」
『おなじ内容でね。300mg追加ですね?』
「ああ」
『サクシゾンね!』
「そうだって」
『点滴ね!』
「切る」
電話を切り、別の部屋。
脳梗塞発症12日目の66歳男性。やくざ風。
「おう。ご苦労」
「こんにちは。リハビリは終わった?」
「終わった。このあと点滴、そして食事。先生な、この腕見てくれよ・・・」
上腕に、見事な刺青だ。
「ははあ・・」
「いやいや、このイレズミと違うで。点滴の跡や」
「ああそうか」
よく見ると・・・点滴の漏れた跡、発赤などがあちこちに。血管はよく見えるんだが、脆いようだ。
「だからな先生。点滴は今日で終了にしてくれんか?」
「いやあそれは・・・あと2日で終了なんです」
「同じやろ?」
「この点滴は14日間投与で効果を発揮することになっています」
「飲み薬に変えるとかできんのか?」
「あったらいいんだけどなあ・・・」
トロンボキサンA2阻害剤。血小板凝集による血栓形成を防ぐのと、脳血流改善作用がある。
投与14日後、投与してないのに比してADLの改善が有意にみられている。
「まあしゃあないか。主治医の先生がおっしゃるから!」
強引だが納得してもらった。
36歳男性。糖尿病とSAS(睡眠時無呼吸)で評価中。鼻マスク(nasal CPAP)を装着し効果判定中。
「医長先生。これ、僕には合いませんわ」
「まあ慣れるまでと思って」
「よく眠れるためとはいえ・・・流れる空気がキツイですわ。よけい眠れへん」
「そっか・・」
「先生のせいちゃいますで。わしがこんなに太ってるさかい」
「せっかくねえ。診断までついたからそこは頑張りたいんですが」
「頑張るのはワシやろ?」
「え、ええ」
「でもな。イビキは減った気はする!」
なんで分かるんだ・・でも気遣いか。
「ではもうちょっと見させて。せめてあと4日ここで入院を!」
「アカン。2日!」
「じゃあ3日!」
「うんわかった・・・ええやろ。ところでここの病院の食事、おいしいな?」
「糖尿病食でもそう言っていただけたら嬉しいですね」
「アンタが作ったんと違うやろ?」
「くっ・・ええそうです」
「ところで、リンゴがええってみのもんたさんが・・」
「よくないよくない!」
外は、日が暮れ始めてきた。
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