気胸を繰り返している患者。患者は今回もドレーンでの治療を希望した。 

 ザッキーは患者に説明し、チューブの目印をマジックで。
「ここだな・・・よし!」
 何回か超音波を当て、指でトントンと打診。

 説明し、局所麻酔。

 ぷす、とメスで穴があき、チューブがズブ、と入る。
局所麻酔は効いてるものの、思わず反射的にのけぞる患者。

「これで・・いいですかね」ザッキーはあと消毒などにかかった。
僕は見届け、腹痛の患者のデータを確認。

「・・・内視鏡、しとくぞ」
「先生。もうクタクタで・・・」近くの老ナースが息切れしていた。
「採血では白血球が若干増えてて、どうもこれがひっかかる」
「腹痛とおっしゃってましたが、どうやら背部痛のようですね」
「背部?じゃあ整形の病気かな・・でも十二指腸は見ておきたいよな」

慎吾がやってきた。

「腎不全だったな。やっぱりな。さっきの」
「なにが<やっぱり>だ。クレアチニンは?」
「4.4もある。どうやら、在宅でほっらかしだったようだぞ!」
「そういうの多いな。最近・・・では輸液しながら入院か」

弥生先生がやってきた。
「呼吸困難の患者さん。酸素マスク5リットル。これが胸部CTです」
「線維化?しかし全体的にだな・・・典型例ではない。というかこれは」

呼吸困難があるため、画像そのものがブれている。
顆粒状の陰影なのか、線状の陰影なのか鑑別が難だ・・・

「のう胞のような影もあちこちにある。中途半端な所見だが、全体に及んでいるな。間質性肺炎にしても、特殊なタイプかもしれないな」
「生検しましょう!」
「この状態で?無理がある!」
「大学ではすぐに生検を・・・」
「それよりも、ステロイドの是非だよ。この状態に気管支鏡での生検はリスクが高いし、結果まで時間がかかる」
「大学に持っていったら、結果は早く出ます」弥生先生は譲らない。
「それは大学にいたらの話だろ?ここは大学じゃない!」

 確かに検査は大学に回せば速いものも多い。しかし民間では、検査は通常<業者>に委託してる。間接的な業務なので時間はよりかかる(遠方の研究所でまとめて、それから検査する)。急ぎの検査でも、そのプロセスのためより多くの日がかかってしまう。

弥生先生は少し残念そうだった。

「ここは、大学と仲、悪いですもんね・・・」
「別に。俺たちが悪いわけじゃない。あいつらだ。な!慎吾!」僕は胃カメラで観察した。

 どことなく、ダークサイドに片足突っ込んだ僕だった。

 十二指腸へ向かう前に、食道・胃を観察。

 近くに置いてある胸部レントゲンでは大動脈拡大はなく、腹部CTもこれといったのがない。
 腹部レントゲンでも小腸ガス増えているわけでもない。大腸ガスは多い。

「え?なにが?」慎吾はワンテンポ遅れて聞いてきた。
「出血はないな・・・次、十二指腸!」
カメラを進めると同時に、体全体を右にサッとひねる。

十二指腸球部。その奥・・・も出血もなく、潰瘍もない。
「ないな・・なにも」
「考えすぎだったな」慎吾は付け加えた。
「そうだと思ったんだが・・・ん?」

近くでピートが、心電図を広げて興奮している。
「背部痛って言ってたな?」
「ああ。どうしたんだ?」

 胃カメラした患者の心電図を、ピートは破りそうにしながら持ってきた。
「これ!」
「は?・・・・ああ!し、しまった!」

僕はあまりのショックに愕然とした。

慎吾は知りたがった。
「?」
「では・・・この患者さんの家族は?」調べると、さきほど到着したそうだ。
「総統に電話します」ザッキーが電話を取った。
「カテーテル検査の準備を!慎吾も手伝え!」

慎吾は釈然としてなかった。
「あ、ああ。そうだな。カテーテルな!いるよな!」
「じゃ、外の家族に説明してくれ!」
「俺がか?」
「そうだよ。病名と合併症のことなど!」
「・・・・・」
「同意書ももらっておけよ!」
「俺が説明?」
「お前が主治医だ。これは医長命令!」

慎吾はもう一度、心電図を眺めた。
「・・・・・・・」

家族は外から入ってきた。

 僕はさきほどの気胸の患者を観察、主治医のザッキーは入院の指示。
 他のメンツは検査の出入り、処置にあたっていた。

入ってきた家族に、ピートがイスを出す。
「さ、どうぞ!こちらへ!」

家族がこれまた・・・3人、いや7人・・・それ以上だ。
慎吾は思わず立ちふさがった。

「せ!説明は病棟で!」
「アホが!今ここで説明せえよアンポンタン!」ピートが言い残し、近くのレスピレーターを調節に回った。

僕は残りの患者のチェックに回りつつ、慎吾を眺めた。
「さ。慎吾先生。主治医として説明を!」

10名ほどの家族に圧倒され、慎吾はしばらく押し黙った。
「背中が痛いということで、来られまして。起き上がれない状態です」

 家族の視線が、慎吾に集中した。その真ん中、長男らしき中年男性が口を開く。

「それは分かってんねや。そしたらな、真珠会の先生がな。詳しく検査しましょうって」
「・・・・・」
「真珠会はなんやらその、検査の機械が点検中やって。なので信頼できる病院に行きましょうって言われたんや」
「ええ」
「で。なにで調べるんですかいな?」
「カテーテル・・です。心臓カテーテルを」
「しんぞう?じんぞうちゃいますの?」
「しんぞう。しんぞうです」

どうやら・・・慎吾はよく分かってない様子だった。

「背中が痛いのに、なんで心臓やねん?真珠会の槙原先生は、癌かもしれんって」
「まき・・・」
「槙原先生やがな。循環器専門医の。どうみゃくりゅうもないし、心臓は関係ないやろって」
「・・・・・・」
「あんた、何の専門医?」
「わたし?わたしは・・・」

 そんなの答える必要はないが、最近の患者は平然とこういう事も聞いてくる。

 しかし、慎吾は

「わたしは・・・わたしは・・・わたしはキャンディ!」

とは言わなかった。

「わたしは、はい・・・専門医もってますけど。循環器ではなくて。その・・・」医師免許のみの慎吾は戸惑った。

「か、彼は消化器内科の専門でして」僕は近寄り、説明を代わった。

慎吾はサッと手を差し伸べた。
「あ、では。か、彼に説明をお願いします」
「なっ・・・」
「ユウキ先生。た。頼むよ」

慎吾はプライドを守り、僕に譲った。

「俺が説明を?いいのか?」
「あ、うん。やってくれ。オホン。というか、やれ」

こ、この男は・・・!

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