サンダル医長 月曜日 ? 夢
2006年6月19日真田病院へ事務長を搬送。当直医は大学(外科)の男先生。
夜の11時にアル中だ。有難がられる訳もない。
救急車後ろのハッチから降りて、隊員とともにストレッチャーを引っ張る。
そのまま救急室へ。遅い明かりが灯く。
「ルートルート!」大学の若い先生は一生懸命指示している。
「了解です」ついているナースは澪というICU出身だ。
「すまんなー。みんな」僕は私服のまま見守った。
「ホント。あきれる・・」澪は毛布をガバッと開けた。
「股濡れ?い、いえ。失禁?」
事務長は口をムニャムニャしている。
僕は今一度、脈を確認。
「レベルはまあなんとか。呼吸や血圧は問題なかった」
「点滴は入りましたが。尿道バルーンを」
澪はためらい・・僕に差し出した。
「な、なんでだ?なんで?」
「職員ですから。せ、先生が」
「やだよ。やってくれよ!」
「でで、ですが。医師がされたほうが確実なので」
「大学病院や官公立病院では研修医の仕事だが・・・」
「あの・・・」当直医だ。この先生の存在を忘れていた。
「私がしましょうか・・・まだ駆け出しですが」
「す、すんまへん」
研修医の先生は、慣れた手つきでバルーンをスルスルと挿入していった。
「おーおー。出ること出ること!」澪はバルーンの管を揺らしては尿量を確認していた。
「よほどたまってたんですね・・」
「おい・・・」僕は突っ込む気力もなく、その場を引き上げようとした。
「澪さん。事務長の家族でも呼んでおくか?」
「ユウキ先生。事務長もいい年ですし・・」
「たとえば。彼女を呼んどくとかさ?」
「かのじょ?どの?」
そうだった。事務長の本命は・・・前の師長なんだろうが、続いているかどうかも怪しい。
僕は考えた。
「そうだな。携帯の最近の着信を見れば・・・多いのが<彼女>ってことにならんか?」
「なるほど・・・?」
僕は勝手に携帯を開いた。ピッポッ、と履歴を見る。
研修医は後ずさった。
「い、いいんですか?法に触れませんか・・?」
「法って?ラマーズ法?」
「・・・・・」
履歴では・・・<3>による着信が数回。あとは<5><7>とかが1回ずつ。女を番号付けしているような気がするが・・・。
さらに間に<クソうさぎ><トシ坊><キザヤロー>とある。
<クソうさぎ>・・・?オレのことか。ちょっとショックだな。
とりあえず頻度の多い、<3>にかけた。
相手はすぐに出た。
『おー。シナジー』
「あの、こんばんは」
『うーヒッヒッヒー!』
酔っている。事務長に最近お近づきの女性事務員だ。
どうやら、僕を事務長と勘違いしている。
「実はね。さっき」
『オーオー。またどっかでエロエロしとんとちゃうんかー!』
「こちら真田病院。病院にすまんが今すぐ来てくだせえ」
『?あんた誰よ?』
「事務長が変態なんだ!いや。そうだ。大変なんだ!ガチャ」
20分余りたって、彼女は到着した。酔いは醒めているようだが派手な格好だ。
彼女は酔った勢いでか、揺り起こす。
「おい!おい!」声をかけるが、まだウトウト程度。
僕は早く帰りたかった。
「すまんが。オレは当直でもなんでもない。帰るよ・・」
「なんか、あったのかな・・」彼女は少し沈んだ。
「みんなで寿司屋に行ったんだよ。でもオレ、飲ましてない」
「悩んでたんやなー・・・さては!」
しかめっ面の彼女は、いきなり優しい顔になり手を握った。
ベッドの横に腰掛ける。
「なあ。シナジー?」
「う・・う〜ん・・・しかいをしかいを・・」
「しかい?」
「番組の司会、司会・・・う〜ん」
なんの夢を見てるんだ・・?
彼女は何か思いついた表情だ。
「ね。シナジー。あたし。チ・ア・キ!」
「う〜ん・・・チィ〜チチ〜チュチュチュチュ」
「アホ・・・でね。シナジー。最近。他の女のとこ、行ったんか?怒らんから。言うてみそ?」
「う〜ん・・」
「いったんやろ?」彼女はあくまで優しく聞く。聞き出そうとする。
「う〜ん・・・」
「マコんとこ?ミチル?キミ?ヨシ?マイコ?」
「う〜ん・・・マイちゃ・・・マイちゃん・・う〜ん」
「ふーん・・・」
僕は戦慄が走り、出口に出かけた。
女性事務員はさらに聞く。こうやって寝ぼけた男から浮気を聞きだす女ってのは、珍しくない。
彼女は続けた。
「で?マイちゃんと・・・ホテル行ったんか?」
「う〜ん・・・」
「怒らんから。言うてみい?」あくまでも笑顔で優しく。
「う〜ん・・・火曜日。はやく火曜日」
明日、会うのか。
「ふーん・・・なるほど?」彼女は耐えながら聞く。
僕は出口に手をかけた。
「すまんが、夜間の面倒頼む。起きたら連れて帰って」
「え?しませんよ。ここに野ざらし状態よ」
「今日はもう疲れたんだよ。だから頼む!身近な人がいちばん!」
「なんでえ?あんた、今聞いたでしょ?あたしと彼の関係。これのどこが身近なの?」
彼女は両手で顔を覆った。
「くくっ・・・!陰で浮気されて・・・!」
しかし、横取りしたという点では他の女とかわらなった。
「そうよそうよ・・!あたしはミジメよ!ミジメ!」
彼女はゆっくり立ち上がり・・・そのまま救急出口へ出た。
「おいおい。帰ったのかよ・・・?」
気がつくと、僕と横になった事務長だけだ。スヤスヤ寝てはいる。
「は〜あ。ねむだる。お前のせいだぞ?いや、俺のせいか・・」
「う〜・・・」
「明日は地獄ですな」
ハッと気がつくと、危なくも頭が落ちかけていた。
「しかし、黙って帰るのもなあ・・・」
「おぼえとけ〜おぼえとけ〜・・・」
「何をですか?」
「つぶす〜つぶす〜」
「だから!何をですか?」
「ゆうきが〜つぶす〜」
「オレが潰す?何を?」
「ちあき〜。ちあき〜」
僕は彼の耳に近づいた。さっきの彼女のように聞けばいいのか?
「シナジー。あたし。チ・ア・キ!」一応振り向く。誰もいないことを確認。
「チィ〜・・チュチュチュチュ」
「だる・・・お前ら、いつも何やってんだよ?」
「チチィ〜・・・」
「ゆうき先生が、潰すの?何を?タマ?」
「あいつ〜ならでひとりで〜えへへへ」
「奈良で?一人?何言ってんだ?」
「いひひひ〜」
「ねえ、シナジー。ゆうき先生は奈良で、何するの?」
「う〜ん。むにゃむにゃ・・・」
「何するの〜?」われながら、気持ち悪い。
「う〜ん・・・いんちょだい・・いんちょだいり」
「病院?院長?代理?」
「ちょっとのあいだだけ・・・にゅにゅにゅ」
彼はそのまま寝入った。
情報を整理すると・・僕はどうやら奈良へ飛ばされて、ある病院を叩くために、またとある病院の院長代理をやらされる。奈良はこの前、引き継ぐはずだった病院のあったとこだ。見事に裏切られた。
まさかその病院に、仕返しでもするのか・・?
深夜の3時。ナース当直室をコンコン。
「はい?どうぞ」
「は、入っていいのか?」と言いつつ、ドアを開けた。
澪(20代後半)は・・・小説を読んでいる。3畳ほどもない狭い部屋だ。
とても若い女の住むところではない。
「事務長はどうですか?」
「かなり喋れるようにはなった。でも寝たよ結局」
「朝まで寝かしときましょうよ」
「ああ。帰るわ。俺。それ、何の小説?」
「赤川次郎」
「あかがわじろう!ふるっ!」
「別にいいじゃない・・」
「今のご時世に、赤川次郎・・・バブルの落し物だよ」
「だって出会いがないから。合コンにも呼ばれなくなったし」
「ははは。そうだったな。ははは!ナースはな!どうしてもな!あはは!だって下の若い子は<あの人呼んだらあたし行きません>って言うし・・」
彼女は小説を閉じた。
「先生。聞いて・・実は前のダンナがね」
「はいはい?ダンナのナンダ?」
結局3畳間に座らされ、彼女の愚痴を延々と聞かされることになった。
なんでアンタの人生相談にまで付き合わんといかんのだ・・・!
夜の11時にアル中だ。有難がられる訳もない。
救急車後ろのハッチから降りて、隊員とともにストレッチャーを引っ張る。
そのまま救急室へ。遅い明かりが灯く。
「ルートルート!」大学の若い先生は一生懸命指示している。
「了解です」ついているナースは澪というICU出身だ。
「すまんなー。みんな」僕は私服のまま見守った。
「ホント。あきれる・・」澪は毛布をガバッと開けた。
「股濡れ?い、いえ。失禁?」
事務長は口をムニャムニャしている。
僕は今一度、脈を確認。
「レベルはまあなんとか。呼吸や血圧は問題なかった」
「点滴は入りましたが。尿道バルーンを」
澪はためらい・・僕に差し出した。
「な、なんでだ?なんで?」
「職員ですから。せ、先生が」
「やだよ。やってくれよ!」
「でで、ですが。医師がされたほうが確実なので」
「大学病院や官公立病院では研修医の仕事だが・・・」
「あの・・・」当直医だ。この先生の存在を忘れていた。
「私がしましょうか・・・まだ駆け出しですが」
「す、すんまへん」
研修医の先生は、慣れた手つきでバルーンをスルスルと挿入していった。
「おーおー。出ること出ること!」澪はバルーンの管を揺らしては尿量を確認していた。
「よほどたまってたんですね・・」
「おい・・・」僕は突っ込む気力もなく、その場を引き上げようとした。
「澪さん。事務長の家族でも呼んでおくか?」
「ユウキ先生。事務長もいい年ですし・・」
「たとえば。彼女を呼んどくとかさ?」
「かのじょ?どの?」
そうだった。事務長の本命は・・・前の師長なんだろうが、続いているかどうかも怪しい。
僕は考えた。
「そうだな。携帯の最近の着信を見れば・・・多いのが<彼女>ってことにならんか?」
「なるほど・・・?」
僕は勝手に携帯を開いた。ピッポッ、と履歴を見る。
研修医は後ずさった。
「い、いいんですか?法に触れませんか・・?」
「法って?ラマーズ法?」
「・・・・・」
履歴では・・・<3>による着信が数回。あとは<5><7>とかが1回ずつ。女を番号付けしているような気がするが・・・。
さらに間に<クソうさぎ><トシ坊><キザヤロー>とある。
<クソうさぎ>・・・?オレのことか。ちょっとショックだな。
とりあえず頻度の多い、<3>にかけた。
相手はすぐに出た。
『おー。シナジー』
「あの、こんばんは」
『うーヒッヒッヒー!』
酔っている。事務長に最近お近づきの女性事務員だ。
どうやら、僕を事務長と勘違いしている。
「実はね。さっき」
『オーオー。またどっかでエロエロしとんとちゃうんかー!』
「こちら真田病院。病院にすまんが今すぐ来てくだせえ」
『?あんた誰よ?』
「事務長が変態なんだ!いや。そうだ。大変なんだ!ガチャ」
20分余りたって、彼女は到着した。酔いは醒めているようだが派手な格好だ。
彼女は酔った勢いでか、揺り起こす。
「おい!おい!」声をかけるが、まだウトウト程度。
僕は早く帰りたかった。
「すまんが。オレは当直でもなんでもない。帰るよ・・」
「なんか、あったのかな・・」彼女は少し沈んだ。
「みんなで寿司屋に行ったんだよ。でもオレ、飲ましてない」
「悩んでたんやなー・・・さては!」
しかめっ面の彼女は、いきなり優しい顔になり手を握った。
ベッドの横に腰掛ける。
「なあ。シナジー?」
「う・・う〜ん・・・しかいをしかいを・・」
「しかい?」
「番組の司会、司会・・・う〜ん」
なんの夢を見てるんだ・・?
彼女は何か思いついた表情だ。
「ね。シナジー。あたし。チ・ア・キ!」
「う〜ん・・・チィ〜チチ〜チュチュチュチュ」
「アホ・・・でね。シナジー。最近。他の女のとこ、行ったんか?怒らんから。言うてみそ?」
「う〜ん・・」
「いったんやろ?」彼女はあくまで優しく聞く。聞き出そうとする。
「う〜ん・・・」
「マコんとこ?ミチル?キミ?ヨシ?マイコ?」
「う〜ん・・・マイちゃ・・・マイちゃん・・う〜ん」
「ふーん・・・」
僕は戦慄が走り、出口に出かけた。
女性事務員はさらに聞く。こうやって寝ぼけた男から浮気を聞きだす女ってのは、珍しくない。
彼女は続けた。
「で?マイちゃんと・・・ホテル行ったんか?」
「う〜ん・・・」
「怒らんから。言うてみい?」あくまでも笑顔で優しく。
「う〜ん・・・火曜日。はやく火曜日」
明日、会うのか。
「ふーん・・・なるほど?」彼女は耐えながら聞く。
僕は出口に手をかけた。
「すまんが、夜間の面倒頼む。起きたら連れて帰って」
「え?しませんよ。ここに野ざらし状態よ」
「今日はもう疲れたんだよ。だから頼む!身近な人がいちばん!」
「なんでえ?あんた、今聞いたでしょ?あたしと彼の関係。これのどこが身近なの?」
彼女は両手で顔を覆った。
「くくっ・・・!陰で浮気されて・・・!」
しかし、横取りしたという点では他の女とかわらなった。
「そうよそうよ・・!あたしはミジメよ!ミジメ!」
彼女はゆっくり立ち上がり・・・そのまま救急出口へ出た。
「おいおい。帰ったのかよ・・・?」
気がつくと、僕と横になった事務長だけだ。スヤスヤ寝てはいる。
「は〜あ。ねむだる。お前のせいだぞ?いや、俺のせいか・・」
「う〜・・・」
「明日は地獄ですな」
ハッと気がつくと、危なくも頭が落ちかけていた。
「しかし、黙って帰るのもなあ・・・」
「おぼえとけ〜おぼえとけ〜・・・」
「何をですか?」
「つぶす〜つぶす〜」
「だから!何をですか?」
「ゆうきが〜つぶす〜」
「オレが潰す?何を?」
「ちあき〜。ちあき〜」
僕は彼の耳に近づいた。さっきの彼女のように聞けばいいのか?
「シナジー。あたし。チ・ア・キ!」一応振り向く。誰もいないことを確認。
「チィ〜・・チュチュチュチュ」
「だる・・・お前ら、いつも何やってんだよ?」
「チチィ〜・・・」
「ゆうき先生が、潰すの?何を?タマ?」
「あいつ〜ならでひとりで〜えへへへ」
「奈良で?一人?何言ってんだ?」
「いひひひ〜」
「ねえ、シナジー。ゆうき先生は奈良で、何するの?」
「う〜ん。むにゃむにゃ・・・」
「何するの〜?」われながら、気持ち悪い。
「う〜ん・・・いんちょだい・・いんちょだいり」
「病院?院長?代理?」
「ちょっとのあいだだけ・・・にゅにゅにゅ」
彼はそのまま寝入った。
情報を整理すると・・僕はどうやら奈良へ飛ばされて、ある病院を叩くために、またとある病院の院長代理をやらされる。奈良はこの前、引き継ぐはずだった病院のあったとこだ。見事に裏切られた。
まさかその病院に、仕返しでもするのか・・?
深夜の3時。ナース当直室をコンコン。
「はい?どうぞ」
「は、入っていいのか?」と言いつつ、ドアを開けた。
澪(20代後半)は・・・小説を読んでいる。3畳ほどもない狭い部屋だ。
とても若い女の住むところではない。
「事務長はどうですか?」
「かなり喋れるようにはなった。でも寝たよ結局」
「朝まで寝かしときましょうよ」
「ああ。帰るわ。俺。それ、何の小説?」
「赤川次郎」
「あかがわじろう!ふるっ!」
「別にいいじゃない・・」
「今のご時世に、赤川次郎・・・バブルの落し物だよ」
「だって出会いがないから。合コンにも呼ばれなくなったし」
「ははは。そうだったな。ははは!ナースはな!どうしてもな!あはは!だって下の若い子は<あの人呼んだらあたし行きません>って言うし・・」
彼女は小説を閉じた。
「先生。聞いて・・実は前のダンナがね」
「はいはい?ダンナのナンダ?」
結局3畳間に座らされ、彼女の愚痴を延々と聞かされることになった。
なんでアンタの人生相談にまで付き合わんといかんのだ・・・!
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