サンダル休日 木曜日 ? 戦闘開始
2006年9月13日 救急室ではすでに数名が待機、僕らも加わった。
ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜・・・
なかなか到着しない。
僕は救急カートなど物品を確かめた。
「これは、これ、と・・・」
「オッサン。大丈夫だって!」後ろからピートが覗き込み、僕は後退した。
「念には念を」
「ここはオレの部屋だかんな。ではそろそろ・・・」
開いたドアを出て、近くに置いてあるタイヤの積み上げ(ピラミッド型)に、彼は登っていった。
雨はやんでいるが、風はまだ強い。
「よいせ、よいせ・・・おお!」
「どうした?」
「向こうは晴れだぜ!」
「だる・・・何のために登ったんだよ?」
ピートはうれしそうに、サインをしてきた。手話のようだがこっちは分からない。
ザッキーが目をしかめて見ている。
「ええと!なになに!救急車は!音を消して!こちらへ向かってる!」
「ザッキー!お前、手話が分かるのか?」
「いいえ。手振りでそんな気が・・」
「だるう・・・!でもそれっぽいな!」
どうやら<手話>の内容自体が怪しかった。
「あ、あれ!そう?」弥生先生のかよわそうな指が指したその先、救急車が3台やってきた。
国道から患者用駐車場へ入ってくる。ドまん前でゆっくりターン。バックしてくる。
「きたな!おいピート!降りて来い!」
「・・・・・」彼は上から見下ろしていたが・・
「おい早く降りて手伝え!」
「待てよ!中の状況は・・・」
「?」
「今度はスリガラスだ!見えねえ!」
数段飛ばしで、ピートは地面に舞い降りた。
僕は白衣に貼り付けたメモに走り書きしながら指示。
「と、とりあえず・・・1台目はピート!お前と弥生!いや弥生先生!」
僕は一番最初にハッチの開きそうな2台目に集中した。
「自分は1人で3台目を!」ザッキーも出てきた。
田中事務員が駆けつける。
「残り2台来ますが、交通外傷のようです!では外科系の先生方!」
外科系3人が軽く会釈、待機する。
2台目から出てきたのは・・・呼吸促迫だ。若い女性。喘鳴らしきものも混じる。
「ヒー!んどい!ヒー!」
「しゃ、しゃべらくなていい今は!」救急隊が無言で、ベッドに移す。
近くに立つ隊長らしき人物。この前と同じヤツだ。
「ちゃんと見てえなあ!先生!」
「バイタルはどうだったんだ?バイタルは!」
「ああ?バイタルだ?別に」
「別に?おい!」
「先生!患者さんを!」ナースが呼び覚ます。
「えっ?あ、ああ!」
聴診では喘鳴が著明。
「喘息か。多いな、うちの病院」
腕を見ると点滴の抜いた跡。
「さっき入ってたみたいだな。なにや救急から、こっちへ振られたんだ」
「喘息の治療ぐらいはあそこで」ナースが眉をしかめた。
「だろうけど、まだ不十分だったのかな・・・」
「ボスミンまでは必要ない酸素にステロイド・・・時間あったらCT、撮れるか?」
1台目、ピートが楽勝っぽく両手を挙げている。
「おーい、そっち手伝おうか?」
「なに?軽症か?」
「おとなしい、じいさんだ!」
じいさんが横になって、ただ僕らを見渡してるだけだ。バイタルも問題なし。
ピートはご満悦だった。
「悪いが、とりあえずの主治医はオレだな。すまんが重症はお前らが持つんだぜ!」
「点滴しますので、手を・・・手を!」弥生先生が座って、患者の左手を引っ張る。
患者は手をなかなか出してくれない。しかし時々、脈うつように体が震えている。
田中事務員が、近くのノートパソコンを打ち続ける。
「待てよ。この名前はたしか・・・!」
持ち物の保険証を頼りにか、彼は何か検索していた。
4・5台目が到着。外傷患者が運び込まれる。
外科系がとりかかる。
3台目、70台くらいの大柄女性。大汗で意識障害。
ザッキーは簡易血糖測定待ちつつ動脈血採取。
「あれ?血糖は177?たいしたことない・・・」
「レベルは200ってとこかな。頭部の病変は?熱は・・40度?」僕は体温計を外した。
「神経学的所見ははっきりしませんね・・・動脈血液ガスは今出ましたが!やや過換気!」
「CTいこうや!CT!」
点滴・酸素吸入しつつ、ベッドがガラガラ廊下へ運ばれた。
田中事務員が床に寝そべったままパソコン。
「んーと。はいはい!1台目のその患者さん!ピ!ピート先生!」
「なんだ。もう病棟に上げるぜ。さっさと退院を・・」
「離れちゃダメだー!」
叫びもむなしく、患者の腕はニュッと伸び、左右それぞれピート、弥生先生の上腕めがけて命中した。
「ぎゃっ!」あまりの痛さに、弥生先生はうずくまった。
「いてええ!」ピートも遅れてうずくまる。
じいさん患者は再び、両腕をふとんに隠した。点滴は知らない間に抜かれている。
血が少しずつベッドに拡がる。
田中君は動揺していた。
「す、すんません。逆でした!離れなきゃダメ!」
もう遅い。
「困ったな・・・この患者はもと拳闘家。ブラックリストに入ってる患者だ。脳梗塞でボケてはいるが・・・リハビリだけはしてたのかな?」
妙なところで納得していた。
僕は救急入り口を見て、思わず指差した。
「あ!また来たまた!」
また3台、向きをかえてバックで迫ってきた。
中からハッチが開いてくる。
「やる気、満々だな・・・!」
1人ずつ搬入、救急隊長がイラつく。
「ホラホラホラ!はよベッドあけんかい!」
ナースらはてんてこ舞いでシーツを用意する。
救急隊は待てず、その上に患者を移動する。
「そら!」
「(ナースら)ちょっとわああ!」
僕は重症そうな男性の横に行き、聴診。痩せ型中年。
「息を吸うと痛い?」
「痛いというか・・息が!息が!」
胸にいくつか術創のような箇所が3箇所。酸素飽和度は少量吸入で良。
「チューブ入れたこと、あるでしょう?」
「あ、あるある!い、今すぐ入れてくれ!」
隊長の頭のライトがまぶしく光る。
「お前、医長!」
「なんだ?」
「気胸なら、さっさとドレーン入れんかい!」
「そうはいくか!CT行こうぜ!」
ピートと弥生先生は、まだうずくまっている。
あばらでも折れたのか。
ザッキーは3台目患者を連れて出て、いない。
「くそ!あと2人の患者を!誰か!誰か!あっ?」
廊下にチラッと見えた影を追いかけた。
「おい!そこの男!」
白衣を着た男がピタ、と立ち止まった。
「手伝え!胸部不快に腹痛だ!さあ!」
「・・・・・・」
男はゆっくり、くるっと振り返った。すると・・・
「ザビタン!へいへい!」ニやけた、マゾっぽ看護士だ。
「なんだお前かよ・・でもいいや!手伝ってくれ!」
マゾっ子を引っ張ってくると、田中君がやってきた。
「医長先生!あと3台が向かってます!」
「なんだと?」
看護士はなぜか、嬉しそうにはしゃいでいる。
「ガーブラ!おおおお〜っ!」
「そこがまたマゾなんだよな・・・」
看護士はそう言いながらも、挿管チューブの準備、点滴準備に専念した。
放射線部の技師長が入ってくる。
「おいおい!CTばっかり行列作りおって!仕切るヤツはもっとしっかりしろ!あ、すんまへん医長先生」
「い、いや。いいんだ。すまんせん!」
しまった。全体像も把握しとかなければ。
とにかく今は、<マゾ>の手も借りたい・・・!
ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜・・・
なかなか到着しない。
僕は救急カートなど物品を確かめた。
「これは、これ、と・・・」
「オッサン。大丈夫だって!」後ろからピートが覗き込み、僕は後退した。
「念には念を」
「ここはオレの部屋だかんな。ではそろそろ・・・」
開いたドアを出て、近くに置いてあるタイヤの積み上げ(ピラミッド型)に、彼は登っていった。
雨はやんでいるが、風はまだ強い。
「よいせ、よいせ・・・おお!」
「どうした?」
「向こうは晴れだぜ!」
「だる・・・何のために登ったんだよ?」
ピートはうれしそうに、サインをしてきた。手話のようだがこっちは分からない。
ザッキーが目をしかめて見ている。
「ええと!なになに!救急車は!音を消して!こちらへ向かってる!」
「ザッキー!お前、手話が分かるのか?」
「いいえ。手振りでそんな気が・・」
「だるう・・・!でもそれっぽいな!」
どうやら<手話>の内容自体が怪しかった。
「あ、あれ!そう?」弥生先生のかよわそうな指が指したその先、救急車が3台やってきた。
国道から患者用駐車場へ入ってくる。ドまん前でゆっくりターン。バックしてくる。
「きたな!おいピート!降りて来い!」
「・・・・・」彼は上から見下ろしていたが・・
「おい早く降りて手伝え!」
「待てよ!中の状況は・・・」
「?」
「今度はスリガラスだ!見えねえ!」
数段飛ばしで、ピートは地面に舞い降りた。
僕は白衣に貼り付けたメモに走り書きしながら指示。
「と、とりあえず・・・1台目はピート!お前と弥生!いや弥生先生!」
僕は一番最初にハッチの開きそうな2台目に集中した。
「自分は1人で3台目を!」ザッキーも出てきた。
田中事務員が駆けつける。
「残り2台来ますが、交通外傷のようです!では外科系の先生方!」
外科系3人が軽く会釈、待機する。
2台目から出てきたのは・・・呼吸促迫だ。若い女性。喘鳴らしきものも混じる。
「ヒー!んどい!ヒー!」
「しゃ、しゃべらくなていい今は!」救急隊が無言で、ベッドに移す。
近くに立つ隊長らしき人物。この前と同じヤツだ。
「ちゃんと見てえなあ!先生!」
「バイタルはどうだったんだ?バイタルは!」
「ああ?バイタルだ?別に」
「別に?おい!」
「先生!患者さんを!」ナースが呼び覚ます。
「えっ?あ、ああ!」
聴診では喘鳴が著明。
「喘息か。多いな、うちの病院」
腕を見ると点滴の抜いた跡。
「さっき入ってたみたいだな。なにや救急から、こっちへ振られたんだ」
「喘息の治療ぐらいはあそこで」ナースが眉をしかめた。
「だろうけど、まだ不十分だったのかな・・・」
「ボスミンまでは必要ない酸素にステロイド・・・時間あったらCT、撮れるか?」
1台目、ピートが楽勝っぽく両手を挙げている。
「おーい、そっち手伝おうか?」
「なに?軽症か?」
「おとなしい、じいさんだ!」
じいさんが横になって、ただ僕らを見渡してるだけだ。バイタルも問題なし。
ピートはご満悦だった。
「悪いが、とりあえずの主治医はオレだな。すまんが重症はお前らが持つんだぜ!」
「点滴しますので、手を・・・手を!」弥生先生が座って、患者の左手を引っ張る。
患者は手をなかなか出してくれない。しかし時々、脈うつように体が震えている。
田中事務員が、近くのノートパソコンを打ち続ける。
「待てよ。この名前はたしか・・・!」
持ち物の保険証を頼りにか、彼は何か検索していた。
4・5台目が到着。外傷患者が運び込まれる。
外科系がとりかかる。
3台目、70台くらいの大柄女性。大汗で意識障害。
ザッキーは簡易血糖測定待ちつつ動脈血採取。
「あれ?血糖は177?たいしたことない・・・」
「レベルは200ってとこかな。頭部の病変は?熱は・・40度?」僕は体温計を外した。
「神経学的所見ははっきりしませんね・・・動脈血液ガスは今出ましたが!やや過換気!」
「CTいこうや!CT!」
点滴・酸素吸入しつつ、ベッドがガラガラ廊下へ運ばれた。
田中事務員が床に寝そべったままパソコン。
「んーと。はいはい!1台目のその患者さん!ピ!ピート先生!」
「なんだ。もう病棟に上げるぜ。さっさと退院を・・」
「離れちゃダメだー!」
叫びもむなしく、患者の腕はニュッと伸び、左右それぞれピート、弥生先生の上腕めがけて命中した。
「ぎゃっ!」あまりの痛さに、弥生先生はうずくまった。
「いてええ!」ピートも遅れてうずくまる。
じいさん患者は再び、両腕をふとんに隠した。点滴は知らない間に抜かれている。
血が少しずつベッドに拡がる。
田中君は動揺していた。
「す、すんません。逆でした!離れなきゃダメ!」
もう遅い。
「困ったな・・・この患者はもと拳闘家。ブラックリストに入ってる患者だ。脳梗塞でボケてはいるが・・・リハビリだけはしてたのかな?」
妙なところで納得していた。
僕は救急入り口を見て、思わず指差した。
「あ!また来たまた!」
また3台、向きをかえてバックで迫ってきた。
中からハッチが開いてくる。
「やる気、満々だな・・・!」
1人ずつ搬入、救急隊長がイラつく。
「ホラホラホラ!はよベッドあけんかい!」
ナースらはてんてこ舞いでシーツを用意する。
救急隊は待てず、その上に患者を移動する。
「そら!」
「(ナースら)ちょっとわああ!」
僕は重症そうな男性の横に行き、聴診。痩せ型中年。
「息を吸うと痛い?」
「痛いというか・・息が!息が!」
胸にいくつか術創のような箇所が3箇所。酸素飽和度は少量吸入で良。
「チューブ入れたこと、あるでしょう?」
「あ、あるある!い、今すぐ入れてくれ!」
隊長の頭のライトがまぶしく光る。
「お前、医長!」
「なんだ?」
「気胸なら、さっさとドレーン入れんかい!」
「そうはいくか!CT行こうぜ!」
ピートと弥生先生は、まだうずくまっている。
あばらでも折れたのか。
ザッキーは3台目患者を連れて出て、いない。
「くそ!あと2人の患者を!誰か!誰か!あっ?」
廊下にチラッと見えた影を追いかけた。
「おい!そこの男!」
白衣を着た男がピタ、と立ち止まった。
「手伝え!胸部不快に腹痛だ!さあ!」
「・・・・・・」
男はゆっくり、くるっと振り返った。すると・・・
「ザビタン!へいへい!」ニやけた、マゾっぽ看護士だ。
「なんだお前かよ・・でもいいや!手伝ってくれ!」
マゾっ子を引っ張ってくると、田中君がやってきた。
「医長先生!あと3台が向かってます!」
「なんだと?」
看護士はなぜか、嬉しそうにはしゃいでいる。
「ガーブラ!おおおお〜っ!」
「そこがまたマゾなんだよな・・・」
看護士はそう言いながらも、挿管チューブの準備、点滴準備に専念した。
放射線部の技師長が入ってくる。
「おいおい!CTばっかり行列作りおって!仕切るヤツはもっとしっかりしろ!あ、すんまへん医長先生」
「い、いや。いいんだ。すまんせん!」
しまった。全体像も把握しとかなければ。
とにかく今は、<マゾ>の手も借りたい・・・!
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