忘年会やいろんなイベントにおける、席の配置は権力・人間関係の構図をそのまま物語る。
 官公立のような厳格なところは最初から順番にテーブル・席が設けれられているものだが、民間では設けなくても既に出来上がってる地図のようなものがある。

 さきほど自分が訪問したヘルパーの方々のテーブル(年少・年配)、若手ナースのテーブル。そして中堅どころにさしかかる。
ここには・・若手いじめの、いやいや、それりに修羅場をくぐって発言権のある者たちが、胸を張って集まっていた。というか飲んでいた。

「おう!」
「(一同)・・・・・」
「ごめんごめん遅れて!ところで肉はないかい?」
すると横から頭をパカッと叩かれた。

「澪ねえさん!ねえ、おねえさん!」

 酔っ払った若手ナースは僕の腕をひねきり離さない。するとテーブルの中の上座から、その澪ナースが背を伸ばした。
 このナースは・・・夜間の当直もこなし、リーダーも当たり前にやる。先日の話のように、こちらは<ダンナの相談>に乗ったりと、いろいろとアドバイスしたりすることもあった。
 ところがその後、彼女が飲みに行く約束をしようとして僕が断り、それから彼女の態度が攻撃的であった。
 マゾ看護士はそれを指摘するが、なぜそこまで言われないといけないのか。平均点以上だとしても彼女は独身ではないので、とても個人的に行くことはできない。

「なんですか?何しに来たんですか?」

 澪さんも既に酔っ払い、さらに攻撃的だった。家来と思われるその他は、葬儀のようにうつむいている。

「な、何しにって。オレはその、挨拶まわりに・・・」
「今日のことは、先生がいけないんですよ!」
申し送りを彼女が投げ出した件だ。

「なに?それは違うだろ!」
「先生が、先生がサッサとしろとか、そんなひどいこと言うから!」
「えっ?それそうだ!いやそれうそだ!」

 しかし、彼女の言い方に何か説得力があり、こちらの言葉も詰まってしまった。
「あっ!うっ?えっ?澪さん!嘘はないだろ!嘘は!」
「ううん!あたし、聞いたもん聞いたもん!」
女児のように泣き出す。僕にとっての女の嫌な一面だ。時々ある。

「なな・・・?」
「<サッサとしろ!お前ののろい申し送りなんか、聞きたくない。ミチルのほうがええ!>って!」
「おいおい作りすぎだろ!そりゃあ!」

なぜか、反論するほどみじめになってきた。

 しかし、鬼の面をかぶった女というものは・・・。何をするか分からないというのは本当だ。虚構を築いてでも、敵を根本的に排除する。これ以上ないといううくらい冷酷、かつ正確に。

「走り出した感情が止まらないわけだ、な・・・!」

 周囲のナースらは、いまだに大きく頷いている。僕の有罪が確定した。そのうちの茶髪1人が、やっと口を開いた。

「げっぽ」

ただのゲップだった。しかし彼女は続けた。

「あんね先生。本人がそうやって言うてるんですよ?なら間違いないでしょう?」
「そんならよけい、怪しいじゃないか。ぶつぶつ」
「ミチルの頃はミチルの頃はって・・・あたしらにそれを求めても」
「い、言うてないってのに・・・」
「でもそう感じられるんです!」

 鋭い・・・そんなこと言ったつもりはないが、彼らのアンテナは確実に電波を捉えていた。
 それとない行動、言葉の端々から分かるのだろう。

「医長先生はいったんここを出るからあれですけど」澪ナースが、また口を開いた。
「ま、まあな・・」
「今後もそういう雰囲気があるのなら!私たち辞めさせていただきますので!」

周囲の5人は黙って下を向いていた。

「や、辞めるこたあないだろ・・・」
「いいや!今度は本気です!」
「いきなりナースが軍団でやめたら・・」
「軍団?」
「いやいや、集団で辞めたら・・スタッフだけでなく患者にも迷惑が」
「知りません!それはここの経営者!事務長がなんとかするんじゃないですか?」
「澪さん。どうしてそう他人みたいに・・・」
 
 すると、後ろからさっきの新人ナースに脚を引っ張られた。他の1人が頭を持ち、また横倒しにされて運ばれる。

「やめろやめろ!」
「もう別のテーブルに!行ってください!」美野ナースは必死で脚を抱えていた。
「行くから!歩けるってオレは!」
「あそこのテーブルに!」
「なに?」

暗闇に目をしかめると・・・

「おいおい!あそこは療養のナース・・オーク軍団じゃないか!」
向こうのテーブル、7〜8人がブヒブヒ、と手招きしている。その周囲に2〜3人、何やら一生懸命作業をしている。
箱に何かどんどんつめていた。

「あいつら何を?ああっ!」
よく見ると・・・テーブル上の大きな皿から、次々と肉をタッパーに移しかえていた。
「どうやらないと思ったら!お前ら!すべてはこのテーブルに!ぎゃあ!」

 そのままテーブルの上に、放り投げられた。ちょうど空になった皿の上に。
「うわあ!食われる!」
「ブヒブヒ」1人が覗き込む。
「ひいい!」
「・・・まず脱がすか!ブヒブヒ!」

オークらは一斉に飛びかかってきた。

「ぎゃああああ!」

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