だるいやつら ? 夕暮れにベルは鳴る
2007年3月12日 結局、この今川さんもドクターカー2号のお世話になることに。
僕は連絡のため、いったん<要塞>を出た。
外で待機する車、助手席へ。
「ふわあ。どうでした?」田中君がふと起きた。
「アクビすんなよお。こっちまでネムなる」
ナースに点滴の指示。事務長へ電話。
「出るかな、今度は?」
「大丈夫だと」
「意識は明瞭だけど、ケトアシドーシスっぽい。それで一見、胃腸炎なのかも」
つながった。
『おっそ〜いよ!君たち!』
「グッアフタヌーン、チェアリイ!それはいいとして。入院をもう1名!」
『先生。遅いですよ。こんな時間に言われても。詰所はもう申し送りの時間・・』
「本気で言ってるのか?」
『というのはホラ。了解。さっきの患者さんの受け入れしたら・・』
「いや。こっちを優先してくれ。いろいろ指示がある」
『先生方。夕刊、読みました?』
「そ、そんなの読む暇あるわけないだろ?」
『ニュースも?』
「このナビ、テレビ見れないじゃないかよ!で、何か?」
『いやいや・・・では残りの1軒、がむばってください』
「ぬう?」
『あ、それと。先生方が戻られても私、帰ってるかもしれませんので』
「慣れてる」
そう残して、再び家へ。
思わず、自動ドアを強引に横にずらそうとした。
「あ!しまった!」
とたん、プイプイプイプイ!と強烈なサイレンが鳴り出した。
「や、やべえ!つい!」
後ろを振り向いてするキョロキョロが、余計目に怪しい。
「ちがいます!ちがいます!」
カメラに向かって叫ぶが、プイプイは止まない。
やっとプイプイが止まり・・・
『先生ですね。どうぞ』どこぞや第三者の声で、ドアが開いた。
「すんません・・・今日はふんだりけったりだ」
じいさんの屋敷へ。ナースは点滴に難渋してないか・・・。
「ほわあ。おいひいはあ」
僕は近くの畳に、ザザーッ、とスライディングヘルニアした。
「な、なに悠長に食べてんだよ・・!」
「へ!もう帰る?」
パイナップル食べた楊枝を口から取り出し、おばさんは慌てた。
「今川じいさんはどこ?」
「トイレ」
「入院の同意はオッケーだよな?」
「うん。でも結婚はせえへんって」
「う!うる・・!」
「うるさい?うるそさん?」
拳は握られた。
「さ!行きましょか!」
見た目、ほとんど平気そうなじいさんが戻ってきた。
「すみません今川さん。点滴は始めようと思うのですが。このあとやってくる車に乗っていただいて」
「あや?もうええんかいな?」
「じゃなくて。自分らは、このあともう1軒行くとこがあって」
「はしごすんかな?」
「誰がそんな。ナースがこれから点滴するんで」
ナースはしかめっ面した。
「わし、できんわ」
「は?なに言ってる。やれよ」
「こんな手で?」
その両手を見ると・・・果汁でベタベタになっている。
「ふけよ!それがナースの手か?」
「先生がやったほうが確実やし」
僕は処置のカバンからアルコール綿を取り出し、ゆっくりとやさしく、怒りをこめて拭いた。
「あんれま?やさひいこと」
「・・・・」
「お〜お!キレイになったキレイになった!おれたちフンフンさんにんぐ〜」
バシン、と背中をたたいた。
「み〜ようひっ?」
「さっさと。役目をはたせ!」
じいさんに勧められ、その間僕はパイナップルを食べ続けた。
遠慮はしたが。うちの医局の原則として、遠慮は2回までとしている。
「はふ、ふむ・・」
「ははあ。おいしそうに食べるなあ先生。どれわしも」
「いやいや。すみませんがそれは」
「じゃ、よくなったら食べれるってことやな?」
「誰が言いましたそんなこと・・」
じいさんは片手で夕刊を読んでいる。
「ほお〜。これって先生らと違うよねえ?交通事故」
「ああ。事故には遭いかけましたがね」
「東大阪で、衝突事故。医療スタッフ3名重症」
「東大阪ですか。事故多いですね。あそこは」
新聞をのぞく。小さい記事で、よく見えない。
「ほお。なにや救急病院?真田はんの近くやないけ?」
「えっ?うそ?」
「わしはウソなどつかん!」じいさんはちょっと眉間が寄った。
その記事は・・そうだ。その通りだ。
なにや救急スタッフ、往診診療で車の一部が盗難に遭い、同病院のスタッフに迎えに来てもらった午前10時頃、高速インターに入る直前の交差点で後続車よりいきなり追突を受け・・・。
間違いない。このスタッフ3人は・・・あのときのあいつらだ。
後続車の行方は未だ分かっておらず、目撃情報によるとダンプカー・・・
さきほどの三輪トラックを思い出した。
「・・・・・おいナース。てて、点滴は」
「いけたいけた!やっといけた!」
何箇所か痛々しい部分もあったが、なんとか点滴は入ったようだ。
ナースは大汗で立ち上がった。
「ささ!にしなり!にしなり!」
「ほう。西成でっか?」じいさんは横になったまま目を丸くした。
「小林鉄工所!鉄工所!」ナースは安易にも口にした。
「てっこうしょ?こばやし?」じいさんは顔が固まった。
僕は嫌な予感がしたが、時間がなかった。
「ではすみません。ほったらかしみたいになって」
「あ、ああ。おい!」
じいさんの催促で、女中は慌ててドアを開けた。
僕らは螺旋階段を駆け足で降りていった。
「おい中野さん。行き先、個人名出したらいかんだろ!」
「はいはい!もうわかったわかった!」
「敷居!踏むなよ!」
大急ぎで靴を履き、ナースは前をドスドスと走った。
カバンの中の器具がガラガラ揺れている。
「中野さん!そこ気をつけろ!フンが落ちてる!」
「フンガーフンガーフマンケン!」
「・・・」
「ダマスダマスノフマキラー!」
玄関にたどり着いた。ナースは勢い止まず、ドアに衝突した。
「ウオー!」(←悲痛)
同時に、またプイプイプイ!の大演奏が始まった。
ナースはドアにへばりついたまま。
どうしよう。あの記事、気になるが。しかしもうあと1軒で終わる。
何も起こらないことを、今はただ祈ろう・・・。
僕は連絡のため、いったん<要塞>を出た。
外で待機する車、助手席へ。
「ふわあ。どうでした?」田中君がふと起きた。
「アクビすんなよお。こっちまでネムなる」
ナースに点滴の指示。事務長へ電話。
「出るかな、今度は?」
「大丈夫だと」
「意識は明瞭だけど、ケトアシドーシスっぽい。それで一見、胃腸炎なのかも」
つながった。
『おっそ〜いよ!君たち!』
「グッアフタヌーン、チェアリイ!それはいいとして。入院をもう1名!」
『先生。遅いですよ。こんな時間に言われても。詰所はもう申し送りの時間・・』
「本気で言ってるのか?」
『というのはホラ。了解。さっきの患者さんの受け入れしたら・・』
「いや。こっちを優先してくれ。いろいろ指示がある」
『先生方。夕刊、読みました?』
「そ、そんなの読む暇あるわけないだろ?」
『ニュースも?』
「このナビ、テレビ見れないじゃないかよ!で、何か?」
『いやいや・・・では残りの1軒、がむばってください』
「ぬう?」
『あ、それと。先生方が戻られても私、帰ってるかもしれませんので』
「慣れてる」
そう残して、再び家へ。
思わず、自動ドアを強引に横にずらそうとした。
「あ!しまった!」
とたん、プイプイプイプイ!と強烈なサイレンが鳴り出した。
「や、やべえ!つい!」
後ろを振り向いてするキョロキョロが、余計目に怪しい。
「ちがいます!ちがいます!」
カメラに向かって叫ぶが、プイプイは止まない。
やっとプイプイが止まり・・・
『先生ですね。どうぞ』どこぞや第三者の声で、ドアが開いた。
「すんません・・・今日はふんだりけったりだ」
じいさんの屋敷へ。ナースは点滴に難渋してないか・・・。
「ほわあ。おいひいはあ」
僕は近くの畳に、ザザーッ、とスライディングヘルニアした。
「な、なに悠長に食べてんだよ・・!」
「へ!もう帰る?」
パイナップル食べた楊枝を口から取り出し、おばさんは慌てた。
「今川じいさんはどこ?」
「トイレ」
「入院の同意はオッケーだよな?」
「うん。でも結婚はせえへんって」
「う!うる・・!」
「うるさい?うるそさん?」
拳は握られた。
「さ!行きましょか!」
見た目、ほとんど平気そうなじいさんが戻ってきた。
「すみません今川さん。点滴は始めようと思うのですが。このあとやってくる車に乗っていただいて」
「あや?もうええんかいな?」
「じゃなくて。自分らは、このあともう1軒行くとこがあって」
「はしごすんかな?」
「誰がそんな。ナースがこれから点滴するんで」
ナースはしかめっ面した。
「わし、できんわ」
「は?なに言ってる。やれよ」
「こんな手で?」
その両手を見ると・・・果汁でベタベタになっている。
「ふけよ!それがナースの手か?」
「先生がやったほうが確実やし」
僕は処置のカバンからアルコール綿を取り出し、ゆっくりとやさしく、怒りをこめて拭いた。
「あんれま?やさひいこと」
「・・・・」
「お〜お!キレイになったキレイになった!おれたちフンフンさんにんぐ〜」
バシン、と背中をたたいた。
「み〜ようひっ?」
「さっさと。役目をはたせ!」
じいさんに勧められ、その間僕はパイナップルを食べ続けた。
遠慮はしたが。うちの医局の原則として、遠慮は2回までとしている。
「はふ、ふむ・・」
「ははあ。おいしそうに食べるなあ先生。どれわしも」
「いやいや。すみませんがそれは」
「じゃ、よくなったら食べれるってことやな?」
「誰が言いましたそんなこと・・」
じいさんは片手で夕刊を読んでいる。
「ほお〜。これって先生らと違うよねえ?交通事故」
「ああ。事故には遭いかけましたがね」
「東大阪で、衝突事故。医療スタッフ3名重症」
「東大阪ですか。事故多いですね。あそこは」
新聞をのぞく。小さい記事で、よく見えない。
「ほお。なにや救急病院?真田はんの近くやないけ?」
「えっ?うそ?」
「わしはウソなどつかん!」じいさんはちょっと眉間が寄った。
その記事は・・そうだ。その通りだ。
なにや救急スタッフ、往診診療で車の一部が盗難に遭い、同病院のスタッフに迎えに来てもらった午前10時頃、高速インターに入る直前の交差点で後続車よりいきなり追突を受け・・・。
間違いない。このスタッフ3人は・・・あのときのあいつらだ。
後続車の行方は未だ分かっておらず、目撃情報によるとダンプカー・・・
さきほどの三輪トラックを思い出した。
「・・・・・おいナース。てて、点滴は」
「いけたいけた!やっといけた!」
何箇所か痛々しい部分もあったが、なんとか点滴は入ったようだ。
ナースは大汗で立ち上がった。
「ささ!にしなり!にしなり!」
「ほう。西成でっか?」じいさんは横になったまま目を丸くした。
「小林鉄工所!鉄工所!」ナースは安易にも口にした。
「てっこうしょ?こばやし?」じいさんは顔が固まった。
僕は嫌な予感がしたが、時間がなかった。
「ではすみません。ほったらかしみたいになって」
「あ、ああ。おい!」
じいさんの催促で、女中は慌ててドアを開けた。
僕らは螺旋階段を駆け足で降りていった。
「おい中野さん。行き先、個人名出したらいかんだろ!」
「はいはい!もうわかったわかった!」
「敷居!踏むなよ!」
大急ぎで靴を履き、ナースは前をドスドスと走った。
カバンの中の器具がガラガラ揺れている。
「中野さん!そこ気をつけろ!フンが落ちてる!」
「フンガーフンガーフマンケン!」
「・・・」
「ダマスダマスノフマキラー!」
玄関にたどり着いた。ナースは勢い止まず、ドアに衝突した。
「ウオー!」(←悲痛)
同時に、またプイプイプイ!の大演奏が始まった。
ナースはドアにへばりついたまま。
どうしよう。あの記事、気になるが。しかしもうあと1軒で終わる。
何も起こらないことを、今はただ祈ろう・・・。
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