「ムウウ・・くそ〜っ。今日は患者が来んな・・・」
開業医をオープンして数か月。客はいっこうに増えず。しかし従業員への風当たりは厳しかった。

事務員2人が、パソコンと睨めっこ(たぶん寝ている)。
ナース1人もリハビリで電気治療中。

暇ではあるが、院長の緊迫した視線がかなりストレスだった。
残業代や時給アップの要請があったが、院長はほったらかし。

1人、患者が到着。

「ほ、ほら来た!コラッ!ボケボケす、すんな!」
診察室へ戻る院長。しばらく待つと、若い方の事務員がカルテを持参。

「風邪だそうです。院長先生」
「わわ、わしが診てもないのに、しし!診断なんかすっな!」

若い男性が入室。
「咳と痰が出て。風邪だと思うけど」
「いやいや、分からんぞ」
喉、胸を診察。

「う〜ん・・・」
「風邪でしょう?」
「いや、扁桃炎だな・・・それも急性の」
「同じじゃないんですか?」
「ち、ちがうわいっ。げ、厳密には!」
「じゃ、薬を・・」

院長は、最近の収益が少ないのを思い出した。

「て、点滴していかんか?」
「時間ない。あんなの、してもおんなじだろ?」
「お、おんなじではないよう!」
「何、入ってるの?どうせブドウ糖くらいだろ?」
「うぬぬ・・・!で、では去痰剤の吸入。ついでに咽頭の培養をば」
「痰は出せるよ。ペッ!」ティッシュ丸める。
「そ、その痰を培養にをば・・・!」
「あ、捨てたよ。今」ゴミ箱へ。
「おぬし、検診は?」
「受けてない。めんどくさいしね」
「若造でも何かあるやもしれんぞ。レントゲンを・・」
「あ、いいよ。そういうのは<ちゃんとした病院>で受けるから」
「うぬう・・・!」

患者に交わされ、カルテははやくも事務室で処理された。
暇なので、若いナースのとこへ。

「あの、先生」
「む?」
「当院は、忘年会などのイベントは・・」
「ふん。そんなことか。ウン千万の借金して、全然返せてないんだ。余裕がない。それに人件費やら電気代やらでフン!そんな余裕などないわい!」

ところが、たまたま来た患者に院長はあることを教わった。
新衛門さん風の患者。

「先生。儲かろうと思うのなら、まず周囲を取り込むことですぞ」
「ハーレムを?」
「そうではない。ゴージャスに一度ふるまってはどうか。器の大きさを見せつければ、あたかも大きな船に乗った気分になるものですぞ。そうすれば彼ら自身が頑張って、患者をどんどん引っ張ってくれるかもしれぬ!」
「そ、そうか・・・では一度やってみるか。そもさん!」
「せっぱ!」

神戸の料亭の写真を刷った招待状を回す。

「み、みな・・その。全員、来てもらえんかの?」
目が点になった3人の前で頭を下げる。中年女性事務員が見入る。

「こんな高いところ・・・いいんですか?」
「オッホン!わしに任せておけ!これタクシー代!」
諭吉を1枚ずつ渡す。

「先生。でもどうして・・」若いナースが訊ねた。
「ん?いやいや、君らと本音で話がしたくなってな!」
「本音で・・・ですか。あたしたちは何も隠してなど」
「かまわんかまわん!何でも言いなさい!広い心で受け止めてみせるわ!」

タクシーを呼ぶ前、玄関前でナースに呼ばれた。雨が降ってて傘をさす。

「なんじゃね?」
「先生。楽しいひとときの前になんですが。あの事務員たち、実は患者さんに入れ知恵してるんです」
「なぬを?」
「門前払いです。手のかかりそうな人が来ると、そこで断ってるんです」
「ぬうう・・・・」

まだ傘持ってタクシー待ち。今度は事務員2人。中年のほうが眉間にシワ寄せる。

「先生。ナースのあの子」
「うむ?」
「いつもおとなしい顔してるんですけど、患者さんにいつも先生の悪口言ってます」
「なにぃ?たとえば?」
「診断がおかしい、治療が間違ってる、足がくさい」
「くおおおらあああああ!」
「(2人)きゃああああ!」

放り投げられた傘は、見事な放物線を描いていった・・・・。

<しかし院長。今が耐える時ですぞ!>

侍の言葉が、理性をなんとか保たせた。

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