サンダル医長 土曜日 ? 消え行く平和
2006年11月27日 いつものように、事務長がマスターダブルの上に立つ。拡声器を片手に。
『はいはい。では始めますね。今週も、みなさんご苦労様でした。<キーン!>』
「(一同)うわああっ!」みな思わず両耳を押さえた。
『先ほど上層部会議がありまして。それの決定事項をお伝えします』
車いすの会長、葉巻男の姿は消えている・・・。
『本日、当院よりユウキ先生が奈良に向けて出発いたします。運転手の看護士、それと看護部長が付き添い、ともに勤務いたします。では、今後の当院の予定について、トシキ先生から』
「拡声器、貸せ。早く」
トシキの奴、すごく偉そうに・・・。真っ白な白衣のトシキは、メモも持たず喋りだした。
『今までみたいに統率が取れないようでは、生き残りの道は閉ざされてしまいます』
「いてっ?」右からシローがつついた。
「ユウキ先生。トシキ先生、どしたんですかね・・・」
「もともと、どうかしてるだろ。B型だしな、あいつ」
「最初、ここに来たときもそうだったらしいんです」
「その時はオレ、ここにはいなかったから・・分からん」
「何かに、とりつかれた様な」
「霊にか?」
「何か・・・洗脳といいますか。なんというか」
「洗脳は、松田の宗教で十分だよ」
『・・・今後は彼らとともに手を組み、やっていく必要があるのです。今後は、突然の救急ラッシュに惑わされることもありません』
「なんで、あんなことすんのかな。シロー」
「はい?」
「彼らだよ。患者の権利を侵害してまで、この病院を圧迫してスタッフを再起不能にするのが狙いだろ?」
「一説には、その・・・言いにくいのですが。ハカセ先生グループからの陰謀だと」
「この病院に?この病院があいつに何をした?こっちは奈良で病院取られたぞ?」
シローは、間をあけた。
「狙いは・・・・ユウキ先生です」
「はあ?おれ?」
『そこ!何をしゃべってる!』トシキは拡声器をこちらに向けた。
「いいってシロー。無視しろ。なんで・・オレなんだ?」
「そ、それは僕には。以前、同じ勤務先で何かあったとか?」
「・・・・最後はカラオケ行って、オレがアパムとデュエットして・・・」
「何か、心当たりありませんか?」
「あいつのこと、ハゲとか言ったことはあるかな。あとは・・・」
思い出せない。しかしそれは、予想もしなかったことだった。
シローはため息をついた。
「僕も、もう疲れました」
「オレもだよ・・・」
「ワイフと今度、離婚します」
「ウソ、おい・・・」別居なのは知ってたが。
「子供の親権争いがついてからですが」
「子供は、ワイフが連れ出したって言ってたな」
「あれじゃ、北朝鮮ですよ。やることが」
彼の子供は、勝手に住民票まで移されていた。
『今日からは平和で自由な診療ができると思われる。周囲の病院は当院の衛星病院として、その役目を分担してもらう!』
トシキが、興奮のあまり泣いている。
『当院を中心とした、病院勢力図を参照していただきたい!おい事務長!』
「はっ」
事務長はアゴで指示、近くの田中君が背を伸ばした。
「あ!自分が取りに行ってきます!たしかトシキ先生の・・・」
『引き出しの、DVDの中にカモフラージュしてある!』
「はっ!」
田中君はダッシュで医局へと向かった。
僕はズボンのポケットをさぐり、折れそうなDVDをまさぐった。
「病院勢力図か・・・」
「エロDVDの中身は、実は・・・」
「知ってる。みたいだな」
後ろのピートが、ポンと肩に手を置いた。
「すまんな先生。見られたらまずいので、包ませてもらったが」
「なるほど。それでか・・・グルだな。お前ら」
「そうじゃないって先生。だがシークレットはシークレットだ」
「お前な・・・も、ええ。友達ちゃう」
パン、と手を跳ねのけた。
「シロー。お前は孤立するな。絶対に」
「不思議です。孤独になるほど、仕事にのめり込んでいくんです」
「シロー・・・」
「恐ろしいくらいに」
「なあ・・・もうあんな、開業医なんか手伝うなって!なんでお前みたいないい奴が?」
『大学とのパイプを確立させ、教育病院目指して・・』
教育が必要なのは、この男だとは思うが。
シローはボソッとつぶやいた。
「すみません先生。借金をどうしても返さないと」
「借金・・・家のローンは終わったんだろ?」
「陰でローンを組まれてて。宗教団体がらみの」
「またワイフか・・・」
なんて家庭だったんだ。僕の理想の家庭像だったはずが。それが音をたてて崩れていく・・・。
「うん。シロー・・・それは・・・うーん・・・」
何も、返す言葉がなかった。
「はいはいはい!これこれ!」
田中くんが、汗だくで戻ってきた。
「これ、再生するんですよね?」
みな国道向きから振り向くと、病院2階の高さに設置したスクリーンがある。
マスター台近くのデッキに、DVDが入れられようとしていた。
「あれ。このディスク・・・」
田中君が何度も裏返した。
「違うような?ま、いいか」
そのままディスクはセットされた。
『ま、待て!』トシキは天を仰いだ。
みな一瞬、耳を澄ました。
『はいはい。では始めますね。今週も、みなさんご苦労様でした。<キーン!>』
「(一同)うわああっ!」みな思わず両耳を押さえた。
『先ほど上層部会議がありまして。それの決定事項をお伝えします』
車いすの会長、葉巻男の姿は消えている・・・。
『本日、当院よりユウキ先生が奈良に向けて出発いたします。運転手の看護士、それと看護部長が付き添い、ともに勤務いたします。では、今後の当院の予定について、トシキ先生から』
「拡声器、貸せ。早く」
トシキの奴、すごく偉そうに・・・。真っ白な白衣のトシキは、メモも持たず喋りだした。
『今までみたいに統率が取れないようでは、生き残りの道は閉ざされてしまいます』
「いてっ?」右からシローがつついた。
「ユウキ先生。トシキ先生、どしたんですかね・・・」
「もともと、どうかしてるだろ。B型だしな、あいつ」
「最初、ここに来たときもそうだったらしいんです」
「その時はオレ、ここにはいなかったから・・分からん」
「何かに、とりつかれた様な」
「霊にか?」
「何か・・・洗脳といいますか。なんというか」
「洗脳は、松田の宗教で十分だよ」
『・・・今後は彼らとともに手を組み、やっていく必要があるのです。今後は、突然の救急ラッシュに惑わされることもありません』
「なんで、あんなことすんのかな。シロー」
「はい?」
「彼らだよ。患者の権利を侵害してまで、この病院を圧迫してスタッフを再起不能にするのが狙いだろ?」
「一説には、その・・・言いにくいのですが。ハカセ先生グループからの陰謀だと」
「この病院に?この病院があいつに何をした?こっちは奈良で病院取られたぞ?」
シローは、間をあけた。
「狙いは・・・・ユウキ先生です」
「はあ?おれ?」
『そこ!何をしゃべってる!』トシキは拡声器をこちらに向けた。
「いいってシロー。無視しろ。なんで・・オレなんだ?」
「そ、それは僕には。以前、同じ勤務先で何かあったとか?」
「・・・・最後はカラオケ行って、オレがアパムとデュエットして・・・」
「何か、心当たりありませんか?」
「あいつのこと、ハゲとか言ったことはあるかな。あとは・・・」
思い出せない。しかしそれは、予想もしなかったことだった。
シローはため息をついた。
「僕も、もう疲れました」
「オレもだよ・・・」
「ワイフと今度、離婚します」
「ウソ、おい・・・」別居なのは知ってたが。
「子供の親権争いがついてからですが」
「子供は、ワイフが連れ出したって言ってたな」
「あれじゃ、北朝鮮ですよ。やることが」
彼の子供は、勝手に住民票まで移されていた。
『今日からは平和で自由な診療ができると思われる。周囲の病院は当院の衛星病院として、その役目を分担してもらう!』
トシキが、興奮のあまり泣いている。
『当院を中心とした、病院勢力図を参照していただきたい!おい事務長!』
「はっ」
事務長はアゴで指示、近くの田中君が背を伸ばした。
「あ!自分が取りに行ってきます!たしかトシキ先生の・・・」
『引き出しの、DVDの中にカモフラージュしてある!』
「はっ!」
田中君はダッシュで医局へと向かった。
僕はズボンのポケットをさぐり、折れそうなDVDをまさぐった。
「病院勢力図か・・・」
「エロDVDの中身は、実は・・・」
「知ってる。みたいだな」
後ろのピートが、ポンと肩に手を置いた。
「すまんな先生。見られたらまずいので、包ませてもらったが」
「なるほど。それでか・・・グルだな。お前ら」
「そうじゃないって先生。だがシークレットはシークレットだ」
「お前な・・・も、ええ。友達ちゃう」
パン、と手を跳ねのけた。
「シロー。お前は孤立するな。絶対に」
「不思議です。孤独になるほど、仕事にのめり込んでいくんです」
「シロー・・・」
「恐ろしいくらいに」
「なあ・・・もうあんな、開業医なんか手伝うなって!なんでお前みたいないい奴が?」
『大学とのパイプを確立させ、教育病院目指して・・』
教育が必要なのは、この男だとは思うが。
シローはボソッとつぶやいた。
「すみません先生。借金をどうしても返さないと」
「借金・・・家のローンは終わったんだろ?」
「陰でローンを組まれてて。宗教団体がらみの」
「またワイフか・・・」
なんて家庭だったんだ。僕の理想の家庭像だったはずが。それが音をたてて崩れていく・・・。
「うん。シロー・・・それは・・・うーん・・・」
何も、返す言葉がなかった。
「はいはいはい!これこれ!」
田中くんが、汗だくで戻ってきた。
「これ、再生するんですよね?」
みな国道向きから振り向くと、病院2階の高さに設置したスクリーンがある。
マスター台近くのデッキに、DVDが入れられようとしていた。
「あれ。このディスク・・・」
田中君が何度も裏返した。
「違うような?ま、いいか」
そのままディスクはセットされた。
『ま、待て!』トシキは天を仰いだ。
みな一瞬、耳を澄ました。
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