サンダル医長 土曜日 ? ピート!あの心臓を打て!
2006年12月4日自転車は1機ずつ微妙に角度を変えながら、救急車の間に突入していった。
うち何台かは、そのまま救急車にぶつかったりした。
「あの救急車だ!」
かなり離れて、1台孤立している。外からハッチを開けているのは・・・どうやら民間人っぽい。
「ちょっと!あんた誰?」
「は?わしはこの方の、トモダチでんがな」やはりまた老人だ。老人ばかり、送られてきている。
「私らが診ますので!」
「うほお!オナゴのチチがおお!こりゃええ!」
じいさんは、ポケーと玄関上のスクリーンを見つめていた。
救急車の中、じいさんが1人横になっている意識は少し朦朧としている。
「脈は触れる!酸素も・・ある!このまま行こう!」
「脈、ちょっと遅いんとちゃいますか?」
「若干な!では心電図!ま、救急室で録ろうか!」
モニターがつけられ、枕の横にモニター。ベッドが揺れすぎて形が分かりにくい。
田中くんをはじめ、ナースらスタッフ4人がベッドを運び出した。
事務長が僕の自転車にまたがっていた。
「さ!先生はもう乗って!一足先に、向かいましょう!」
「よしわっかった!看護士!俺たちも戻って、待機しよう!」
「ヒャッホー!」
ズドン!と2機、救急室へ向かった。ただし救急車の網をくぐらないといけない。
するといきなり、真横から自転車がぶつかった。
「てえ!いてえいてえよ!」叫んだのは事務長だった。僕も倒れかけた。
「オラオラア〜!」暴力医者だ。目が鋭い。
「げっ!事務長!離脱せよ!」
「逃げます!」
「待てえ!待てって!」
僕は事務長のうしろ、後輪代わりに両足を何度も後ろへけった。
「もっと早くもっと早く!」
「ハハハハハハ!」真横に、暴力医者。ラリッたようなツラだ。
「まだ患者が残ってるんだ!」
田中くんからPHS。
「もしもし?」
『まだ中途ですが!脈が変です!遅くなってる!』
「いくら?」
『30台っすよ!』
「止まる?アポ(脳卒中)か何か・・・。いや・・・」
『看護師さんによると、形が変だって!』
「変ってなんだよ?意味分からん!どこだ?今!ぎゃあ!」
横の暴力医者が、ぶつかってきた。
「てえな!何するんだ!」
「お前のような医者が、私たちの理想を崩してしまう!」
「<お前>はやめてください!」
「理想実現の前に、再起不能にさせてやる!」
「やだね!事務長!もっと漕げ!」
事務長は息切れして、返事どころではなかった。
暴力医者は続ける。
「私たちは、才色兼備だけではない。体力・運動神経全てが選び抜かれたものだ!」
「こいつおい、話が長いぞ黙らせろ!」
「急ぐんだな!救急室へ導くんだなマヌケ!」
暴力医者は退屈なのか、ブレーキを数秒周期でかけてきた。そのたび、路面の水がこちらにかけられる。
「ぱあっ!しょっぱ!」
「ほれ飲め!飲めよ!ドンキホーテ!」
「何?オレをドンキと・・・」
首の周りの聴診器を片手で持ち、横に狙いをつける。
「呼ぶな!」
「うっ!ごおっ!」ドーン、と後輪が持ち上がり、自転車は宙をスローで舞った。
聴診器が車輪にからまったのだ。
「あそこです!医長先生!」
事務長の前、ベッドが止まっている。
「なんでベッドが止まってるんだよ!事務長!」
僕はよろめきながら飛び降り、駆けつけた。モニターは徐脈。
「たしかに30台の脈だ!QRSがのびてる!」
ナースが心マッサージを試みようとした。
「待て!そうじゃないだろ!脈は出てる!」
ウエストポーチから、カルチコール、硫酸アトロピンを取り出す。
「とにかく、高カリウムなんだよこれは!」
腎不全患者のように、黒ずんだ印象ではないが・・・。
「投与した!さ!運ぼう!おいナース!どうした?」
「あう・・あうう!」若手ナースは狼狽していた。
「何かミスったか?」
「小さな点滴をつないでたんですが・・止めます止めます!」
「だから!何が入ったんだ!カリウムじゃないんだろ?」
「カタボンのパックです」
「何!」
「すいません。先生」
「お、オレに謝るな!患者に謝れ!」
しかし、ある意味脈を増やす役割だけしてくれたか・・・。今の注射のおかげか、脈はしだいに改善してきた。
「でもT波は高いし、高カリウムは持続してる。腎不全なんだろなやっぱ!」
「尿道バルーンからは、尿はたんまりと濃いのが」ナースがバルーンを指に持つ。
「おい!トモダチのじいさん!」
さっきAVに見とれていた<トモダチ>がゆっくり横で歩く。
「じいさん!この人の病気知らないか!」
「わ、わしはかろうじて助かったから・・・」
「助かった?何の話?」
モニターの音が、早く鳴っていく。頻脈だ。カタボンの誤投与が今になって・・・
「しまった!しまった・・・このままではVT(心室頻拍)になってしまう。致命的だ!」
横のじいさんは、淡々と喋った。
「そりゃ、あんだけ挟まれたら助からんでもしようがない」
「挟む?何が?」
「いやいや。わしら、埋め合わせで来るはずの人間やったんや。それがな」
「速くしゃべってくれ!速く!ポイントだけ!救急室!DCを!」
「救急車と病院の壁に、この人挟まれてんねん。なかなか助けてくれずに・・・でも平気そうやったで」
「でも・・」あちこち衣服を脱がす。患者はナースが傘で守ってくれてる。
外傷は全くない・・・。
「ん?そうか!わかった!」
はるか向こうの救急室から自転車が2台。前方荷台にDCを載せてある。ビニールもかぶせてある。
うち1台、ピートがコキコキ漕ぎながらやってきた。
『こちらピート!ただいま充電する!』ピ〜ン、という充電音が聞こえる。
「待て待て!別にVTになったわけでは・・・!」
今、ちょうどそうなった。
「離れろみんな!」ナースがアンビューを離す。
ピートは自転車を放り投げ、パッドを両手に持ち覆いかぶさる形で体を沈めた。
パッドのコードが、切れそうなほど地面から伸びている。
パン! という鈍い音。少し火花が散った。
脈は・・・
うち何台かは、そのまま救急車にぶつかったりした。
「あの救急車だ!」
かなり離れて、1台孤立している。外からハッチを開けているのは・・・どうやら民間人っぽい。
「ちょっと!あんた誰?」
「は?わしはこの方の、トモダチでんがな」やはりまた老人だ。老人ばかり、送られてきている。
「私らが診ますので!」
「うほお!オナゴのチチがおお!こりゃええ!」
じいさんは、ポケーと玄関上のスクリーンを見つめていた。
救急車の中、じいさんが1人横になっている意識は少し朦朧としている。
「脈は触れる!酸素も・・ある!このまま行こう!」
「脈、ちょっと遅いんとちゃいますか?」
「若干な!では心電図!ま、救急室で録ろうか!」
モニターがつけられ、枕の横にモニター。ベッドが揺れすぎて形が分かりにくい。
田中くんをはじめ、ナースらスタッフ4人がベッドを運び出した。
事務長が僕の自転車にまたがっていた。
「さ!先生はもう乗って!一足先に、向かいましょう!」
「よしわっかった!看護士!俺たちも戻って、待機しよう!」
「ヒャッホー!」
ズドン!と2機、救急室へ向かった。ただし救急車の網をくぐらないといけない。
するといきなり、真横から自転車がぶつかった。
「てえ!いてえいてえよ!」叫んだのは事務長だった。僕も倒れかけた。
「オラオラア〜!」暴力医者だ。目が鋭い。
「げっ!事務長!離脱せよ!」
「逃げます!」
「待てえ!待てって!」
僕は事務長のうしろ、後輪代わりに両足を何度も後ろへけった。
「もっと早くもっと早く!」
「ハハハハハハ!」真横に、暴力医者。ラリッたようなツラだ。
「まだ患者が残ってるんだ!」
田中くんからPHS。
「もしもし?」
『まだ中途ですが!脈が変です!遅くなってる!』
「いくら?」
『30台っすよ!』
「止まる?アポ(脳卒中)か何か・・・。いや・・・」
『看護師さんによると、形が変だって!』
「変ってなんだよ?意味分からん!どこだ?今!ぎゃあ!」
横の暴力医者が、ぶつかってきた。
「てえな!何するんだ!」
「お前のような医者が、私たちの理想を崩してしまう!」
「<お前>はやめてください!」
「理想実現の前に、再起不能にさせてやる!」
「やだね!事務長!もっと漕げ!」
事務長は息切れして、返事どころではなかった。
暴力医者は続ける。
「私たちは、才色兼備だけではない。体力・運動神経全てが選び抜かれたものだ!」
「こいつおい、話が長いぞ黙らせろ!」
「急ぐんだな!救急室へ導くんだなマヌケ!」
暴力医者は退屈なのか、ブレーキを数秒周期でかけてきた。そのたび、路面の水がこちらにかけられる。
「ぱあっ!しょっぱ!」
「ほれ飲め!飲めよ!ドンキホーテ!」
「何?オレをドンキと・・・」
首の周りの聴診器を片手で持ち、横に狙いをつける。
「呼ぶな!」
「うっ!ごおっ!」ドーン、と後輪が持ち上がり、自転車は宙をスローで舞った。
聴診器が車輪にからまったのだ。
「あそこです!医長先生!」
事務長の前、ベッドが止まっている。
「なんでベッドが止まってるんだよ!事務長!」
僕はよろめきながら飛び降り、駆けつけた。モニターは徐脈。
「たしかに30台の脈だ!QRSがのびてる!」
ナースが心マッサージを試みようとした。
「待て!そうじゃないだろ!脈は出てる!」
ウエストポーチから、カルチコール、硫酸アトロピンを取り出す。
「とにかく、高カリウムなんだよこれは!」
腎不全患者のように、黒ずんだ印象ではないが・・・。
「投与した!さ!運ぼう!おいナース!どうした?」
「あう・・あうう!」若手ナースは狼狽していた。
「何かミスったか?」
「小さな点滴をつないでたんですが・・止めます止めます!」
「だから!何が入ったんだ!カリウムじゃないんだろ?」
「カタボンのパックです」
「何!」
「すいません。先生」
「お、オレに謝るな!患者に謝れ!」
しかし、ある意味脈を増やす役割だけしてくれたか・・・。今の注射のおかげか、脈はしだいに改善してきた。
「でもT波は高いし、高カリウムは持続してる。腎不全なんだろなやっぱ!」
「尿道バルーンからは、尿はたんまりと濃いのが」ナースがバルーンを指に持つ。
「おい!トモダチのじいさん!」
さっきAVに見とれていた<トモダチ>がゆっくり横で歩く。
「じいさん!この人の病気知らないか!」
「わ、わしはかろうじて助かったから・・・」
「助かった?何の話?」
モニターの音が、早く鳴っていく。頻脈だ。カタボンの誤投与が今になって・・・
「しまった!しまった・・・このままではVT(心室頻拍)になってしまう。致命的だ!」
横のじいさんは、淡々と喋った。
「そりゃ、あんだけ挟まれたら助からんでもしようがない」
「挟む?何が?」
「いやいや。わしら、埋め合わせで来るはずの人間やったんや。それがな」
「速くしゃべってくれ!速く!ポイントだけ!救急室!DCを!」
「救急車と病院の壁に、この人挟まれてんねん。なかなか助けてくれずに・・・でも平気そうやったで」
「でも・・」あちこち衣服を脱がす。患者はナースが傘で守ってくれてる。
外傷は全くない・・・。
「ん?そうか!わかった!」
はるか向こうの救急室から自転車が2台。前方荷台にDCを載せてある。ビニールもかぶせてある。
うち1台、ピートがコキコキ漕ぎながらやってきた。
『こちらピート!ただいま充電する!』ピ〜ン、という充電音が聞こえる。
「待て待て!別にVTになったわけでは・・・!」
今、ちょうどそうなった。
「離れろみんな!」ナースがアンビューを離す。
ピートは自転車を放り投げ、パッドを両手に持ち覆いかぶさる形で体を沈めた。
パッドのコードが、切れそうなほど地面から伸びている。
パン! という鈍い音。少し火花が散った。
脈は・・・
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