長岡会長とかいうじいさんは、落ち着きない顔で怒っていた。
しかし、僕の顔を見ただけで僕と分かったのか。初対面なのに・・・。

 おそらく、何かでマークされているのだろう。

「ま、奈良に行くのはええけど!」
「?」
「サボらずに仕事して、ちゃんと戻るんやぞ。それと体壊さんようにしてもらわんとな!」
「・・・・・・」

事務長が何度も手でさえぎり、やっと主導権を握った。

「ですか?いいですか?では、私から。すみません。会長さま」
「さっさとやれいや!さっさと!うぐあ!痰が!ぺっぺっ」

吐いた痰で、灰皿の灰が舞う。事務長は見届けている。

「はっ・・では。ユウキ先生が本日、奈良の方へ出張されて、3ヶ月間の間勤務される真田第二病院・・・厳密には、名前が変わるのは明日ですが」

第二病院、か。

新しく出発する病院にしては地味な名前だな・・・。

ところでみな、僕を見つめている。

「ドライバーはうちの職員が。今日の昼に出発して、生駒山を越えて奈良方面へ。夕方に役場で調印、それから会議を済ませて、やっと引継ぎとなります」
「まさかその日の晩は、病院で当直とか?」と聞いた。
「ええ、そうなりますね」

そうなりますねって、おい・・・。さらっと言うなよ。

「で、本題はここから。トシキ先生お願いします」
「はい」氷の表情をしたトシキが、いったん僕を補足して喋りだした。

「本来、真珠会としては拠点の千里中央から、奈良に主力の第二病院を置く予定です。院長は<ハカセ>先生。この先生はユウキ先生のもと・・同僚?ですよね」
「あ。ああ。一緒に働いたことはある。禿げてるヤツだろ。知能指数は1300かな・・」

(沈黙)

「チッ。あいつ裏切りモンがぁ・・・!」マーブルが舌打ち。

「彼らの動きを、特にここ数日ですが、探ってみました」トシキはノートパソコンを開いて見だした。
「えっ?お前・・何?」
「周辺の病院を一通り巡回し、事務長も交えて探索しましたが、競合できそうな有力な病院はなく」

淡々と喋るのが、この男の怖いところ。

「・・・・・・なんだお前ら?誰?」
「当初予定の民間病院のみの戦力となりそうです。勝負は最初から見えてます。300床 対 200床。医師の能力も劣ってます」
「悪かったな!」
「いえ。ユウキ先生が行かれることで状況は多少変わるかもしれませんが、有意差はないでしょう。で、そのハカセ院長らの今後の動きですが」
「ほお?」

「こらお前!いちいちうるさいぞ!けっ!」会長は、つばを飛ばしまくった。

「ユウキ先生。ハカセって先生が、真珠会のグループから逸脱した行動をとりつつあるのはご存知ですか?」
「はあ?知るわけないだろが?」
「言ってなかったのか?君たち」トシキは、僕の両側のドクターらに問いかけた。

なんにも事情を知らない僕は、ただただ呆れるだけだった。

「彼らの発想には、非常に危険なところがあります。彼らの属していた救急病院は以前、真珠会にのっと・・いや、合併吸収となって」
「あ。今お前<乗っ取り>って。あはは!は・・・」しかし誰も、笑わない。
「また、独立させてもらう形になった。で、第二病院を新たに背負って、君主に忠誠を尽くすかと思いきや独自の権利を主張して・・」
「そりゃ、尽くすわけないだろ・・・」

葉巻をくわえた男が、腕組みして代わった。

「オホン。この間の医師会の懇親会、お前ら途中で抜け出したから!まあたこんな話をせないかんのか!いいか!よく聞け!」
「・・・・・」
「お宅らが医師会を勝手に抜け出した後、そういう話があったのだ。で・・・医師会としては、このような混乱は避けたい。なので具体的な対策として、彼らの人員補給先である、大学とのパイプを我々が切る」
「・・・・・パイプカット?」
「(無視)僻地だしどうせ医者は来ないとは思うが、これ以上は許さん。できれば真田病院にお願いして、周囲の病院とともに叩いて欲しかったが・・ダメだ。協力が見込めん。計画は半端に終わったな」
「あの。オレ今日そこへ行くんですけど・・」
「ま、いい。時間稼ぎをしてもらう。そこの町長は3ヶ月でどっちの病院を存続さすか決めるとか言ってるが、それまでに交渉して店じまいさせる。潰れん程度に病院を維持しろ」
「維持って・・・」

まあ、適当に遊んでろってことか・・・。

どうやら、とんでもない陰謀に巻き込まれたようだ。

 だが知らなかったな・・・。うちも結局は、真珠会や医師会の単なるコマじゃないのか?

 トシキもスパイみたいなことしやがって・・・。

 エロビデオの件で傷ついてるのかと、心配するんじゃなかったな。もう思いやりは持たん。

横のシローが頷いた。
「ユウキ先生。すみません。先生にはこういう話はするなって」
「事務長がか?」
「ええ・・・トシキ先生も」
「あいつら、あとで蹴飛ばしてやるからな。でももう、こういうのは慣れてんだよ。オレ」

 いつも、僕の知らないところで話が進んでいる。末端の哀しさよ・・・。

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