ダル医長 水曜日 ? YOU UNDER ARREST
2006年7月29日個室の入り口前。
「50歳男性。道に倒れていた。ほら、朝のカンファで」
遠藤君がパン、と手をはたいた。
「エーディ・・マーフィ?ふひょひょ」
「そうそ。放射医のヤツ、知ったかぶってたな!」
ガラッと開ける。
念のためマスク・ガウンを着用。結核菌の排菌の有無がまだハッキリしていないせいもある。
「結核用の病棟への転院の予定ではあるんだが・・・週明けになりそうなんだ」
「ADAが上がってれば、それだけで肺結核だろ?」慎吾がドアの入り口より。
「結核性胸膜炎!だよなトシキ!」
いない。僕とシローだけが入り、診察。
「どうです?」うたた寝のヒゲモじゃの男性。
「いやあ。フロに入らしてもろたら極楽なんじゃが」
「それはね。ちょっと・・・」
来たときの服装は・・ひどいものだった。汚れなんてものではなく、正体不明の小さな昆虫?などが多数見つかった。
「酸素は必要ないみたいだから」
「水。また抜くんでっか」
「いえ。それは転院してからになるでしょうね。まあいきなり抜くようなことはせんでしょう」
入院した患者が結核だと分かったとき、いろいろ確認する必要に迫られる。患者が接触したもの、部屋、職員。職員にはツベルクリン検査、胸部レントゲンなどが各病院の方針によって行われる。
喀痰培養も出したいところだが痰が出てればの話だし、そこまではしないことが多い。レントゲンでの確認というのも正直、本気で調べているとも思えない。ツベルクリン反応も絶対的な信頼性はなく、結局は病院の事業主の判断に委ねられる。
これらの検査で、特にツベルクリン反応でひっかかった職員は・・再検査とかで長引くことはあっても内服予防にまでなることは少ない(国公立などはきちんとしたマニュアルがあるとは思うが)。とにかく感染疑いが少しでもあるからといって休職扱いにする余裕などない。
非常に曖昧にされていることの1つ。しかし僕自身、どうしたらいいか立派な意見が出せるわけではない・・・。
廊下へ出ると・・・トシキがザッキーに説教している。腕組みしている姿勢から明らかだ。
「何やってんだ?お前ら」
「いや、今のうちにですね」トシキは不機嫌だった。
「?」
「今のうちに、彼のダレたところを直しておこうと思って」
「ザッキーがダレた・・・?」
ザッキーはまさしく今、うなダレている。
「医長先生が厳しく注意しないからですよ!詰所からも少しナめられてないですか?」
「詰所はおい、先週よりはいいだろ?閉鎖的な雰囲気よりオープンなほうが」
「話は戻りますけど!ザッキーのことで」
「戻すなよ・・・」
「カンファレンスでの態度からして、なってない!」
「もういいだろ・・・」
「ダメですよ医長先生!なんで僕が注意しないといけないんです?」
「そりゃ、お前がカラスの勝手だからだよ」
「うっ?」
トシキは黙った。
「意味が分からない・・・」
「子供が親のありがたさを知るのは・・親が死んでから、っていうだろ?」
「ど、どんな関係が?」
次の部屋は、めったに空くことのない1日5万円の個室。
師長の入るときの態度が全然違う。VIPルームの扱いは特別にと、事務長からも注意されている。
これまで国会議員、役所の人間などが主に隠れ家として利用していた。政治家というものは立場が弱くなると・・たとえばスキャンダルとか何かで。そうすると政治家は追及をおそれ、<病気>になる。
そして病院の特等個室がキープされる。勝手な外泊も含めて何週間も・・というのもザラではない。とにかくこういう人種に明日の暮らしなど期待しないほうがいいだろう。
で、今回は芸人だ。といってももと芸人で、今でも現役とはいうものの殆ど仕事がない状態。それでも彼らの破格の生活水準は・・・僕らに到底理解できるものではなかった。
食事は心臓病・高血圧用の食事・・だが患者はこれを無視。毎回、怪しげなスーツを着た人間が持ってくる豪華ディナー。朝だろうが昼だろうが、ディナーの名がふさわしい。
まあ悪口はこれくらいに。
「入って入って!わはは!」何がおかしいのか、オッサン芸人はサングラスをかけたまま。
「失礼をば。します」僕が入り、師長が続く。
テレビがガンガンうるさい。難聴なのかというくらいに。
近くでは住み込みみたいな坊主頭が3人。腰が異様に低い、と思ったら正座して微笑んでいる。
「明日は、頼むな!先生!」
「え、ええ。明日は私は休日なのですが・・・彼らが」
「ほっかほっか!誰がしてくれるんかいな?だれ?ゴマダレ?」
遅れてきたトシキが・・歩み寄ってきた。
「え?なんですか?もう一度・・」
「なんやあ。せっかくのギャグ外したがな。おにいちゃん」
「勝手に長いこと、外出しないほうがいいですよ!」
トシキはいきなり注意した。
相も変わらず、場が読めない男だ。
彼の突入はFBIさながらだ。
「ユーアンダーアレスト!(逮捕する!)」
アレスト(心停止)でも飛び起きそうだぜ!おにいちゃん!
「50歳男性。道に倒れていた。ほら、朝のカンファで」
遠藤君がパン、と手をはたいた。
「エーディ・・マーフィ?ふひょひょ」
「そうそ。放射医のヤツ、知ったかぶってたな!」
ガラッと開ける。
念のためマスク・ガウンを着用。結核菌の排菌の有無がまだハッキリしていないせいもある。
「結核用の病棟への転院の予定ではあるんだが・・・週明けになりそうなんだ」
「ADAが上がってれば、それだけで肺結核だろ?」慎吾がドアの入り口より。
「結核性胸膜炎!だよなトシキ!」
いない。僕とシローだけが入り、診察。
「どうです?」うたた寝のヒゲモじゃの男性。
「いやあ。フロに入らしてもろたら極楽なんじゃが」
「それはね。ちょっと・・・」
来たときの服装は・・ひどいものだった。汚れなんてものではなく、正体不明の小さな昆虫?などが多数見つかった。
「酸素は必要ないみたいだから」
「水。また抜くんでっか」
「いえ。それは転院してからになるでしょうね。まあいきなり抜くようなことはせんでしょう」
入院した患者が結核だと分かったとき、いろいろ確認する必要に迫られる。患者が接触したもの、部屋、職員。職員にはツベルクリン検査、胸部レントゲンなどが各病院の方針によって行われる。
喀痰培養も出したいところだが痰が出てればの話だし、そこまではしないことが多い。レントゲンでの確認というのも正直、本気で調べているとも思えない。ツベルクリン反応も絶対的な信頼性はなく、結局は病院の事業主の判断に委ねられる。
これらの検査で、特にツベルクリン反応でひっかかった職員は・・再検査とかで長引くことはあっても内服予防にまでなることは少ない(国公立などはきちんとしたマニュアルがあるとは思うが)。とにかく感染疑いが少しでもあるからといって休職扱いにする余裕などない。
非常に曖昧にされていることの1つ。しかし僕自身、どうしたらいいか立派な意見が出せるわけではない・・・。
廊下へ出ると・・・トシキがザッキーに説教している。腕組みしている姿勢から明らかだ。
「何やってんだ?お前ら」
「いや、今のうちにですね」トシキは不機嫌だった。
「?」
「今のうちに、彼のダレたところを直しておこうと思って」
「ザッキーがダレた・・・?」
ザッキーはまさしく今、うなダレている。
「医長先生が厳しく注意しないからですよ!詰所からも少しナめられてないですか?」
「詰所はおい、先週よりはいいだろ?閉鎖的な雰囲気よりオープンなほうが」
「話は戻りますけど!ザッキーのことで」
「戻すなよ・・・」
「カンファレンスでの態度からして、なってない!」
「もういいだろ・・・」
「ダメですよ医長先生!なんで僕が注意しないといけないんです?」
「そりゃ、お前がカラスの勝手だからだよ」
「うっ?」
トシキは黙った。
「意味が分からない・・・」
「子供が親のありがたさを知るのは・・親が死んでから、っていうだろ?」
「ど、どんな関係が?」
次の部屋は、めったに空くことのない1日5万円の個室。
師長の入るときの態度が全然違う。VIPルームの扱いは特別にと、事務長からも注意されている。
これまで国会議員、役所の人間などが主に隠れ家として利用していた。政治家というものは立場が弱くなると・・たとえばスキャンダルとか何かで。そうすると政治家は追及をおそれ、<病気>になる。
そして病院の特等個室がキープされる。勝手な外泊も含めて何週間も・・というのもザラではない。とにかくこういう人種に明日の暮らしなど期待しないほうがいいだろう。
で、今回は芸人だ。といってももと芸人で、今でも現役とはいうものの殆ど仕事がない状態。それでも彼らの破格の生活水準は・・・僕らに到底理解できるものではなかった。
食事は心臓病・高血圧用の食事・・だが患者はこれを無視。毎回、怪しげなスーツを着た人間が持ってくる豪華ディナー。朝だろうが昼だろうが、ディナーの名がふさわしい。
まあ悪口はこれくらいに。
「入って入って!わはは!」何がおかしいのか、オッサン芸人はサングラスをかけたまま。
「失礼をば。します」僕が入り、師長が続く。
テレビがガンガンうるさい。難聴なのかというくらいに。
近くでは住み込みみたいな坊主頭が3人。腰が異様に低い、と思ったら正座して微笑んでいる。
「明日は、頼むな!先生!」
「え、ええ。明日は私は休日なのですが・・・彼らが」
「ほっかほっか!誰がしてくれるんかいな?だれ?ゴマダレ?」
遅れてきたトシキが・・歩み寄ってきた。
「え?なんですか?もう一度・・」
「なんやあ。せっかくのギャグ外したがな。おにいちゃん」
「勝手に長いこと、外出しないほうがいいですよ!」
トシキはいきなり注意した。
相も変わらず、場が読めない男だ。
彼の突入はFBIさながらだ。
「ユーアンダーアレスト!(逮捕する!)」
アレスト(心停止)でも飛び起きそうだぜ!おにいちゃん!
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