「さあ先生!今のうちに処置してください!」
「止まるのは危ないか・・しゃあないな!」
2つのシリンジポンプの片方、静注用のボタンを押し、注射液を早送り。不整脈は減ったが速脈は同様。

「DCがないなくそっ・・!体外ペーシングは?」
独りごとのように、荒れた車内をくまなく探す。
「なんで、先にみんなを呼んでこなかった!」
「えっ?なんですか!」
「もういい!急いで行け!」

近くで待機する仲間に辿り着くべく、事務員はアクセルをめいっぱい踏んだ。
だが後ろは再びまぶしい。大声が聞こえる。
「降りーやー!降りーやー!」
振り向く勇気はなかった。

大きな石のようなものが背後にぶつかり、いくつかは割れたガラス通して入ってくる。
缶の転がる音。いろいろ投げ込んでるようだ。火炎ビンまで飛んできそうで怖かった。

「・・・ん?おいあれ、高架じゃないのか?」
薄暗く、高架が左右に延びているのが見える。
「おいあれ!天井ぶつけたとこだろ!いいのか!」

いきなりVTが走った。グーで前胸部をたたきつける。
「ぐっ!」患者は思わず飛び起きまた沈む。
「戻った!だが頻脈だまた起こる!」
「先生!天井へこんだ後は、きちんと通れましたから大丈夫!」事務員が焦る。
「パンクしてたんだろ!あれそのままか!」
「ハア!ハア!」
「どある!また過換気か!」
「ハア!ハア!」

高架の直前まで来た。ブレーキでも間に合わない。

またVTが走った。拳をまた振り上げた。
「進めよ!」
「しもた空気圧、入れたんだった!車高が上が・・!」
「だる!おい!」

叩きつけるも、脈が戻らない。
「くそ!戻れ!」
もう一度振り下ろした拳が、また胸の真上にまで来た。

事務員はハンドルから手を放し、うずくまった。
「うわーっ!もう終わったーやー!ふせろ!」
「まてまてまてぎゃあ!」

天井に、再び強烈な激震が走った。天井の大地震。拳は打ちつけられずスカッと外れ、僕らもろとも床にたたきつけられた。ストレッチャーは横倒しされ、患者の抜けた血管から血がパシッ、と僕の胸に散った。

「うわわ!おおっと!」思わず刺入部を押さえる。
ジグザグに走行しながら、車はなんとかバランスを保って徐々に停車していった。
モニターは外れており、反射的に脈をとった。

「・・・脈。ある!ある!大丈夫だ!いけた!」
倒れて顔をしかめている患者の真横で、僕は両手を伸ばしていた。
「こ、このしょ・・衝撃そのもので助かったのか・・そうとしか」
全身の痛みで立ち上がれずじっとしたところ、左側のドアがバタン、と後ろにスライドした。

いくつかの靴が割り込み、みな患者へととりかかった。
無言で抱えられ、持ち運びのモニター画面、体外ペーシングが取り付けられた。

「なにしてるんですか。先輩!」トシキのツンとした鼻が、頭上に見えた。
「レート遅めですね。ペーシングかけたまま、搬出します」シローが新たに点滴確保し、バックのドアを開放した。

 出て行く時、足をトシキに踏まれた。ついでのイヤミだろうが、あの男はたまにする。

 やっと起き上がると、眺めが壮観だった。ドクターカーの前にその2号。その周囲にパトカーが5,6台。機動隊のような輩までいる。ついてきた野次馬ドクターの車も数台。近くでうんこ座りしている大勢のジャージ姿<期待族>。現代だったら確実に<写メール>ものだ。

 目をこらすと、両手を腰に当てているダークスーツのイケメンが1人。サングラスしている。

「やあ先生!」声から事務長とわかった。
「う、おお・・・!」
「よくもまあ、派手にやってくれましたね!先生の好きな<ロボコン、0点>ですよ!」

 なんとか着地し、運ばれていくドクターカー2号の患者を見送った。総統を呼び出し、ICDの植え込みとなりそうだ。

「事務長。ちゃんと現地まで、来てくれよ・・・」
「すみませんね。夜間で、あの住所では分らなかったんです」
「ウソつけ。気まずかったんだろ?知ってるぞオレ」

僕と事務長はヘタッ、と近くの地べたに座り込んだ。

「ててて・・・知らなかったぞ。患者は5年前、当院であしらわれて」
「でも、私らスタッフが入れ替えされる前の話で」
「だが。このタイミングは何なんだ?」
「タイミング・・とは?」
「5年たって診療録は破棄。でも患者は病院間のブラックリストに登録されてるまま」
「母親が言ってましたか・・」気まずそうに事務長はうつむいた。
「んで、5年たったらいきなりハイ診させていただきますって・・・お前、どういう神経してんだ?」
「わ、私じゃないですよ!その判断は!」
「朝、お前が電話受けたんだろ・・」
「いえ。詳しくは経営者の・・」
「またそれか!いい加減にしろ!自分を持てよ!」

僕はゆっくり起き上った。
「運転してた田中君は大丈夫かな・・」
「無傷です。彼は、もう帰りました」
「なに?あいつ・・・!」
「予定外の残業だったからって」
「理由にならんならん!」
「ま、話は先生がじっくりされるって聞きましたんで・・・!」
「言うてない言うてない!まるでナースの勝手なムンテラのセッティングかいや?」

警官が1人、走ってきた。
「先生。夜間に診療、お疲れ様です」
「皮肉で言ってんのか?」
「いえいえ。ものすごい戦術ですな!はは!」
「せんじゅつ?医は仁術・・錬金術。えっ?うっ?」

警官の人差し指を追って振り向くと、背後の高架・・・
3輪トラックの運転・助手席がモロにめりこんでいる。あの高さで越えれるはずがない。

「な!な!すごいよすごいよね!」いい年した警官が無邪気に笑う。
「し、死んだんですか・・・?」
「いや。死んではないんよなあこれがまた!」

聞くまでなかった。うなだれた青二才ら4人は、トラックの横からスゴスゴと連行されつつあった。

警官はコーヒーカップ片手に、白い息で何度も頷いている。
「ははは。先生。ひとつ、質問を」
「なに?」
「わし、頭のMRIっていうのをしたんですわ。ドックで」
「ええ」
「診断がな。<らくななんちゃら>やって。それっていいもんか?」
「らくな・・ラクナ梗塞?」
「あ!それそれ。良性ですか?悪性ですか?」

パトカー、救急車のランプに繰り返し反射され、体に色がつきそうだった。

事務長のリンカーンの助手席に半分身をうつし・・・

「ラクなわけ、ないでしょうが・・・!事務長。出してけれ!ゲバゲバ!」

それしか浮かばず、ひきつった警官を睨んだままドアを閉めた。

事務長はパトカー間を徐行しつつ、うすら笑った。
「さて。ドクタカーの修理ですが、10年ローンの天引きとさせていただきます」
「冗談きついだる・・・」

事務長は僕の肩をバシン、と叩いた。
「大丈夫。しっかり働いてはいただきますが、手荒に扱いませんよ。なんせ先生らはだい・・」
「大事・・な商品なんだもんな」

彼は勝ち誇ったように笑いかけ、都会ひしめく交差点の中へと・・ゆっくり出た。

 寒空の彼方から、雪が降ってきている。

いや、もうすでに降っていたんだ。




♪ チャララララララ〜

オ〜ザウェザアウサイッズフライトゥ〜バッザファ〜イズソ〜ディライフゥ〜
アンドゥスィンスウィビノゥプレストゥゴ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜

イッダンッショサイ〜ゾスタッピン〜アンアィブロ〜サコ〜フォパピン〜
ザライツァタ〜アウェイダンロ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜

ウエンウィファイナリィセイグッナ〜イ、ハ〜イルヘイゴ〜イオウインザスト〜ン
バッヒュリアリ〜ホ〜ミタ〜イ、オーザウェイホ〜アルビウォ〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜ザファイィズスロ〜リダァイ〜ン、アンマディ〜ウィスティ〜グバイ〜ン、
バッズロンアジュラッビソ〜

レッリスノ〜〜〜〜レリッスノ〜〜〜〜レリッスノ〜

チャッチャチャ〜ラララチャッチャチャッチャ〜!
チャチャチャチャッチャラ〜〜〜〜!

http://www.the-north-pole.com/carols/letitsnow.html

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