ナースは三角座りしたまま、シュンシュンと泣いていた。
外の開いた小窓から、バイクのエンジン音とくさいガス臭。

「ひとみィー!」(←ナースの名前)
ボンボンボンボン、マフラーの外れた不快な音。
「ひとみィー!何泣いとんやー!呼んだん、お前やろうがー!」

このナース。彼氏に助けを求めたか・・・。彼氏かどうかは分らんが。仕事してないのか?

「すまんが、点滴患者が複数名・・」
「シュン、シュン」
「わしが悪かったな。はいはい。だからその」
「シュンシュン。先生があたしを嘘つき呼ばわりした。恥かかせた」
「どうしたらええんじゃ・・・」

老事務員がガラッと戸をあけた。
「先生!患者さんがたくさん、待ってるんですけど!」
「今、説得中」
「受け付けは、とっくに済んでるんですが!」
「薬の処方だけにできんか?」
「みんな、点滴希望です!暑いからって!」
「暑いだけで、点滴を?」
「だって先生が言ってたじゃないですか!患者さん集めのために!」

そういや、熱中症予防のために点滴に来てくれってアピールしてたな、このわし・・・。

婆さんが手押し車で喜んでいた。
「いやあ。受付時間過ぎてもやっとる、こういう病院を待っておったんや」
「あのすんません、今日はちょっと・・」
「なんですの?」
「今日は看護婦さんが体調悪くて」
「そこにおるがね」
「は?」

泣き腫らしたナースが、後ろで仁王立ち。
「先生。あたしは体調悪くないです!いい加減なこと言わないでください!」
「お。よくなったようです。ささ・・」
3人の患者をベッドへ。
「じゃ、看護婦さん。たのんます」

引き上げようとしたら・・・

「先生!点滴するのは先生の仕事ですよ!」ナースは狂ったように叫んだ。
「い?」
「医者でしょう?そもそも先生の仕事じゃないですか!」
「わ、わしは院長として、その」
「医療行為なんだから、先生がしてください!」
わけの分らない理屈で、院長がする羽目に。

みな、早くしてくれという表情で待つ。
「うわ。この婆さん、血管ない・・・」
よく考えてみれば、こういった人もなんとか毎回してくれていたのだった。
「うう・・・」

後ろで老事務員が立って囁いてくる。
「あ〜あ。早くやってくださいよ先生。患者さんが帰れませんよ。いつまでたっても」
「残業代はきちんともらいますので」(←若事務員)
「さ。暇だな〜何しよっかな〜」(←老事務員)
2人は控室へ引き揚げた。ナースは蛇のように睨む。

すると・・・

「ひとみ!ひとみィィィ!」
荒げた声が、部屋の中まで入ってきた。ヘルメットをした男。さっきのバイク男だ。
「大丈夫かひとみィ!」

泣き腫れた顔のナースを見て、男はあちこち見まわした。
「お前らコラ、ひとみに何してんねん何を!」
メットを叩きつけ、みな飛び上がった。
「(一同)うわああああ!」
「誰が泣かしたんやコラ!ひとみ泣かしたんはどいつや!お前か!」
ベッドの中年が指さされた。
「ちゃ、ちゃいます!」

私服の院長は、ゆっくり忍び寄った。
「あの〜」
「はあ?はたまたお前か!院長どこやねん!院長は!」

院長は、男を玄関まで連れて行った。事務員は休憩室。ナースも奥。
「あそこを・・曲がって・・・行きました。30分先の吉野屋まで」
「おし!吉野屋やな!今、行ったんやな?おし!ボコボコにしたる!」
「お気をつけて・・」

男が出て行ったのを見届けて・・・

「おらあ!柔道一直線!」そこらの本を床に投げつけた。
奥で、患者らのどよめき。
「逃げるなこら!あああ、行ってもうた・・・」
 と、芝居してベッドのほうへ。ナースはビビっていた。
「先生が、倒した・・?」
「いやあ、わし実は格闘好きやねん。ほな点滴してもらおか!」

ナースはそそくさと点滴に取りかかった。
事務員が驚いて出てきた。
「なんか、すごい音がしたんですが・・」
「ああ、あの男。わしが倒した」

事務員らも、顔が青ざめた。

「点滴はな、そうやな・・・あの男が帰ってきたらいかんから・・・早めで落とせ!」
「はい!」ナースはもとの従順に戻った。事務員もかしこまる。
「これにて閉廷!ザコとは違うのだよ!ザコとは!わっはっはっは!」

若事務員が、時計を見ていた。
「あ〜あ。関ジャニのチケット電話するの、忘れてた・・」

院長はビシッと指さした。事務員は飛び上がった。
「わ!すみません!」

以下、芳忠で。

「わあしに謝るな関ジャニ謝れ!くわぁめんライダアデンオウ絶賛上映中!」(寒)

(終)

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