だるいやつら 最終回 LET IT SNOW
2007年5月5日「さあ先生!今のうちに処置してください!」
「止まるのは危ないか・・しゃあないな!」
2つのシリンジポンプの片方、静注用のボタンを押し、注射液を早送り。不整脈は減ったが速脈は同様。
「DCがないなくそっ・・!体外ペーシングは?」
独りごとのように、荒れた車内をくまなく探す。
「なんで、先にみんなを呼んでこなかった!」
「えっ?なんですか!」
「もういい!急いで行け!」
近くで待機する仲間に辿り着くべく、事務員はアクセルをめいっぱい踏んだ。
だが後ろは再びまぶしい。大声が聞こえる。
「降りーやー!降りーやー!」
振り向く勇気はなかった。
大きな石のようなものが背後にぶつかり、いくつかは割れたガラス通して入ってくる。
缶の転がる音。いろいろ投げ込んでるようだ。火炎ビンまで飛んできそうで怖かった。
「・・・ん?おいあれ、高架じゃないのか?」
薄暗く、高架が左右に延びているのが見える。
「おいあれ!天井ぶつけたとこだろ!いいのか!」
いきなりVTが走った。グーで前胸部をたたきつける。
「ぐっ!」患者は思わず飛び起きまた沈む。
「戻った!だが頻脈だまた起こる!」
「先生!天井へこんだ後は、きちんと通れましたから大丈夫!」事務員が焦る。
「パンクしてたんだろ!あれそのままか!」
「ハア!ハア!」
「どある!また過換気か!」
「ハア!ハア!」
高架の直前まで来た。ブレーキでも間に合わない。
またVTが走った。拳をまた振り上げた。
「進めよ!」
「しもた空気圧、入れたんだった!車高が上が・・!」
「だる!おい!」
叩きつけるも、脈が戻らない。
「くそ!戻れ!」
もう一度振り下ろした拳が、また胸の真上にまで来た。
事務員はハンドルから手を放し、うずくまった。
「うわーっ!もう終わったーやー!ふせろ!」
「まてまてまてぎゃあ!」
天井に、再び強烈な激震が走った。天井の大地震。拳は打ちつけられずスカッと外れ、僕らもろとも床にたたきつけられた。ストレッチャーは横倒しされ、患者の抜けた血管から血がパシッ、と僕の胸に散った。
「うわわ!おおっと!」思わず刺入部を押さえる。
ジグザグに走行しながら、車はなんとかバランスを保って徐々に停車していった。
モニターは外れており、反射的に脈をとった。
「・・・脈。ある!ある!大丈夫だ!いけた!」
倒れて顔をしかめている患者の真横で、僕は両手を伸ばしていた。
「こ、このしょ・・衝撃そのもので助かったのか・・そうとしか」
全身の痛みで立ち上がれずじっとしたところ、左側のドアがバタン、と後ろにスライドした。
いくつかの靴が割り込み、みな患者へととりかかった。
無言で抱えられ、持ち運びのモニター画面、体外ペーシングが取り付けられた。
「なにしてるんですか。先輩!」トシキのツンとした鼻が、頭上に見えた。
「レート遅めですね。ペーシングかけたまま、搬出します」シローが新たに点滴確保し、バックのドアを開放した。
出て行く時、足をトシキに踏まれた。ついでのイヤミだろうが、あの男はたまにする。
やっと起き上がると、眺めが壮観だった。ドクターカーの前にその2号。その周囲にパトカーが5,6台。機動隊のような輩までいる。ついてきた野次馬ドクターの車も数台。近くでうんこ座りしている大勢のジャージ姿<期待族>。現代だったら確実に<写メール>ものだ。
目をこらすと、両手を腰に当てているダークスーツのイケメンが1人。サングラスしている。
「やあ先生!」声から事務長とわかった。
「う、おお・・・!」
「よくもまあ、派手にやってくれましたね!先生の好きな<ロボコン、0点>ですよ!」
なんとか着地し、運ばれていくドクターカー2号の患者を見送った。総統を呼び出し、ICDの植え込みとなりそうだ。
「事務長。ちゃんと現地まで、来てくれよ・・・」
「すみませんね。夜間で、あの住所では分らなかったんです」
「ウソつけ。気まずかったんだろ?知ってるぞオレ」
僕と事務長はヘタッ、と近くの地べたに座り込んだ。
「ててて・・・知らなかったぞ。患者は5年前、当院であしらわれて」
「でも、私らスタッフが入れ替えされる前の話で」
「だが。このタイミングは何なんだ?」
「タイミング・・とは?」
「5年たって診療録は破棄。でも患者は病院間のブラックリストに登録されてるまま」
「母親が言ってましたか・・」気まずそうに事務長はうつむいた。
「んで、5年たったらいきなりハイ診させていただきますって・・・お前、どういう神経してんだ?」
「わ、私じゃないですよ!その判断は!」
「朝、お前が電話受けたんだろ・・」
「いえ。詳しくは経営者の・・」
「またそれか!いい加減にしろ!自分を持てよ!」
僕はゆっくり起き上った。
「運転してた田中君は大丈夫かな・・」
「無傷です。彼は、もう帰りました」
「なに?あいつ・・・!」
「予定外の残業だったからって」
「理由にならんならん!」
「ま、話は先生がじっくりされるって聞きましたんで・・・!」
「言うてない言うてない!まるでナースの勝手なムンテラのセッティングかいや?」
警官が1人、走ってきた。
「先生。夜間に診療、お疲れ様です」
「皮肉で言ってんのか?」
「いえいえ。ものすごい戦術ですな!はは!」
「せんじゅつ?医は仁術・・錬金術。えっ?うっ?」
警官の人差し指を追って振り向くと、背後の高架・・・
3輪トラックの運転・助手席がモロにめりこんでいる。あの高さで越えれるはずがない。
「な!な!すごいよすごいよね!」いい年した警官が無邪気に笑う。
「し、死んだんですか・・・?」
「いや。死んではないんよなあこれがまた!」
聞くまでなかった。うなだれた青二才ら4人は、トラックの横からスゴスゴと連行されつつあった。
警官はコーヒーカップ片手に、白い息で何度も頷いている。
「ははは。先生。ひとつ、質問を」
「なに?」
「わし、頭のMRIっていうのをしたんですわ。ドックで」
「ええ」
「診断がな。<らくななんちゃら>やって。それっていいもんか?」
「らくな・・ラクナ梗塞?」
「あ!それそれ。良性ですか?悪性ですか?」
パトカー、救急車のランプに繰り返し反射され、体に色がつきそうだった。
事務長のリンカーンの助手席に半分身をうつし・・・
「ラクなわけ、ないでしょうが・・・!事務長。出してけれ!ゲバゲバ!」
それしか浮かばず、ひきつった警官を睨んだままドアを閉めた。
事務長はパトカー間を徐行しつつ、うすら笑った。
「さて。ドクタカーの修理ですが、10年ローンの天引きとさせていただきます」
「冗談きついだる・・・」
事務長は僕の肩をバシン、と叩いた。
「大丈夫。しっかり働いてはいただきますが、手荒に扱いませんよ。なんせ先生らはだい・・」
「大事・・な商品なんだもんな」
彼は勝ち誇ったように笑いかけ、都会ひしめく交差点の中へと・・ゆっくり出た。
寒空の彼方から、雪が降ってきている。
いや、もうすでに降っていたんだ。
♪ チャララララララ〜
オ〜ザウェザアウサイッズフライトゥ〜バッザファ〜イズソ〜ディライフゥ〜
アンドゥスィンスウィビノゥプレストゥゴ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜
イッダンッショサイ〜ゾスタッピン〜アンアィブロ〜サコ〜フォパピン〜
ザライツァタ〜アウェイダンロ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜
ウエンウィファイナリィセイグッナ〜イ、ハ〜イルヘイゴ〜イオウインザスト〜ン
バッヒュリアリ〜ホ〜ミタ〜イ、オーザウェイホ〜アルビウォ〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜ザファイィズスロ〜リダァイ〜ン、アンマディ〜ウィスティ〜グバイ〜ン、
バッズロンアジュラッビソ〜
レッリスノ〜〜〜〜レリッスノ〜〜〜〜レリッスノ〜
チャッチャチャ〜ラララチャッチャチャッチャ〜!
チャチャチャチャッチャラ〜〜〜〜!
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「止まるのは危ないか・・しゃあないな!」
2つのシリンジポンプの片方、静注用のボタンを押し、注射液を早送り。不整脈は減ったが速脈は同様。
「DCがないなくそっ・・!体外ペーシングは?」
独りごとのように、荒れた車内をくまなく探す。
「なんで、先にみんなを呼んでこなかった!」
「えっ?なんですか!」
「もういい!急いで行け!」
近くで待機する仲間に辿り着くべく、事務員はアクセルをめいっぱい踏んだ。
だが後ろは再びまぶしい。大声が聞こえる。
「降りーやー!降りーやー!」
振り向く勇気はなかった。
大きな石のようなものが背後にぶつかり、いくつかは割れたガラス通して入ってくる。
缶の転がる音。いろいろ投げ込んでるようだ。火炎ビンまで飛んできそうで怖かった。
「・・・ん?おいあれ、高架じゃないのか?」
薄暗く、高架が左右に延びているのが見える。
「おいあれ!天井ぶつけたとこだろ!いいのか!」
いきなりVTが走った。グーで前胸部をたたきつける。
「ぐっ!」患者は思わず飛び起きまた沈む。
「戻った!だが頻脈だまた起こる!」
「先生!天井へこんだ後は、きちんと通れましたから大丈夫!」事務員が焦る。
「パンクしてたんだろ!あれそのままか!」
「ハア!ハア!」
「どある!また過換気か!」
「ハア!ハア!」
高架の直前まで来た。ブレーキでも間に合わない。
またVTが走った。拳をまた振り上げた。
「進めよ!」
「しもた空気圧、入れたんだった!車高が上が・・!」
「だる!おい!」
叩きつけるも、脈が戻らない。
「くそ!戻れ!」
もう一度振り下ろした拳が、また胸の真上にまで来た。
事務員はハンドルから手を放し、うずくまった。
「うわーっ!もう終わったーやー!ふせろ!」
「まてまてまてぎゃあ!」
天井に、再び強烈な激震が走った。天井の大地震。拳は打ちつけられずスカッと外れ、僕らもろとも床にたたきつけられた。ストレッチャーは横倒しされ、患者の抜けた血管から血がパシッ、と僕の胸に散った。
「うわわ!おおっと!」思わず刺入部を押さえる。
ジグザグに走行しながら、車はなんとかバランスを保って徐々に停車していった。
モニターは外れており、反射的に脈をとった。
「・・・脈。ある!ある!大丈夫だ!いけた!」
倒れて顔をしかめている患者の真横で、僕は両手を伸ばしていた。
「こ、このしょ・・衝撃そのもので助かったのか・・そうとしか」
全身の痛みで立ち上がれずじっとしたところ、左側のドアがバタン、と後ろにスライドした。
いくつかの靴が割り込み、みな患者へととりかかった。
無言で抱えられ、持ち運びのモニター画面、体外ペーシングが取り付けられた。
「なにしてるんですか。先輩!」トシキのツンとした鼻が、頭上に見えた。
「レート遅めですね。ペーシングかけたまま、搬出します」シローが新たに点滴確保し、バックのドアを開放した。
出て行く時、足をトシキに踏まれた。ついでのイヤミだろうが、あの男はたまにする。
やっと起き上がると、眺めが壮観だった。ドクターカーの前にその2号。その周囲にパトカーが5,6台。機動隊のような輩までいる。ついてきた野次馬ドクターの車も数台。近くでうんこ座りしている大勢のジャージ姿<期待族>。現代だったら確実に<写メール>ものだ。
目をこらすと、両手を腰に当てているダークスーツのイケメンが1人。サングラスしている。
「やあ先生!」声から事務長とわかった。
「う、おお・・・!」
「よくもまあ、派手にやってくれましたね!先生の好きな<ロボコン、0点>ですよ!」
なんとか着地し、運ばれていくドクターカー2号の患者を見送った。総統を呼び出し、ICDの植え込みとなりそうだ。
「事務長。ちゃんと現地まで、来てくれよ・・・」
「すみませんね。夜間で、あの住所では分らなかったんです」
「ウソつけ。気まずかったんだろ?知ってるぞオレ」
僕と事務長はヘタッ、と近くの地べたに座り込んだ。
「ててて・・・知らなかったぞ。患者は5年前、当院であしらわれて」
「でも、私らスタッフが入れ替えされる前の話で」
「だが。このタイミングは何なんだ?」
「タイミング・・とは?」
「5年たって診療録は破棄。でも患者は病院間のブラックリストに登録されてるまま」
「母親が言ってましたか・・」気まずそうに事務長はうつむいた。
「んで、5年たったらいきなりハイ診させていただきますって・・・お前、どういう神経してんだ?」
「わ、私じゃないですよ!その判断は!」
「朝、お前が電話受けたんだろ・・」
「いえ。詳しくは経営者の・・」
「またそれか!いい加減にしろ!自分を持てよ!」
僕はゆっくり起き上った。
「運転してた田中君は大丈夫かな・・」
「無傷です。彼は、もう帰りました」
「なに?あいつ・・・!」
「予定外の残業だったからって」
「理由にならんならん!」
「ま、話は先生がじっくりされるって聞きましたんで・・・!」
「言うてない言うてない!まるでナースの勝手なムンテラのセッティングかいや?」
警官が1人、走ってきた。
「先生。夜間に診療、お疲れ様です」
「皮肉で言ってんのか?」
「いえいえ。ものすごい戦術ですな!はは!」
「せんじゅつ?医は仁術・・錬金術。えっ?うっ?」
警官の人差し指を追って振り向くと、背後の高架・・・
3輪トラックの運転・助手席がモロにめりこんでいる。あの高さで越えれるはずがない。
「な!な!すごいよすごいよね!」いい年した警官が無邪気に笑う。
「し、死んだんですか・・・?」
「いや。死んではないんよなあこれがまた!」
聞くまでなかった。うなだれた青二才ら4人は、トラックの横からスゴスゴと連行されつつあった。
警官はコーヒーカップ片手に、白い息で何度も頷いている。
「ははは。先生。ひとつ、質問を」
「なに?」
「わし、頭のMRIっていうのをしたんですわ。ドックで」
「ええ」
「診断がな。<らくななんちゃら>やって。それっていいもんか?」
「らくな・・ラクナ梗塞?」
「あ!それそれ。良性ですか?悪性ですか?」
パトカー、救急車のランプに繰り返し反射され、体に色がつきそうだった。
事務長のリンカーンの助手席に半分身をうつし・・・
「ラクなわけ、ないでしょうが・・・!事務長。出してけれ!ゲバゲバ!」
それしか浮かばず、ひきつった警官を睨んだままドアを閉めた。
事務長はパトカー間を徐行しつつ、うすら笑った。
「さて。ドクタカーの修理ですが、10年ローンの天引きとさせていただきます」
「冗談きついだる・・・」
事務長は僕の肩をバシン、と叩いた。
「大丈夫。しっかり働いてはいただきますが、手荒に扱いませんよ。なんせ先生らはだい・・」
「大事・・な商品なんだもんな」
彼は勝ち誇ったように笑いかけ、都会ひしめく交差点の中へと・・ゆっくり出た。
寒空の彼方から、雪が降ってきている。
いや、もうすでに降っていたんだ。
♪ チャララララララ〜
オ〜ザウェザアウサイッズフライトゥ〜バッザファ〜イズソ〜ディライフゥ〜
アンドゥスィンスウィビノゥプレストゥゴ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜
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ザライツァタ〜アウェイダンロ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜
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レッリスノ〜〜〜〜レリッスノ〜〜〜〜レリッスノ〜
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