富田林(とんだばやし:大阪府の南方)に向かって、車を南へと走らせる。ワールド牧場の近くの丘だ。

道がだんだん細くなり、対向車線になる。

昼が近づき腹が減ってくる中、事務長からのオンフック。

『3件目は、いけますか?』
「事務長。道、険しいっス!」田中君がジグザグ運転し、よろめいた自転車をかわす。
『実は、妙な電話が入るんだよ。イタズラかな』
「さあ。そうとも言えるし・・そうでないとも言えます」
『そうだな・・ちょっと気になって』

僕は揺られながら、天井を向いた。

「お前への個人的な攻撃とか?」
『いやいや。それが、その内容が』
「内容が?あるのか?ならはやく言えよ!」
『言いますよ。言いますとも。交換からの記録によると・・<イキテカエレルト、オモウナ!>』
「感情こめるなよおい。でもそれって・・俺らあてか?」
『先生。何かしましたか?』
「オレ?今日は別に何も・・着信番号とかは?」
『番号通知、なかったんですよ』
「そっか。つまり誰かが・・生きて帰れないのか?」
『ちなみに、深夜明けのナースらは生きて帰ってました』
「あのね・・・・Q太郎はね!」

不気味だな・・・。このメッセージは、明らかに俺たちあてだ。

田中君は徐行運転している。坂道を登っているのだ。

「はいはい、もうなんでも来てってカンジ!」彼は投げやりだ。
「後ろは誰も尾けてないし、俺らの行き先は職員以外は誰も知らないはず・・ん?中野さん!ちょっとアレ出して!アレ!」

「グオオ〜、グオオ〜」猛獣のように唸っている。
「急変だ急変!」
「グオオ〜、グオオ〜」ダメだ。逆効果だ。
「弁当もらったよ!弁当!」
「グ!ほげげ?べんと?なにべんと?」
「あれ出してくれ!今日の訪問予定の紙!道順のコピー!」
「紙・・ああ!訪問の!」ナースは近くのカバンをごそごそさぐった。
「どしたんだよ?」
「ふげ?ふにゃ?ない・・・」
「なんだと?」
「このカバンはずっとここに置いてあったからねえ・・・無くなるはずがないんだけど。もしかして」
「え?もしかしてって・・・?」
「先生が?」
「なんでだよ!」

1件目を訪問しているときに、取られたのか・・・。

「田中くん。訪問の順番を変えようよ!なんか不気味だ」
「ダメっすよ。帰りは、梅の里〜長居公園通〜西成へと北上していくんですから!最後はニシナリナリ!」
「その北上の道順を、ランダムに変えるとか」
「そんなんしたら、夜中になりまっせ先生!はぁひぃ!はぁひぃ!」
彼は、また紙袋を吸いだした。

「す、すまん。興奮させて・・・とにかくこの訪問を、早く終わらせてしまおう!」

医師として言ってはならなかったが、心すでにここにあらずだった。

坂道を登りきりひしめきあう家々の真っ只中・・・車はやっと3件目の横に到着した。

ドアを開けると・・ワールド牧場の、楽しそうな音楽。青空。

思わず言葉が出た。

「は・・・はらへった!」

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