サンダル医長 土曜日 ? タクシー・ドライバー
2006年11月18日コメント (1)友人の家でお世話になった僕は、その新居のピカピカのドアを開けた。
「では・・どうもすんません」
「いえいえ。とうちゃんがいつも先生のことを」
「?」
「今まで友人らしい友人が、1人もいなかったもので」
「そ、そうでしょうか・・彼は皆から、よく好かれてて」ホントか?と思いながら先走る褒め言葉。
「ユウキ先生が、いろいろしてくださって、本当に助かると」
「いやいや、自分が彼を助けたことなんて!」
山ほどある。
「先生、奈良に行かれてもお体、壊さぬよう」
「ありがとうございます」
「それとこれ。傘を!」
見上げると、曇っている。
「し、しかし悪いです。傘まで・・」
「いえいえ。折りたたみですので!」
親切にも、傘まで持たせてくれた。
「それと、昨日の下着など・・」
「ああ、すんません!」立派なブランドの紙袋。
「お粗末な袋で」
「なな!なにをおっしゃいます!自分はいつもツタヤのオレンジ袋で・・」
「では。よろしゅう」
「はい。グンゼはまたお返しします!」
「?」
バタン、とドアは閉まった。一瞬だが・・・彼女の眉間にシワが寄った。
「さて・・・」
真吾より一足遅れて、タクシー券にて富田林から天王寺方面へ。1時間はかかるだろう。
タクシーの運転手は・・かなり喋る人だった。朝にはこたえる。
「さっきのタクシー券見たところ・・・どっかの会社の方でっか?」
「え?う、うん。まあ」
「サラリーマンは大変ですなあ!」
ハンドルを余裕で切りながら、勝ち誇ったような運転手。50代くらいか。
「サラリーマン・・確かにそうですね」
「こんな時間に出勤したら・・天王寺方面は10時前くらいちゃうの?」
「いえ。自分は転勤が目の前で・・・」
「左遷やな?」
「・・・かもしれませんね」敢えて、同意した。
車は渋滞に入った。
「なァお客さん。なんか、ええ話ないですか?」
「ええ話?」
「わしな、もうこの仕事やめたいねん。最初と話が違うねん」
「それは自分も・・そうでしたが」
「給料は規定どおりやけどな。ノルマがあんねん。この業界には。ヘタしたら自腹切らないかん」
「割に合わないですね・・・僕らもある意味そうですが」
「そうやろそうやろ?上の人間は、もう何考えてんねん!ああ、赤やった」
「うおっ?」
焦った・・・。タクシーはすでに交差点を突っ走っていた。
「でなお客さん。ご主人。上の人間はなァ、自分の個人の利益だけ出たらそれでええねん。政治家とかもそうやろ?会社やお国のため、ちゃうで」
「自分も、最近そう思うことが」
「下の人間がな、ヒイヒイ言おうと家族がどうなろうと知ったこっちゃないねん!」
「なんとか、儲ける工夫ってのは?」
「そりゃ、運だがね。アンタをこうして大阪市内に乗せて、そこで富田林行きを乗せたら無駄がないねん」
「見つけるのは難しいですよね」
「せや。昔はなァよかったんだけどなァ!こっちから客断って、仲間と路上駐車して宴会して!今日はああ、もうやめた〜っと!という具合にな!」
なんだ。この人。バブルの汁を吸ってるじゃないか。おもむろに。その1滴すら飲んでない僕には、何の感慨もなかった。
おそらく、その好景気というのは・・・みせかけだけの平和だったようだ。せめて心の準備すらできてなかった人間が、過去ばかりを語る。
そういう人間はゴメンだ。
「聞いてるんか?お客さん」
「え、ええ」
「お客さんとこも、いろいろ大変なんじゃろ?な?な?」
「詳細は話せませんが・・・ライバル企業が近所に進出してくるようなんです」
「チェーン店みたいな、でっかいのが?」
「はい。規模的には既にうちの負けでして。でも当院・・当企業は、単体でもそれに立ち向かっていこうと」
「あ、それもうやられとるわ」
「え?」
「やられとる」
渋滞を抜け出し、坂を降りまた登る。
「やられとるって。ご主人」
「なんで・・・」
「あんたんとこの会社が危ないって、下っ端のアンタが気づいてるんやで?末端に情報が来るってことは、事態が起こってかなり時間が経っとる」
「?」
「つまり上の人間がやな。もう次の脚本を作り上げてるってわけや」
「脚本ですか・・・方針を?」
「せや。上の人間の足場が固まったんや。わしの予測では、自分を助けるためにその大組織と取引するとかな」
「ど、どんな?」
「さあ。それは知らん」
「まさか、下の人間をリストラ・・・」
「ああ、多いわな。今。首きり」
「僕らの世界では、リストラっていう言葉は・・」
「は?辞書にはないか?ヘンな会社やなァ」
ようやく大阪市内に入った。自転車やバイクも増えてきた。
僕は痛む腰を直し、席を横にずらした。
「何か、水面下で行われてるかも、ですか」
「そりゃアンタ、そうだよ!青いねえ!」
「すでにブルーですよ。転勤先が僻地だし」
「あ、それもよくある!アンタひょっとしたら・・まあまあ実績あったほう、ちゃうの?」
「ある程度は・・・」
「それもよく、あんねん!おっとまた赤やった」
「ちょっと!」
今度はあちこちからクラクションが鳴らされた。
「へへ、ドンマイドンマイ!でな・・・どこまで話したかの?」
「僕に実績があるかって・・・ええ、そこそこは」
「今度は僻地で実績上げて、売り上げ伸ばせってことやろ。たぶん。そうすることで、2重も3重も働かすんや。血ヘド出るまで」
「ひええ・・・」
「辞めるようにも、辞めようがないわよな。今の時代、就職難やし」
「いや、それは・・・」医者の場合、そこは事情が違ってた。
「無理やって!今んとこが一番!わしも、そう思ってやってきたもん!」
このオジサン、どっちなんだ・・・?結局今の環境に満足していて。足元の接着剤のせいとでもいうのか・・・。
「へっへ!長いものには巻かれる!それでええやろ!」
「・・・・・」
「でもな。巻かれたらけっこうこれが・・あったかいねん!」
そういう幸せも、ありかもしれんのよなァ。
「さ。着いたで。ここで降りいゃ」
指定した場所より、離れたところだ。
「おじさん。もうちょっとまだ先・・・」
「ああダメダメ。あそこは車が停めにくい。さ!さっさと降りてえな!値段は書いとくから!」
「あっ・・・?」
車を出たとたん、ブオオオン、とタクシーは発進した。
「タクシー券1万円のが2枚。メーターの値段は1万1千円・・・あのオヤジ。さては!」
券の値段、多めに記入するつもりだ、な・・・!
傘と紙袋をブルンブルン回し、一路病院へ。
「では・・どうもすんません」
「いえいえ。とうちゃんがいつも先生のことを」
「?」
「今まで友人らしい友人が、1人もいなかったもので」
「そ、そうでしょうか・・彼は皆から、よく好かれてて」ホントか?と思いながら先走る褒め言葉。
「ユウキ先生が、いろいろしてくださって、本当に助かると」
「いやいや、自分が彼を助けたことなんて!」
山ほどある。
「先生、奈良に行かれてもお体、壊さぬよう」
「ありがとうございます」
「それとこれ。傘を!」
見上げると、曇っている。
「し、しかし悪いです。傘まで・・」
「いえいえ。折りたたみですので!」
親切にも、傘まで持たせてくれた。
「それと、昨日の下着など・・」
「ああ、すんません!」立派なブランドの紙袋。
「お粗末な袋で」
「なな!なにをおっしゃいます!自分はいつもツタヤのオレンジ袋で・・」
「では。よろしゅう」
「はい。グンゼはまたお返しします!」
「?」
バタン、とドアは閉まった。一瞬だが・・・彼女の眉間にシワが寄った。
「さて・・・」
真吾より一足遅れて、タクシー券にて富田林から天王寺方面へ。1時間はかかるだろう。
タクシーの運転手は・・かなり喋る人だった。朝にはこたえる。
「さっきのタクシー券見たところ・・・どっかの会社の方でっか?」
「え?う、うん。まあ」
「サラリーマンは大変ですなあ!」
ハンドルを余裕で切りながら、勝ち誇ったような運転手。50代くらいか。
「サラリーマン・・確かにそうですね」
「こんな時間に出勤したら・・天王寺方面は10時前くらいちゃうの?」
「いえ。自分は転勤が目の前で・・・」
「左遷やな?」
「・・・かもしれませんね」敢えて、同意した。
車は渋滞に入った。
「なァお客さん。なんか、ええ話ないですか?」
「ええ話?」
「わしな、もうこの仕事やめたいねん。最初と話が違うねん」
「それは自分も・・そうでしたが」
「給料は規定どおりやけどな。ノルマがあんねん。この業界には。ヘタしたら自腹切らないかん」
「割に合わないですね・・・僕らもある意味そうですが」
「そうやろそうやろ?上の人間は、もう何考えてんねん!ああ、赤やった」
「うおっ?」
焦った・・・。タクシーはすでに交差点を突っ走っていた。
「でなお客さん。ご主人。上の人間はなァ、自分の個人の利益だけ出たらそれでええねん。政治家とかもそうやろ?会社やお国のため、ちゃうで」
「自分も、最近そう思うことが」
「下の人間がな、ヒイヒイ言おうと家族がどうなろうと知ったこっちゃないねん!」
「なんとか、儲ける工夫ってのは?」
「そりゃ、運だがね。アンタをこうして大阪市内に乗せて、そこで富田林行きを乗せたら無駄がないねん」
「見つけるのは難しいですよね」
「せや。昔はなァよかったんだけどなァ!こっちから客断って、仲間と路上駐車して宴会して!今日はああ、もうやめた〜っと!という具合にな!」
なんだ。この人。バブルの汁を吸ってるじゃないか。おもむろに。その1滴すら飲んでない僕には、何の感慨もなかった。
おそらく、その好景気というのは・・・みせかけだけの平和だったようだ。せめて心の準備すらできてなかった人間が、過去ばかりを語る。
そういう人間はゴメンだ。
「聞いてるんか?お客さん」
「え、ええ」
「お客さんとこも、いろいろ大変なんじゃろ?な?な?」
「詳細は話せませんが・・・ライバル企業が近所に進出してくるようなんです」
「チェーン店みたいな、でっかいのが?」
「はい。規模的には既にうちの負けでして。でも当院・・当企業は、単体でもそれに立ち向かっていこうと」
「あ、それもうやられとるわ」
「え?」
「やられとる」
渋滞を抜け出し、坂を降りまた登る。
「やられとるって。ご主人」
「なんで・・・」
「あんたんとこの会社が危ないって、下っ端のアンタが気づいてるんやで?末端に情報が来るってことは、事態が起こってかなり時間が経っとる」
「?」
「つまり上の人間がやな。もう次の脚本を作り上げてるってわけや」
「脚本ですか・・・方針を?」
「せや。上の人間の足場が固まったんや。わしの予測では、自分を助けるためにその大組織と取引するとかな」
「ど、どんな?」
「さあ。それは知らん」
「まさか、下の人間をリストラ・・・」
「ああ、多いわな。今。首きり」
「僕らの世界では、リストラっていう言葉は・・」
「は?辞書にはないか?ヘンな会社やなァ」
ようやく大阪市内に入った。自転車やバイクも増えてきた。
僕は痛む腰を直し、席を横にずらした。
「何か、水面下で行われてるかも、ですか」
「そりゃアンタ、そうだよ!青いねえ!」
「すでにブルーですよ。転勤先が僻地だし」
「あ、それもよくある!アンタひょっとしたら・・まあまあ実績あったほう、ちゃうの?」
「ある程度は・・・」
「それもよく、あんねん!おっとまた赤やった」
「ちょっと!」
今度はあちこちからクラクションが鳴らされた。
「へへ、ドンマイドンマイ!でな・・・どこまで話したかの?」
「僕に実績があるかって・・・ええ、そこそこは」
「今度は僻地で実績上げて、売り上げ伸ばせってことやろ。たぶん。そうすることで、2重も3重も働かすんや。血ヘド出るまで」
「ひええ・・・」
「辞めるようにも、辞めようがないわよな。今の時代、就職難やし」
「いや、それは・・・」医者の場合、そこは事情が違ってた。
「無理やって!今んとこが一番!わしも、そう思ってやってきたもん!」
このオジサン、どっちなんだ・・・?結局今の環境に満足していて。足元の接着剤のせいとでもいうのか・・・。
「へっへ!長いものには巻かれる!それでええやろ!」
「・・・・・」
「でもな。巻かれたらけっこうこれが・・あったかいねん!」
そういう幸せも、ありかもしれんのよなァ。
「さ。着いたで。ここで降りいゃ」
指定した場所より、離れたところだ。
「おじさん。もうちょっとまだ先・・・」
「ああダメダメ。あそこは車が停めにくい。さ!さっさと降りてえな!値段は書いとくから!」
「あっ・・・?」
車を出たとたん、ブオオオン、とタクシーは発進した。
「タクシー券1万円のが2枚。メーターの値段は1万1千円・・・あのオヤジ。さては!」
券の値段、多めに記入するつもりだ、な・・・!
傘と紙袋をブルンブルン回し、一路病院へ。
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