<弟>は4人の青年を指差した。

「お前らか。お前らホントに医者、(トラックで)跳ねたんやな。わっはは!」

暫くの沈黙のあと、4人のうちのチビが<弟>に近寄った。

「だいたい。お前のオカンが、医者呼んだんが始まりや!」
「おら医者、行かんってのに!」
「医者がな!ここまで<往診>に来るっちゅう話にされとったんや。あんだけ来んかった病院がやで?しかも今日になってな!」
「倒れたっていうてもな。一瞬やで一瞬!いけまんがな!」

 会話の途中、まるで眠気のように傾きつつある。僕と時々眼が合う。表情は初期のジュード・ロウのように狂気を帯びていた。

「お前が病院行ったらな。わしら困んねん!」
「言わんがな!」
「病院で手術とか何かあったら、麻酔とかでつい喋ってまうんやろ?」

 実にありえなかったが、こちらは口を挟む余裕などなかった。

どうやら、わけありのファミリーか何かのようだな・・・!

「救急車なんか、どれ。来んやないか。もう帰れ。お前ら!」<弟分>はアゴで促した。
「いや。来るで。最後の一件がここやって聞いた」

どうやって聞いたかは知らないが、まずい状況だ。

「サトル(←チビ)。おまえ最近、えらそうなんちゃうんか?」
「そんなことないやろ」
「さっきから黙っといたらええ気に」
「やってみいや!そしたらやってみいや!」青二才は大口を開けた。

<弟>は両拳を合わせ、パキパキ指を鳴らした。
「なあ。ホントのパンチ見せたろか」

 頭のこと(髪)のはずがない。ここにはジョークなどなかった。この殺伐とした町は、ダウンタウンのメインストリートに違いない、など勝手にあれこれ想像した。

 <弟>がチビのエリをつかみ、ゆっくり引き寄せた瞬間、パンと鈍い音が聞こえた。チビはまともに殴られ、そのまま後方に吹っ飛んだ。人形のようだ。

 すぐさま弟は、長い脚で真横にブン、ブンと蹴りを入れていった。慣れている。残り3人のうちの1人の腹に、まともに命中していく。後ずさっても後ずさっても、蹴りは激しさを増していった。あと2人は反射的にか数歩退がった。

<兄>はボケっとたたずんでいる。そして<弟>は僕を指差し・・・

「お前も、やったろか!」

指さされ僕は凝固したが、とたん彼の電源が切れた。
「うっ」
「あっ」

 彼はそのまま、力なく地面に肩から倒れた。まさしく電源が切れたようだ。
 軽くピクつき、なんとか腕を曲げてついた。

「あたっ。くそ」なんで?という表情で彼は起き上がろうとした。
「あの。心電図によるとあなたの病名は」
名乗り出ようとしたが、彼はさっそくと4人に手足をつかまれた。

「わっははは!おい!」それでも余裕?の彼は、手足を持たれたまま、4人にタタタ、と連れて行かれた。
「はっはー!おいおい?」

「あ!ちょっと!」
 僕は追いつけず、さきほどの家へ。実はオバサンはそこから見ていたようだ。

「おばさん!いやお母さん!警察と、うちの病院電話してください!ここ、携帯がつながらなくて!」
「あんた医者なんやろ!なんとか出来んのか!たよりない!」
「暴力までは、できません!」

 暗がりの中、足音に耳を傾け走った。走るまでもなく、<弟>は地べたで仰向けに寝かされていた。すでにボコボコにされている。

 胸をつねると、手がそこへ飛んできた。幸い当たらず。レベル100といったところ。

 さらに診察したが、打撲程度と思われる。神経学的所見も問題ないが、後遺症が出ることはありますよ、とムンテラする暇などない。

 かかっている液体はたぶん小便だ。DCも取られたのか、どこにあるのか・・絶望的と思われる。

 ガッ・・・ガガガガ・・・とエンジンの音だ。さっきの三輪トラックか。

「起きて!起きて!あ、そうか」

 バイタルはせめてと確認。脈は・・・今のとこ、強い。それしか分らない。最近は超音波やカテーテルなど一見>百聞の検査ばかりしてて、盲目的な所見取りに慣れてなかった。

でも、時々触知できないときがあるな・・・!

 ルート(点滴)をとりたいが、今度はルート(道路)にトラックが躍り出そうだ。救急車までそう遠くないが、仕方なく朦朧の彼の片腕を背負った。

「起きてくれ!起きてください!」
「・・・」とりあえず目が開いた。レベル10だ。

「とりあえず、家に入りましょう!」 二人三脚のようなぎこちなさで、僕らは彼らの1軒屋に入り込んだ。

「はあ。はあ。ここがどこか、わかりますか?」
と呼びかけたところ、彼はくわっと眼を見開いた。

「アホが!自分の家くらい分かるわボケナス!」

 レベルは0(クリア=意識清明)・・としたいところだが、ここは減点して1(見当識は保たれるが清明とまではいえず)とした。

 鍵をかけてもらい、ここで待機することにした。

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