ダル医長 水曜日 ? 誠に胃管
2006年8月2日総回診は続く。
トシキがカルテ見ることなく説明。
「全身浮腫の48歳女性。急性心筋梗塞。心電図では心尖部の瘤(りゅう)のため、STが上昇したまま」
「CPKは下がりきった?」
「今日の朝、正常化」
「心不全のコントロールは?」
「徐々に改善。スワンガンツのデータです」
鎖骨下から入っているカテーテルの先端は、右心房上部にうまく位置している。
僕は聴診器をはずした。
「それとあれだな。血栓に気をつけないとな」
「瘤ですからね」
「おい。このレントゲン・・・」
よく見ると、肺の周辺に沿って線が見える。
「肺の外は水というよりも一部は・・・これ、少し気胸起こしてるんじゃないかな」
「え?それはないです」
「いやいや。あるよ。少し。まあ3ミリぐらいだけど」
「ああっ・・・!」
トシキはやっと気づいた。弘法にも筆の誤り。
「トシキ。救急でそけい部から入れてたIVHを、わざわざ鎖骨下から入れなおしたのか?」
「だって感染が・・」
「うん。まあスワンガンツでモニタリングするためには、カテーテルの入れ替えも分からんではないが・・・」
みなレントゲンを回し読み。トシキのIVH入れ替え直後の写真では気胸はないが。
慎吾がフィルムを返しに来た。
「まあこれくらいだったら、エラスター針で抜いて即解決だろ?」
「アホ。安易な手段に走るな」僕が答えた。安易な穿刺は感染源を増やす。
「自然におさまるのか?」
「この程度なら、様子見でいいと思う。でもな。慎吾、じゃないトシキ・・」
レントゲンをもう1回見せた。両側の肺がまだ白っぽい(透過性低下)しているほか、左の無気肺も疑われる(心臓が左寄り)。
「左のほうの肺が厳しい。こういうときは・・・遠藤くん?」
「ひょひょ・・・そういうときは、なるべく重症の肺の側からカテーテルは入れて・・健側を不利にしないひゅひゅ・・基本きほん」
トシキは一瞬ムッとなった。師長が笑っている。
「なにがおかしいんですか?」
「ふっほっ。あのトシキ先生がねえ・・たまにはヘマするんですねえ。ほっほ」
「ヘマ?それは言いすぎでしょう?」
「だる・・・やれやれ」
僕は次の部屋へと移った。
シローがサッとベッドサイドへ。
「イレウス+循環不全の77歳男性。循環不全は今のところなんとか」
「イレウスチューブは・・」
「いまは胃チューブだけです。午後にと思ってたんですが。IVHを自己抜去されちゃったんで」
抑制帯はしている。しかし患者によってはどうしばっても巧妙に抜け出せたりする。
こういうときは家族を呼んでついていてもらうか鎮静するしかない。
慎吾はレントゲンで腹部のガスを確認。
「あっちゃー。これは痛そうだな。小腸ガスが・・でも二ボーはないな」
「アホ。臥位でとった写真だよそれは」と僕。
「アホアホって・・・」
「座位の写真はこれ!」改めて渡す。
「イレウスチューブは簡単に入れれないのか?医長先生」
「だってイレウスチューブ入れるには、ベッドを移動させて1階の透視室でやらないといけないだろ?」
「胃透視する所でな・・・」
「ちょっと時間は食うからな。でもシロー。やっぱ今日してあげなよ。カテーテル検査は他のメンツがカバーするから」
シローは頭を下げた。
「まことに、胃管(遺憾)であります!」
「はあ?さむさむ!寒!おいみんな、聞いたか?アイアムサム!」
遠藤・弥生先生らは力なく笑っていた。
トシキは・・窓の外を見ている。
「おいトシキ・・・ごめんな!」
「・・・・どうぞ先に行っててください」
「はいよ・・・おい皆、行くぞ」
プライドが高すぎるんだよな・・・。しかし、大人になってこういう光景をよく見るようになったな。
ちょっと譲れば解決するのに、何がなんでも離さない主張。それにどれだけの価値があるのか。
平たく言うと、素直に<ゴメン>と言えなくなるんだな・・・。気持ちは分かる。
「じゃ、回診はこれで終了。軽症は各自が自主的に」
僕は廊下の中央に立っていた。
「トシキと慎吾は心カテを頼む。僕とザッキーは気管切開。シローはイレウスチューブを。研修の2人は1人ずつカテか気切の見学を」
事務長が詰所から走ってきた。
「いちょうせんせい!いちょうせんせい!」
「はあ?なんだ?」
「ひどいですよ先生!食事指導なんて!やらされて!」
「結局、栄養士呼んだんだろ?」
「ばれましたか?」
焦った演技の事務長は立ち止まった。
「お前の八百長演技はすぐに見抜けるよ。まず息遣いが荒すぎる」
「う・・・!」
「それと。大汗かいてない」
「う・・・!」
「何よりも。目が泳いでいる」
「へへ・・でも先生。大変は大変だったんですよ」
「ありがとな。栄養士は若い子を?」
「な、なんでそこまで分か・・・?」
「マイちゃんだろ?昨日はお泊りデートだろ?」
事務長はすぐ前方まで近づいた。
「ちょっと医長先生!なんでそれを知ってるんですか?なんで?」
「酔っ払って搬送されたとき、何もかも喋ってたじゃないか」
「あわわ。フタマタの事務員に聞かれたかなあ・・・?」
「彼女がお前から聞きだしたんだよ」
「医長先生。今度合コンが」
「手遅れ手遅れ!」
1歩退き、僕はコクッと頭を下げた。
「まことに遺憾であります・・・!以下同文!」
振り返り、ザッキーが退屈そうに待っている。
「さ。気切しよっか」
「サッサと行きましょうよ!」
「今日のザッキー変だぞ?」
「医長先生ほど変ではないですよ」
だが彼の肩は少し緊張で硬直している。
僕は強い力で揉んだ。
「肩の力抜け!」
「いたた!いたいな!」
「スレッガーさん!いてえ!いてえよ!あはは!じゃあ5分後な!」
その間、トイレで小を済ました。
トシキがカルテ見ることなく説明。
「全身浮腫の48歳女性。急性心筋梗塞。心電図では心尖部の瘤(りゅう)のため、STが上昇したまま」
「CPKは下がりきった?」
「今日の朝、正常化」
「心不全のコントロールは?」
「徐々に改善。スワンガンツのデータです」
鎖骨下から入っているカテーテルの先端は、右心房上部にうまく位置している。
僕は聴診器をはずした。
「それとあれだな。血栓に気をつけないとな」
「瘤ですからね」
「おい。このレントゲン・・・」
よく見ると、肺の周辺に沿って線が見える。
「肺の外は水というよりも一部は・・・これ、少し気胸起こしてるんじゃないかな」
「え?それはないです」
「いやいや。あるよ。少し。まあ3ミリぐらいだけど」
「ああっ・・・!」
トシキはやっと気づいた。弘法にも筆の誤り。
「トシキ。救急でそけい部から入れてたIVHを、わざわざ鎖骨下から入れなおしたのか?」
「だって感染が・・」
「うん。まあスワンガンツでモニタリングするためには、カテーテルの入れ替えも分からんではないが・・・」
みなレントゲンを回し読み。トシキのIVH入れ替え直後の写真では気胸はないが。
慎吾がフィルムを返しに来た。
「まあこれくらいだったら、エラスター針で抜いて即解決だろ?」
「アホ。安易な手段に走るな」僕が答えた。安易な穿刺は感染源を増やす。
「自然におさまるのか?」
「この程度なら、様子見でいいと思う。でもな。慎吾、じゃないトシキ・・」
レントゲンをもう1回見せた。両側の肺がまだ白っぽい(透過性低下)しているほか、左の無気肺も疑われる(心臓が左寄り)。
「左のほうの肺が厳しい。こういうときは・・・遠藤くん?」
「ひょひょ・・・そういうときは、なるべく重症の肺の側からカテーテルは入れて・・健側を不利にしないひゅひゅ・・基本きほん」
トシキは一瞬ムッとなった。師長が笑っている。
「なにがおかしいんですか?」
「ふっほっ。あのトシキ先生がねえ・・たまにはヘマするんですねえ。ほっほ」
「ヘマ?それは言いすぎでしょう?」
「だる・・・やれやれ」
僕は次の部屋へと移った。
シローがサッとベッドサイドへ。
「イレウス+循環不全の77歳男性。循環不全は今のところなんとか」
「イレウスチューブは・・」
「いまは胃チューブだけです。午後にと思ってたんですが。IVHを自己抜去されちゃったんで」
抑制帯はしている。しかし患者によってはどうしばっても巧妙に抜け出せたりする。
こういうときは家族を呼んでついていてもらうか鎮静するしかない。
慎吾はレントゲンで腹部のガスを確認。
「あっちゃー。これは痛そうだな。小腸ガスが・・でも二ボーはないな」
「アホ。臥位でとった写真だよそれは」と僕。
「アホアホって・・・」
「座位の写真はこれ!」改めて渡す。
「イレウスチューブは簡単に入れれないのか?医長先生」
「だってイレウスチューブ入れるには、ベッドを移動させて1階の透視室でやらないといけないだろ?」
「胃透視する所でな・・・」
「ちょっと時間は食うからな。でもシロー。やっぱ今日してあげなよ。カテーテル検査は他のメンツがカバーするから」
シローは頭を下げた。
「まことに、胃管(遺憾)であります!」
「はあ?さむさむ!寒!おいみんな、聞いたか?アイアムサム!」
遠藤・弥生先生らは力なく笑っていた。
トシキは・・窓の外を見ている。
「おいトシキ・・・ごめんな!」
「・・・・どうぞ先に行っててください」
「はいよ・・・おい皆、行くぞ」
プライドが高すぎるんだよな・・・。しかし、大人になってこういう光景をよく見るようになったな。
ちょっと譲れば解決するのに、何がなんでも離さない主張。それにどれだけの価値があるのか。
平たく言うと、素直に<ゴメン>と言えなくなるんだな・・・。気持ちは分かる。
「じゃ、回診はこれで終了。軽症は各自が自主的に」
僕は廊下の中央に立っていた。
「トシキと慎吾は心カテを頼む。僕とザッキーは気管切開。シローはイレウスチューブを。研修の2人は1人ずつカテか気切の見学を」
事務長が詰所から走ってきた。
「いちょうせんせい!いちょうせんせい!」
「はあ?なんだ?」
「ひどいですよ先生!食事指導なんて!やらされて!」
「結局、栄養士呼んだんだろ?」
「ばれましたか?」
焦った演技の事務長は立ち止まった。
「お前の八百長演技はすぐに見抜けるよ。まず息遣いが荒すぎる」
「う・・・!」
「それと。大汗かいてない」
「う・・・!」
「何よりも。目が泳いでいる」
「へへ・・でも先生。大変は大変だったんですよ」
「ありがとな。栄養士は若い子を?」
「な、なんでそこまで分か・・・?」
「マイちゃんだろ?昨日はお泊りデートだろ?」
事務長はすぐ前方まで近づいた。
「ちょっと医長先生!なんでそれを知ってるんですか?なんで?」
「酔っ払って搬送されたとき、何もかも喋ってたじゃないか」
「あわわ。フタマタの事務員に聞かれたかなあ・・・?」
「彼女がお前から聞きだしたんだよ」
「医長先生。今度合コンが」
「手遅れ手遅れ!」
1歩退き、僕はコクッと頭を下げた。
「まことに遺憾であります・・・!以下同文!」
振り返り、ザッキーが退屈そうに待っている。
「さ。気切しよっか」
「サッサと行きましょうよ!」
「今日のザッキー変だぞ?」
「医長先生ほど変ではないですよ」
だが彼の肩は少し緊張で硬直している。
僕は強い力で揉んだ。
「肩の力抜け!」
「いたた!いたいな!」
「スレッガーさん!いてえ!いてえよ!あはは!じゃあ5分後な!」
その間、トイレで小を済ました。
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