だるいやつら ? 襲う腹痛
2007年2月26日ドクターカーは国道を突っ走っていた。
忘れていた腹痛が、襲ってくる。それを腹の中心へ、中心へと押しやる。
「じ、じーあい療法<GI療法>のカリウム入れ込むみたいだな。根本的な解決にならん・・」
プルル・・と電話の音が鳴り、事務長につながった。
『ああやっと!つながった!生きてますか!』
「生きてるよ!チェアリー!」僕は天井に叫んだ。
『そちらの動きはGPSで把握済みですが・・急いでくださいよ。田中くん!』
「ええ」運転手は焦っていた。「車、少し擦っちゃいました!」
『はれまあ。じゃあ天引きってことで』
「すみません・・」
『いやいや冗談、マイケル冗談。で、1件目は大したことは?』
僕は前にのめり出た。
「大したことはあったんだけど、入院の同意が得られなかった」
『大したことがあったなら、同意も何もないのでは?』
「緊急性があったわけでは・・・」
『ま、本人の意識がしっかりしていたわけですか?』
「あ、ああ・・・ててて」
僕は腹を押さえた。
「田中くん。すまんが、トイレあるか?」
「国道通ってますが、側道に出ればなんとか」
「どど!どこでもいい!急にしたくなってきた!」
中野ナースはぶっと噴出した。
「やらぴいやらぴい。こげなオバハンでもよかったら」
「だる・・」
腹痛はキリキリと差し込んでくる。
研修医のとき、受け持った腸閉塞の患者を思い出した。
あの腹痛がどんなものだったか、嫌というほどよく分かる。
車は側道に入ったが、見当たるのは「船場ビル」「〜保険」などのオフィスビルばかり。
「くあ!吉野家とか!コンビニとかないのか!」
「ないですね〜あ!あった!けど行き過ぎた」
「ゆっくり行けよ!いやいや!急げ!ダメだ!もうダメ!ひい〜!」
「うおっほっほ!」ナースだけが笑っている。
「あ、汗が出てきた。冷や汗が!」
「歌でも歌いまひょか?」
「な、何かで気を紛らわせてくれ!はっはっはっ」と自分も過換気になる。
田中君が紙袋を差し出すが。
「いい!いらんよ!」
「だけでなくて。便が出たときにも・・」
「うおっほほ!」ナースは受けまくっていた。「♪フンフ〜フンフ〜フランフン〜」
「はっはっはっふぅふぅふぅ」
「♪ザマフザマフノホラフフ〜」
「ふ〜ひ〜ふ〜ひ〜」
「♪ウォー!でがんすのオオカミ男!」
「うたっ!ビックリしただろが!」
「♪おれたちゃオーシンさんにんぐ〜み〜よぉ〜!」
車はやっとコンビニの横に停まった。
白衣を脱ぎ、勢い良く店に飛び込む。店員への声かけどころではない。
幸いトイレは開いていた。逆を考えると恐怖だった。
5分ほどして、何食わぬ顔で外へ。
「ふう〜!」
「早く乗ってくれんと!」ナースが中から怒鳴った。
「はいはい。はいよっと!」機嫌よく、乗り込む。
田中くんは携帯で話していた。
「ええ!よろしくお願いします!すみませんでした!」
こちらをチラチラ見ている。僕に関係あるのか・・。
事務員は電話を切り、僕に話しかけた。車も出る。
「いやその、先生は直接は関係は」
「なんだ?さっきの件か?」
「といいますか。乱暴な運転があったと住民からの苦情で」
「住民・・あの周囲の住民?」
「塀を擦ったりとかしたでしょ?あと迷惑駐車とか」
「その苦情が・・真田病院に来たわけか」
ドクターカーには病院名のみならず、電話番号も載ってる。病院の車に限らないが、運送トラックなどに目立った運転があれば、苦情がダイレクトに本社に伝わる。それをものともしない運転手もいるが・・。
「事務長、怒ってたか?田中くん」
「事実関係を調べてみる、と」
「サービス業って大変だな・・」
2件目のカルテをナースから頂く。
「松原市の、和田さん男性。じん肺+COPDで在宅酸素療法中。最近奥さんを亡くされて一人暮らし、か・・・!ヘルパーさんが来てるかもしれんってな!」
「ええ!なんですか!」田中くんはいきなりムキになった。
「な、なんだよ・・?」
「ヘルパーがどうかしましたか!」
「はあ?あ、そっか」
思い出した。田中君は以前、当院に頻繁に来ていた若い女性ヘルパーに片思いだった(「プリリーオーメンの頁を参照」)。既婚者であることを知ったのはつい最近。僕らは数ヶ月前にすでに知っていたが、気を遣って彼には話してなかった。結局、口軽オークが喋った。
「田中くん。俺らも、気を遣ったんだよ」
「ひどいっすよ先生たち。オレ何をしてたんだか!」
「でも君、まだ若いだろ?女で悩むことなんて、これから山ほどある!」
無責任な言葉がついて出た。
「あ〜あ!いい女はそりゃね!もう買い手がついてますって!すでにね!」
「後ろのナースもなァ!」と僕は答えた。
田中君はミラーを見た。グオオ・・と眠ってる中野ナース。
時々、ムニャムニャと何かモグっている。
「バオバオ、バオバオ・・」
「先生。・・あれは買われたというより、かわれてる(飼われてる)ほうじゃないでしょうか?」
「ええっ?うわっああああっははははは!」久々に<本宮ひろ志>笑い。
田中君はやがて元気を取り戻した。
「よしそこ左折!到着!」急ハンドル。
「ぶげえ!」ナースは床にゴロンと転んだ。
「起きてくださいよ!看護師さん!しまっていこう!」
なんとも、疲れる奴らだった。
忘れていた腹痛が、襲ってくる。それを腹の中心へ、中心へと押しやる。
「じ、じーあい療法<GI療法>のカリウム入れ込むみたいだな。根本的な解決にならん・・」
プルル・・と電話の音が鳴り、事務長につながった。
『ああやっと!つながった!生きてますか!』
「生きてるよ!チェアリー!」僕は天井に叫んだ。
『そちらの動きはGPSで把握済みですが・・急いでくださいよ。田中くん!』
「ええ」運転手は焦っていた。「車、少し擦っちゃいました!」
『はれまあ。じゃあ天引きってことで』
「すみません・・」
『いやいや冗談、マイケル冗談。で、1件目は大したことは?』
僕は前にのめり出た。
「大したことはあったんだけど、入院の同意が得られなかった」
『大したことがあったなら、同意も何もないのでは?』
「緊急性があったわけでは・・・」
『ま、本人の意識がしっかりしていたわけですか?』
「あ、ああ・・・ててて」
僕は腹を押さえた。
「田中くん。すまんが、トイレあるか?」
「国道通ってますが、側道に出ればなんとか」
「どど!どこでもいい!急にしたくなってきた!」
中野ナースはぶっと噴出した。
「やらぴいやらぴい。こげなオバハンでもよかったら」
「だる・・」
腹痛はキリキリと差し込んでくる。
研修医のとき、受け持った腸閉塞の患者を思い出した。
あの腹痛がどんなものだったか、嫌というほどよく分かる。
車は側道に入ったが、見当たるのは「船場ビル」「〜保険」などのオフィスビルばかり。
「くあ!吉野家とか!コンビニとかないのか!」
「ないですね〜あ!あった!けど行き過ぎた」
「ゆっくり行けよ!いやいや!急げ!ダメだ!もうダメ!ひい〜!」
「うおっほっほ!」ナースだけが笑っている。
「あ、汗が出てきた。冷や汗が!」
「歌でも歌いまひょか?」
「な、何かで気を紛らわせてくれ!はっはっはっ」と自分も過換気になる。
田中君が紙袋を差し出すが。
「いい!いらんよ!」
「だけでなくて。便が出たときにも・・」
「うおっほほ!」ナースは受けまくっていた。「♪フンフ〜フンフ〜フランフン〜」
「はっはっはっふぅふぅふぅ」
「♪ザマフザマフノホラフフ〜」
「ふ〜ひ〜ふ〜ひ〜」
「♪ウォー!でがんすのオオカミ男!」
「うたっ!ビックリしただろが!」
「♪おれたちゃオーシンさんにんぐ〜み〜よぉ〜!」
車はやっとコンビニの横に停まった。
白衣を脱ぎ、勢い良く店に飛び込む。店員への声かけどころではない。
幸いトイレは開いていた。逆を考えると恐怖だった。
5分ほどして、何食わぬ顔で外へ。
「ふう〜!」
「早く乗ってくれんと!」ナースが中から怒鳴った。
「はいはい。はいよっと!」機嫌よく、乗り込む。
田中くんは携帯で話していた。
「ええ!よろしくお願いします!すみませんでした!」
こちらをチラチラ見ている。僕に関係あるのか・・。
事務員は電話を切り、僕に話しかけた。車も出る。
「いやその、先生は直接は関係は」
「なんだ?さっきの件か?」
「といいますか。乱暴な運転があったと住民からの苦情で」
「住民・・あの周囲の住民?」
「塀を擦ったりとかしたでしょ?あと迷惑駐車とか」
「その苦情が・・真田病院に来たわけか」
ドクターカーには病院名のみならず、電話番号も載ってる。病院の車に限らないが、運送トラックなどに目立った運転があれば、苦情がダイレクトに本社に伝わる。それをものともしない運転手もいるが・・。
「事務長、怒ってたか?田中くん」
「事実関係を調べてみる、と」
「サービス業って大変だな・・」
2件目のカルテをナースから頂く。
「松原市の、和田さん男性。じん肺+COPDで在宅酸素療法中。最近奥さんを亡くされて一人暮らし、か・・・!ヘルパーさんが来てるかもしれんってな!」
「ええ!なんですか!」田中くんはいきなりムキになった。
「な、なんだよ・・?」
「ヘルパーがどうかしましたか!」
「はあ?あ、そっか」
思い出した。田中君は以前、当院に頻繁に来ていた若い女性ヘルパーに片思いだった(「プリリーオーメンの頁を参照」)。既婚者であることを知ったのはつい最近。僕らは数ヶ月前にすでに知っていたが、気を遣って彼には話してなかった。結局、口軽オークが喋った。
「田中くん。俺らも、気を遣ったんだよ」
「ひどいっすよ先生たち。オレ何をしてたんだか!」
「でも君、まだ若いだろ?女で悩むことなんて、これから山ほどある!」
無責任な言葉がついて出た。
「あ〜あ!いい女はそりゃね!もう買い手がついてますって!すでにね!」
「後ろのナースもなァ!」と僕は答えた。
田中君はミラーを見た。グオオ・・と眠ってる中野ナース。
時々、ムニャムニャと何かモグっている。
「バオバオ、バオバオ・・」
「先生。・・あれは買われたというより、かわれてる(飼われてる)ほうじゃないでしょうか?」
「ええっ?うわっああああっははははは!」久々に<本宮ひろ志>笑い。
田中君はやがて元気を取り戻した。
「よしそこ左折!到着!」急ハンドル。
「ぶげえ!」ナースは床にゴロンと転んだ。
「起きてくださいよ!看護師さん!しまっていこう!」
なんとも、疲れる奴らだった。
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