だるいやつら ? お前らみんな、非常識。
2007年2月28日「おはようございます!病院です!あれっ?」
事務員が後ろにのけぞった。張り紙がしてある。もしかして不在・・?
『目立ちますので、白衣を脱いでからおあがりください 松野(住人)』
いや、それはもう遅かった。ドクターカーの塗装は剥げまくっており、周囲の好奇の目に晒されるのは必至だろう。とりあえず、僕は白衣を脱いだ。横の(おばさん)ナースは、服の構造上そうはいかない。
「ふげえ。いややわ。男はみんなウオ−でがんすの!オオカミ男やし」
「しょうもな・・」
するとカチャ、と戸が開いた。少しだけの隙間の向こうに、警戒気味の眼が見えた。
「・・・・」
何も言われず、ドアはゆっくりこちらへキイ、と開放された。
「(3人)失礼しまーす!」
用意したスリッパに履き替え、のっしのっしと廊下を移動。戸を開けてくれた人はとっくに奥に潜んでいる。
「・・・ここかな?」
右を見て立ち止まる。ラジオの音?いや、これは・・ゲームの音だ!
ピュッピリピュルルル・・・ルルル
「ああっ!ちっ!」
そこには、床に寝そべった5歳くらいの子供。こっちに足を向けて、小さなテレビ画面を上目遣い。
「おっしゃ!あたっ!たた!」
事務員は部屋の左を見た。
「あ。このおじいさん・・・ですよね?」子供に話しかける。しかし返答なし。
「(囁き声)ハニャラフニャラ!シ〜!シ〜!トイトイ!」
「ですかね。先生。ではお願いします」
「うい」子供に呆れながら、じいさんに近づく。
じいさんはベッドに横になっている。カルテでは病名は「脳梗塞後遺症、慢性C型肝炎、ASO(閉塞性動脈硬化症)」。当院からは肝庇護剤、プロスタグランジン製剤などが処方されている。開業医が合間にフォロー。
「はあはあ、どうも!こりゃ!」
「おはよう。どうです?調子は?」
「ええです」横から声。
「わっ!」石像だと思っていた、ばあさんが立ち上がった。
「ええですか。そりゃよかった」他人事のような返事になってしまった。
「ええんやけど、足が痛いってな。運動しとらんから」
「車いすには・・」
「昼間はわし、この子供しかおらんし。ヘルパーさんが来たときには、たまに乗ってるかいな?かんごふさん」
「・・ふにゃ?」ナースはわけ分からず慌てた。
診察を終える。
「下半身の動脈触知・・・左の足背がかなり弱いな。雑音はないようだけど。冷感がある。松野さん?痛いのはこっちの足?」
「そっちそっち」
「反対のこっちは?」
「いや、そっちそっち」
「こっち?」
「あっち?」
「・・・・中野さん。ドプラー、持ってきて」
動脈の血流を詳しく見るため、流速計を持ってきてもらう。
その間に、肝臓の超音波。
「ベタベタするよ・・・!」腹にゼリーを塗り、大まかに確認。
「おっ。すげえ!」ゲームをいきなり中断した子供がのぞく。
「すまんが。画面の前はちょっと」
「すげえすげえ!」
「ばあさん、すまんがこの子を・・」
言うまでもなく、事務員が持ち上げた。
「はいはい、じゃあいっしょに向こうでゲームやろ。ゲームやろ!」
肝臓は萎縮しており、これでは肝硬変だ。腹水はない。肝内うっ血あり、心臓へそのまま・・こちらは正常だ。大動脈弁の軽度逆流は、老人ではお約束だ。ついでに腎臓やら、大動脈も確認する。
カルテの最近のデータ、かかりつけ開業医からのデータなどを参照。ここ数ヶ月は開業医フォローだが、ルーチン的な採血検査しかしておらず、肝心の腫瘍マーカーやウイルス定量が抜けている。足の痛みには痛み止めだけ。
ハズレの開業医に当たると大変だ。受診だけはさせるが、対症療法的で根本的な病態に目がいってない。ダラダラ、ダラダラ処方が増えていき病勢そのものが分かりにくくなる。そして肝心の検査がされていない。忘れているのか、知らないフリか。
こういう怒りを覚えることは、勉強するほど多々ある。だが患者側には、開業医への盲目的な信仰がまだ根強い。日本という国はまったく・・・。
ナースの持ってきた流速計、ペン先をようなものを足背に軽く当てる。
シュッポンシュッポンシュッポン・・とわずかだが聞こえる。
「点滴、せんとな・・30分で。生食100とリプル1アンプルを」
田中君はけっこうゲームにはまっている。
「田中くん。今から点滴するから。ナースとオレで15分交代で。その間、ドクターカーで昼食としようや」
「はいもうすぐ終わります!もう終わります!」
事務員はかなり興奮していた。
「よおし!よおし!ああっ?」
プッ、と画面が消えた。コンセントごと、ナースが抜いたのだ。
「ふげふげ!仕事中になんぞや!」
「何すんや!ババア!」子供は顔が真っ赤になった。
「るさいがこのガキが!」
「出てけ!帰れ!」子供は突進、ナースは何歩か後ずさった。
「あ」
そう呟いたのは、ばあさんだった。
「ふんどる・・・」
「ふんげ?」
「ふんどる。しきい、ふんどる」
「しきい?ああ」ナースはパッ、と足の位置を変えた。
ばあさんは、じいさんに耳打ちした。
「じいさん。あのかんごふさんが、しきいふんだ」
「なんやてえ?」
「うちのしきい、ふんだ」
玄関の敷居なら分かるが・・しかしじいさんは噴火した。
「あんたあ!ちょっと!もう入るな!」
「あっそ。そうでっか」ナースはムスッとして出て行った。「先生お願いねーん」
僕は家の時計を見た。
「11時半か。急がないとな。も、ええわ。オレ採血と点滴する。この血管ならいけそうだ」
じいさんの腕を指でたどり、勝手に評価する。
「その間、田中くんはナースと食ってきてくれ」
「はい!」事務員は何の躊躇もなく出て行った。
気を取り直し、じいさんの腕を綿で拭き拭き。
ええい。どいつもこいつも、遠慮なしが・・・!
事務員が後ろにのけぞった。張り紙がしてある。もしかして不在・・?
『目立ちますので、白衣を脱いでからおあがりください 松野(住人)』
いや、それはもう遅かった。ドクターカーの塗装は剥げまくっており、周囲の好奇の目に晒されるのは必至だろう。とりあえず、僕は白衣を脱いだ。横の(おばさん)ナースは、服の構造上そうはいかない。
「ふげえ。いややわ。男はみんなウオ−でがんすの!オオカミ男やし」
「しょうもな・・」
するとカチャ、と戸が開いた。少しだけの隙間の向こうに、警戒気味の眼が見えた。
「・・・・」
何も言われず、ドアはゆっくりこちらへキイ、と開放された。
「(3人)失礼しまーす!」
用意したスリッパに履き替え、のっしのっしと廊下を移動。戸を開けてくれた人はとっくに奥に潜んでいる。
「・・・ここかな?」
右を見て立ち止まる。ラジオの音?いや、これは・・ゲームの音だ!
ピュッピリピュルルル・・・ルルル
「ああっ!ちっ!」
そこには、床に寝そべった5歳くらいの子供。こっちに足を向けて、小さなテレビ画面を上目遣い。
「おっしゃ!あたっ!たた!」
事務員は部屋の左を見た。
「あ。このおじいさん・・・ですよね?」子供に話しかける。しかし返答なし。
「(囁き声)ハニャラフニャラ!シ〜!シ〜!トイトイ!」
「ですかね。先生。ではお願いします」
「うい」子供に呆れながら、じいさんに近づく。
じいさんはベッドに横になっている。カルテでは病名は「脳梗塞後遺症、慢性C型肝炎、ASO(閉塞性動脈硬化症)」。当院からは肝庇護剤、プロスタグランジン製剤などが処方されている。開業医が合間にフォロー。
「はあはあ、どうも!こりゃ!」
「おはよう。どうです?調子は?」
「ええです」横から声。
「わっ!」石像だと思っていた、ばあさんが立ち上がった。
「ええですか。そりゃよかった」他人事のような返事になってしまった。
「ええんやけど、足が痛いってな。運動しとらんから」
「車いすには・・」
「昼間はわし、この子供しかおらんし。ヘルパーさんが来たときには、たまに乗ってるかいな?かんごふさん」
「・・ふにゃ?」ナースはわけ分からず慌てた。
診察を終える。
「下半身の動脈触知・・・左の足背がかなり弱いな。雑音はないようだけど。冷感がある。松野さん?痛いのはこっちの足?」
「そっちそっち」
「反対のこっちは?」
「いや、そっちそっち」
「こっち?」
「あっち?」
「・・・・中野さん。ドプラー、持ってきて」
動脈の血流を詳しく見るため、流速計を持ってきてもらう。
その間に、肝臓の超音波。
「ベタベタするよ・・・!」腹にゼリーを塗り、大まかに確認。
「おっ。すげえ!」ゲームをいきなり中断した子供がのぞく。
「すまんが。画面の前はちょっと」
「すげえすげえ!」
「ばあさん、すまんがこの子を・・」
言うまでもなく、事務員が持ち上げた。
「はいはい、じゃあいっしょに向こうでゲームやろ。ゲームやろ!」
肝臓は萎縮しており、これでは肝硬変だ。腹水はない。肝内うっ血あり、心臓へそのまま・・こちらは正常だ。大動脈弁の軽度逆流は、老人ではお約束だ。ついでに腎臓やら、大動脈も確認する。
カルテの最近のデータ、かかりつけ開業医からのデータなどを参照。ここ数ヶ月は開業医フォローだが、ルーチン的な採血検査しかしておらず、肝心の腫瘍マーカーやウイルス定量が抜けている。足の痛みには痛み止めだけ。
ハズレの開業医に当たると大変だ。受診だけはさせるが、対症療法的で根本的な病態に目がいってない。ダラダラ、ダラダラ処方が増えていき病勢そのものが分かりにくくなる。そして肝心の検査がされていない。忘れているのか、知らないフリか。
こういう怒りを覚えることは、勉強するほど多々ある。だが患者側には、開業医への盲目的な信仰がまだ根強い。日本という国はまったく・・・。
ナースの持ってきた流速計、ペン先をようなものを足背に軽く当てる。
シュッポンシュッポンシュッポン・・とわずかだが聞こえる。
「点滴、せんとな・・30分で。生食100とリプル1アンプルを」
田中君はけっこうゲームにはまっている。
「田中くん。今から点滴するから。ナースとオレで15分交代で。その間、ドクターカーで昼食としようや」
「はいもうすぐ終わります!もう終わります!」
事務員はかなり興奮していた。
「よおし!よおし!ああっ?」
プッ、と画面が消えた。コンセントごと、ナースが抜いたのだ。
「ふげふげ!仕事中になんぞや!」
「何すんや!ババア!」子供は顔が真っ赤になった。
「るさいがこのガキが!」
「出てけ!帰れ!」子供は突進、ナースは何歩か後ずさった。
「あ」
そう呟いたのは、ばあさんだった。
「ふんどる・・・」
「ふんげ?」
「ふんどる。しきい、ふんどる」
「しきい?ああ」ナースはパッ、と足の位置を変えた。
ばあさんは、じいさんに耳打ちした。
「じいさん。あのかんごふさんが、しきいふんだ」
「なんやてえ?」
「うちのしきい、ふんだ」
玄関の敷居なら分かるが・・しかしじいさんは噴火した。
「あんたあ!ちょっと!もう入るな!」
「あっそ。そうでっか」ナースはムスッとして出て行った。「先生お願いねーん」
僕は家の時計を見た。
「11時半か。急がないとな。も、ええわ。オレ採血と点滴する。この血管ならいけそうだ」
じいさんの腕を指でたどり、勝手に評価する。
「その間、田中くんはナースと食ってきてくれ」
「はい!」事務員は何の躊躇もなく出て行った。
気を取り直し、じいさんの腕を綿で拭き拭き。
ええい。どいつもこいつも、遠慮なしが・・・!
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