サンダル医長 火曜日 ? 暗室でDULL
2006年6月22日暗室。カーテンで2つに仕切られている。
シューという音が神経質に鳴っている。
「おはようございます!」僕は席についた。
近くでナース(オークの1人)が立つ。
「ブヒブヒ。今日は17件入ってまふ」
「13件だっただろ?昨日の段階では」
「ブヒ。昨日の夜、急きょ4件も追加が」
「外来でか。どうせ事務長がうまいことやったんだろ・・」
件数が多いほど収益が上がるのは当然。
真横のベッドで患者は横になっている。
「腹部エコーのほうだな。50歳。健康診断で肝障害」
検診データをみると・・採血でAST・ALT・r-GTP・TGが増加。
中性脂肪↑による脂肪肝か。一番ありがちだ。
「おはようございます。穴井さん」
「よろしくお願いします!朝は何も食べてません」
「なるほど」
「でも食パンを一切れ・・・」
「だる・・・なんでやねん」
腹部にゼリーを落とし・・プローブでペタペタ、超音波検査の開始。
「酒、よく飲まれる?」
「いいえ。飲みません」
「全く?」
「い、いや。ここ2日ほどは!」
「なるほど・・だる」
「え?」
「あ、いやいや!肝臓の所見でね!肝臓の左葉といいまして、そこが」
「さようでございまっか」
「だる(dull=鈍化=本来鋭角なのが、炎症機転で鈍角になっている)・・・」
肝炎の所見の1つだ。http://seminar.aloka.co.jp/muse2/ch10/sub2/
「肝腎コントラストあり肝実質はハイエコー、よって脂肪肝。肝臓はやや腫大、エスオーエル(腫瘍などを示唆する円形像)はなし、か」
「な、なんかありますんですかいな?」
僕は人差し指を口に当てた。
「膵臓は・・見えにくいな。パンを食べただけある」
「パンはまだそこでっか?も、もう大腸までいってるような気がしますが」
「なんでわかるんですかそんなの・・・さ、座って。両手を後ろにつく、と!」
腹部のガスが移動して、膵臓が見やすくなる。
プローブを横に当て、ゆっくり右方スライド、時計方向に・・・。
「テール(膵尾部)が多少見えにくいが・・異常なし、。慢性型のような石灰化もなし・・か!」
少しゴルゴ調だな。
オークはそこらで呆然と立っている。
胆嚢は・・
「やっぱり。食後だけあって、収縮してる。まあでもなんとか・・・」
胆石の有無が不正確になりがちだが・・・まあなんとか見えた。ポリープ様の所見なし。壁も正常。
「腎臓・・・脾臓。膀胱・・前立腺。ちょっと腫大ぎみ。PSAは・・この検診では測定してない・・か!」
やはりどこかゴルゴ調。
その企業の検診では、視力・聴力、血圧、採血、レントゲン、心電図、検尿くらいしかしていない。
これで検診と呼べるわけがない。まあそこは大人の事情があるからだろうが・・・。
腹部臓器のスクリーニングには、本来腹部超音波は必須だ。検診項目の採血だけでは肝血管腫、胆石・胆嚢ポリープ、胆道系癌、初期膵癌(この2つは超音波でも困難だが)は発見が困難。
胸部にあたっては胸部レントゲン正面像1枚のみというのが多く、これだけでは心臓の後ろに回りこんだ肺病変など見落としの可能性は残る。安静時の心電図で狭心症の除外診断はできないし、本来なら運動負荷時での不整脈の有無なども含めて確認したいところだ。
あと・・・便潜血が陰性でも大腸ポリープ・癌を否定できるものではないの・・だ!またしてもゴルゴ調。
これは決してネガティブなことを言いたいのではなく、日本人全体としてとらえて一番効率的な検査の組み合わせなのだ、と納得するほかない。発見の頻度が少ない検査を全例にするわけにもいかないので。
ただし、リスクファクターを持っている人には少し突っ込んだ検査にもっていけるようになれば理想だ。さらに、みのもんたが声かけしてくれれば。
具体的には・・通常の検診内容に加え、オプションを設ける。
・ <中年以上で肥満>コース → 採血にHbA1c、BNP追加、ABI、負荷心電図、頸部超音波、腹部超音波、睡眠時無呼吸の簡易モニター、頭部MRI(ラクナ梗塞スクリーニング)、プロによる散歩指導
・ <中年以上特に女性で高血圧>コース → MRA(脳動脈瘤スクリーニング)、ABPM、採血追加(BNP、レニン・アルドステロンなど)、腹部超音波、胸・腹部造影CT(動脈瘤スクリーニング)
・ <高齢女性で肥満型・便秘>コース → 甲状腺ホルモン、注腸造影
・ <40-50代以上で狭心症精査希望者>コース → 運動負荷心電図(マスターダブル)+ホルター心電図+冠動脈MRI、予算によりRI ・・ 労作性・安静時狭心症スクリーニング
・ <ヘビースモーカー>コース → 胸部CTおよび喀痰細胞診・喀痰培養、呼吸機能検査、夜間SpO2モニター、胃カメラ、耳鼻科受診、禁煙外来 ・・ COPD、肺癌スクリーニング、食道癌・喉頭癌スクリーニング
・ <アルコール多飲>コース → 腹部超音波・腹部造影CT・採血追加(AFP、線維化マーカー、PT)・胃カメラ(食道静脈瘤スクリーニング)、断酒会参加、教育用ビデオ放映
・ <上腹部痛の既往>コース → 胃カメラ、腹部超音波・上腹部CT
・ <胸部痛の既往>コース → 胸部CT、ホルター心電図、胃カメラ、場合により乳腺外来
・ <むくみ>コース → 心臓超音波、甲状腺ホルモン追加
・ <膵臓>コース → 腹部超音波、腹部造影CT、MRCP、採血にエラスターゼ?などマーカー追加
間違いなく、国家は破産する。
「ブヒブヒ!」
「うっ?」オークの鼻息で気を持ち直す。
「急ぐ急ぐ!」
「・・・では左横を下にして・・・CBD(総胆管)は拡大なし・・か!よし!はい終わり!拭いて、と・・さ!着替えましょうか!」
パリリッ、と印刷した写真を・・・
「な、なんだこれ!写真が!」
紙切れで、途中までしか撮れていない。最初の数枚のみ。
「なんだよナース。見ておいてくれよ・・!」
「ブヒブヒ。医学のことはわしらには」
「主治医は・・・トシキか。うーん・・・」
患者さんには申し訳ないんだが・・
「すみませんが、あと少し・・」
「はいな?また横になる?」
暗室での気まずいひと時が、過ぎていく・・・。
シューという音が神経質に鳴っている。
「おはようございます!」僕は席についた。
近くでナース(オークの1人)が立つ。
「ブヒブヒ。今日は17件入ってまふ」
「13件だっただろ?昨日の段階では」
「ブヒ。昨日の夜、急きょ4件も追加が」
「外来でか。どうせ事務長がうまいことやったんだろ・・」
件数が多いほど収益が上がるのは当然。
真横のベッドで患者は横になっている。
「腹部エコーのほうだな。50歳。健康診断で肝障害」
検診データをみると・・採血でAST・ALT・r-GTP・TGが増加。
中性脂肪↑による脂肪肝か。一番ありがちだ。
「おはようございます。穴井さん」
「よろしくお願いします!朝は何も食べてません」
「なるほど」
「でも食パンを一切れ・・・」
「だる・・・なんでやねん」
腹部にゼリーを落とし・・プローブでペタペタ、超音波検査の開始。
「酒、よく飲まれる?」
「いいえ。飲みません」
「全く?」
「い、いや。ここ2日ほどは!」
「なるほど・・だる」
「え?」
「あ、いやいや!肝臓の所見でね!肝臓の左葉といいまして、そこが」
「さようでございまっか」
「だる(dull=鈍化=本来鋭角なのが、炎症機転で鈍角になっている)・・・」
肝炎の所見の1つだ。http://seminar.aloka.co.jp/muse2/ch10/sub2/
「肝腎コントラストあり肝実質はハイエコー、よって脂肪肝。肝臓はやや腫大、エスオーエル(腫瘍などを示唆する円形像)はなし、か」
「な、なんかありますんですかいな?」
僕は人差し指を口に当てた。
「膵臓は・・見えにくいな。パンを食べただけある」
「パンはまだそこでっか?も、もう大腸までいってるような気がしますが」
「なんでわかるんですかそんなの・・・さ、座って。両手を後ろにつく、と!」
腹部のガスが移動して、膵臓が見やすくなる。
プローブを横に当て、ゆっくり右方スライド、時計方向に・・・。
「テール(膵尾部)が多少見えにくいが・・異常なし、。慢性型のような石灰化もなし・・か!」
少しゴルゴ調だな。
オークはそこらで呆然と立っている。
胆嚢は・・
「やっぱり。食後だけあって、収縮してる。まあでもなんとか・・・」
胆石の有無が不正確になりがちだが・・・まあなんとか見えた。ポリープ様の所見なし。壁も正常。
「腎臓・・・脾臓。膀胱・・前立腺。ちょっと腫大ぎみ。PSAは・・この検診では測定してない・・か!」
やはりどこかゴルゴ調。
その企業の検診では、視力・聴力、血圧、採血、レントゲン、心電図、検尿くらいしかしていない。
これで検診と呼べるわけがない。まあそこは大人の事情があるからだろうが・・・。
腹部臓器のスクリーニングには、本来腹部超音波は必須だ。検診項目の採血だけでは肝血管腫、胆石・胆嚢ポリープ、胆道系癌、初期膵癌(この2つは超音波でも困難だが)は発見が困難。
胸部にあたっては胸部レントゲン正面像1枚のみというのが多く、これだけでは心臓の後ろに回りこんだ肺病変など見落としの可能性は残る。安静時の心電図で狭心症の除外診断はできないし、本来なら運動負荷時での不整脈の有無なども含めて確認したいところだ。
あと・・・便潜血が陰性でも大腸ポリープ・癌を否定できるものではないの・・だ!またしてもゴルゴ調。
これは決してネガティブなことを言いたいのではなく、日本人全体としてとらえて一番効率的な検査の組み合わせなのだ、と納得するほかない。発見の頻度が少ない検査を全例にするわけにもいかないので。
ただし、リスクファクターを持っている人には少し突っ込んだ検査にもっていけるようになれば理想だ。さらに、みのもんたが声かけしてくれれば。
具体的には・・通常の検診内容に加え、オプションを設ける。
・ <中年以上で肥満>コース → 採血にHbA1c、BNP追加、ABI、負荷心電図、頸部超音波、腹部超音波、睡眠時無呼吸の簡易モニター、頭部MRI(ラクナ梗塞スクリーニング)、プロによる散歩指導
・ <中年以上特に女性で高血圧>コース → MRA(脳動脈瘤スクリーニング)、ABPM、採血追加(BNP、レニン・アルドステロンなど)、腹部超音波、胸・腹部造影CT(動脈瘤スクリーニング)
・ <高齢女性で肥満型・便秘>コース → 甲状腺ホルモン、注腸造影
・ <40-50代以上で狭心症精査希望者>コース → 運動負荷心電図(マスターダブル)+ホルター心電図+冠動脈MRI、予算によりRI ・・ 労作性・安静時狭心症スクリーニング
・ <ヘビースモーカー>コース → 胸部CTおよび喀痰細胞診・喀痰培養、呼吸機能検査、夜間SpO2モニター、胃カメラ、耳鼻科受診、禁煙外来 ・・ COPD、肺癌スクリーニング、食道癌・喉頭癌スクリーニング
・ <アルコール多飲>コース → 腹部超音波・腹部造影CT・採血追加(AFP、線維化マーカー、PT)・胃カメラ(食道静脈瘤スクリーニング)、断酒会参加、教育用ビデオ放映
・ <上腹部痛の既往>コース → 胃カメラ、腹部超音波・上腹部CT
・ <胸部痛の既往>コース → 胸部CT、ホルター心電図、胃カメラ、場合により乳腺外来
・ <むくみ>コース → 心臓超音波、甲状腺ホルモン追加
・ <膵臓>コース → 腹部超音波、腹部造影CT、MRCP、採血にエラスターゼ?などマーカー追加
間違いなく、国家は破産する。
「ブヒブヒ!」
「うっ?」オークの鼻息で気を持ち直す。
「急ぐ急ぐ!」
「・・・では左横を下にして・・・CBD(総胆管)は拡大なし・・か!よし!はい終わり!拭いて、と・・さ!着替えましょうか!」
パリリッ、と印刷した写真を・・・
「な、なんだこれ!写真が!」
紙切れで、途中までしか撮れていない。最初の数枚のみ。
「なんだよナース。見ておいてくれよ・・!」
「ブヒブヒ。医学のことはわしらには」
「主治医は・・・トシキか。うーん・・・」
患者さんには申し訳ないんだが・・
「すみませんが、あと少し・・」
「はいな?また横になる?」
暗室での気まずいひと時が、過ぎていく・・・。
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