「なんだって?」
「そうなんですよ・・・」事務長は眉をしかめた。
「いやいや。なんて言ってるか聞こえなかったんだ」
「がく!」

僕は事務長の後頭部を?・?指でつかんだ。
「頭の後ろが乱れて、ポコンと突き出てるぜ!」
「いやあ、ハチの襲撃で」

 僕は彼のパーマ頭をこねまわし・・・さらに後ろにポコンと、大きく丸く突き出た。

「私はルチ将軍!知ってるか?」
「さあ・・・」事務長はしらばっくれた。
「おい、誰か知ってるか?ルチ将軍!」

さきほどのオークナースがまた出てきた。
「なに?ムチ将軍?新しいエロビデオのタイトル?貸してえな」
「だる・・・お前ら、テレビ何見てたんだ。知能指数1300!」

 どうやら誰も知らないらしい。テレビを見ていなかったのか、子供の心を忘れたか。

事務長は僕の肩を叩いた。

「じゃ、ここでハッキリ言いましょう」
「ああ」
「あの救急車7台は、すべて近くの救急病院に行きました」
「そうか、よかったな。トイレ!」
「待って!」
「なんだよ。ホントにトイレに行きたいんだよ!以下同文!」
「なにや救急という、見せかけだけの救急病院なんですが」
「真珠会に乗っ取られた?」
「ですが、またスタッフが引き上げたのです」
「交渉の決裂だろ?経営者と職員のコスト問題。すまんがトイレ!」

すると、遠くから看護士が・・・持って来たのはポータブルトイレだった。
「お待ちを!へいへい!」

事務長は無視して続けた。
「古いスタッフたちは、見切りをつけられたわけです」
「で。平和が戻ったのか。おい看護士!どういうつもりだ!」
「でね、あの救急車はそれに対する」
「嫌がらせか・・送られる患者もたまらんな」
「なにや救急はギブアップしまして」
「閉めたの?」
「当院に連絡がありました。よろしくお願いします、と」
「何を?」

事務長はガラッと窓を開けた。
「今から!こっちへ来るんです!」
「なにい?」

駐車場の間に1本、救急車用のレーン。僕らはじっと見つめた。

シローは外来を終えたのか、余裕で近づいた。
「どうってことないでしょう!でも僕は外来しましたので、それ以外のドクターに!」
みなの冷たい視線が注がれた。
「冗談ですよ、冗談・・・」

僕らはみな窓の外を見ていた。
「孔明。何か策はないのか?」
「いつから孔明に?」事務長は困惑した。
「患者を実際に診るのは、俺たちドクターだ。外科系の奴らはオペのときだけと口実に、逃げる」
「コスト増やしますから、先生」
「コスト増でもな。リスクも増なんだよ!」

「あ!来た!」オークナースがあわてて叫んだ。

「え?」僕は耳を澄ました。「何も聞こえないし、見えないぞ・・・」

すると、自転車が1台・・・。
キ〜コ、キ〜コとつんざく音を発しながら・・・ゆっくり走ってきたのは・・・

「あれは!中華の出前のじいさんじゃないか!入院歴がある!」僕は思い出した。近所の中華店の配達だ。

「医長先生!わしらが頼んだんですわ!久しぶりに!」オークナースはサイフを探っていた。
「だる・・あんなとこ走らすなよな?うっ?」

僕は思い出した。たしか、このじいさんの自転車・・
「事務長!窓、閉めろ!」
「えっ?おっ?うっ?」
間に合わなかった。

 ものすごい超音波のような鋭いブレーキ音が、病院じゅうに響き渡った。

<キイイイイイイイイイイイイイ!>

「(一同、思わず耳を押さえ)うわああああ!」

間に合わなかった。

「ふう・・・あらら、ちょうどないわ!大きいのしか!」オークは困っている。
「なんで?おつりもらったら?」
「あのじいさん、ボケてて計算できんのですわ!最近いっそうボケとるって噂や」
「で?」
「医長先生。カネ貸してえな」

僕は一瞬、思い出しオークに近づいた。

「おい。看護士からそれはもらっただろ?」
「へっ?へっ?何を?」
「とぼけんなよ。その金から払えばいいだろ?」
「へっ?へっ?わしら外来ナースらには何のことだか・・・」
「たかられるのは、もうゴメンだよ」
「気になる!何もらったんや!ブヒブヒ!」

オークはホントに知らないといった表情だ。

さてはあの看護士・・・。

じいさんが、メットを被ったまま外来に入ってきた。
「じいさん!ここは外来だよ!」
「う?」じいさんは僕を見つけ、腕をつかまえた。
「な?」
「ささ・・・・三千六百三十四円」
「じいさん、オレじゃない・・」
「三千六百三十四円!はよはよ!」
じいさんは逆ギレし、白衣に乗りかかってきた。

「頼んだのは俺じゃない!事務長!」助けを求めたが・・
「え?はい!」携帯を耳に当てている。
「おい!ホントは話してないだろ!」
事務長は消えた。他の人間も消えていく。

「ささ!三千六百三十四円!お金!」
「待ってくれ!つかまんといてくれ!」
ようやく振りほどきサイフの中を見る。

「・・・すまんが五千円で」五千円札を1枚渡す。
「・・・おおきに」
「ちょ、ちょっとじいさん!おつり!」
「失礼しまーす!いつもご苦労さんでーす!」
じいはドンブリを診察の机の上に置き・・・

 どこからともなく現れたオークら数人は、そのままドンブリを持ち去った。

「おい!じいさん5千円持ってった!」
「え?そんなに高いことないやろ!」別のオークがムキになって振り向いた。
「金は、オレが立て替えた!」
「あ」
オークらはそのまま、赤いカーテン向こうの控え室へと消えた。

僕は追いかけた。金のことは、きっちりしないと!
「おい!いい加減に!」
「待ってえな!」声がする。
「これが待てるか!私はルチ将軍!知能指数1300!」

ザー!と赤いカーテンを勢いよく開けた。

「(オークら5人ほど)ぎゃああああ!」

 なぜか着替え中だった。だがケンシロウ調に言うと、

『お前らには下着を隠す価値などない!』

 とにかく思い出したくない光景だ。

 救急車は・・・もう、すぐそこまで来ている。

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