ES-MEN 2
2007年8月29日 閉まったと思われたドアが、今度は急に開けられた。血の滲んだ指とともに。
「はあ!はあ!」
「どあるう!もう戦う気力ない!」
「うらあ〜!」暴力医者じゃない。これは・・髪の乱れた美少年。
「宮川先輩じゃないですか!」
「大学の!大学の先輩に刃向かうようなマネを!」
看護士が気づき、徐行に切り替えた。車はもう国道に出ている。街路樹スレスレに走る。
「お、落ちるぞ。ますよ。先輩・・・!看護士!車、止めるか?」
宮川先生は額の血をぬぐった。
「仲間になれよ!俺たちの仲間に・・・ぐあ!だんだんだんだん!」
宮川先生の背中に街路樹が連続して当たり、そのまま彼は樹の間へとはじき飛ばされた。
ドアは、何事もなかったように電動でスラ〜、ガチャンと閉まった。
「はあ、はあ・・・どあるう!あ、あそこで一緒に育つかな?」
ドクターカーは、高速道路を東へと進んでいた。
「生駒の山を、このまま突き抜けるのか?看護士」僕は聞いた。
「いや、途中で降りて山を登ります」
「登って降りるのか・・ま、任せる。病院行く前の役場の調印のときは、起こして!」
半分眠る状態で、イスを倒した。
「センセ。ちょっとセンセ」横の看護部長。
「あのなあ。あんだけ職員らが泥まみれでやってんのに、あんたは手伝いもせずに・・救急の時はいつもそうだがな!」
「いんやいんや。起こしてくれたらばよかったのに!」
「それが余計、腹立つんだよな!」
車は高速道路から外れ、一般道へ下降していった。
ポケットをまさぐると、車の揺れでついディスクが床に転がった。
「おっとと・・あっ」
拾おうとすると、看護士の左手が盲目的につかんだ。
「それ・・こっちにおい?大事な機密情報があるんだよ。各病院の計画書などが入ってる」
「・・・・・・」看護士はこちらに目もくれず、盤を見つめている。
「運転中だぞ。危ないよ」
車はやがて、ゆるやかな坂道を登りだした。
PHSが鳴る。
「もしもし?」
『先生!先生・・・!』事務長の声だ。
「おう事務長。ベッドの調整頼むぞ」
『先生!先生!どうか、平然とこの電話を聞いてください!』
「平然と?ああ、もう何が起こっても怖くは・・」
『シッ!必要事項だけ!聞いて!』
「ああ」窓に接して座る。
『今、運転してる看護士の正体は・・・』
「何?」
とたん、片道2車線の対向車線に、車は強引に引っ張られた。
「うわっ!」看護部長は窓に思いっきり、額をぶつけた。
「看護士!何だったんだ今の!ウサギでも出てき・・・!」
隙なく、今度は右に引っ張られた。
「くそっ!絶えず揺れてる!地震でも起こってんのか!」
何度も体を叩きつけられた看護部長は、鼻血を出したまま床にゴロン、と死体のように倒れた。
「看護部長!うわわわ!マジか!死んだ?」
坂道を大振りなジグザグで、ドクターカーは登っていく。
「殺される!こいつは異常だ!」
看護士はミラーごしにこっちを見たまま、目を離さない。事務長のPHSが離れていく。今度は頭を反対側の窓にぶつけ、すぐに反対側にぶつかった。
車は体勢を立て直し、生駒の頂上に近いところにやってきた。これから下りのようだ。減速している。
「止めろ!止めろ!」
口から血を流しつつ、運転席の左に飛び込んだ。
一瞬何か分からなかったが、<お>という表情のまま左ドアの内側にぶち当たった。
右の頬がジンジンする。看護士は左手をグーパーリハビリしていた。
「な、殴ったね・・・!」オヤジにぶたれたことは何度もあった。
怖くて飛びかかれなかったが、逆に看護士は僕の頭の髪を引っ張ってきた。
「いてえええ!いてええええええ!」
「かげ〜!これでもかげ〜!」看護士は、そのまま自分の股間に僕の顔を押し付けた。
「ふぶぶぶぶ!ふぶぶぶぶ!」
「あーもしもし?」
どういう体勢か分からないが、携帯での会話を始めたようだ。
「えーえー!ワリと簡単でしたわ!」ふつうの喋り方だ。これがこの男の本来の姿か・・・
「うぐぐ!うぐぐ!」身動きが取れない。
「今からはい。そっち行きますわ!ディスクもありましてな!偶然偶然!値ははりまっせ!で、オバハンはどうひまひょ?そうですか?途中で捨てますはい!(切)」
「うぐぐ・・・」
看護士は下に向かってすごんだ。
「おとなしくしとけよコラ。そせんと命ないで」凄みのきいた言葉に、僕は固まった。
「・・・・・・」
「この後も、十分かわいがったるからな。家、帰れへんぞ、お!待て待て。おしおきや」
左肩に一瞬チクリと感じた。
「たた!」注射なのか。だとしたら何を・・・
左手で、痛む大腿に手をやると・・・白衣に当たり。そこに何かがあった。武器など携帯はしてないはずだが・・・。
車は徐々に減速していった。タイヤの軋む音。大きなカーブでも曲がっているのか。
僕は最後の力をふりしぼって、左手を振り上げた。それは半円を描き・・・
「うまくいきゃ、昇進やでオレ・・・ヒッ!」
「ががあ!」
思いっきり、目標の膝下を・・・その打腱器で打ち付けた。
「ヒイ!ヒイ!ヒイ!」
「が!が!が!」何度も何度も、同じ場所に叩き込んだ。
しかし急に睡魔が襲ってきた。打腱器は手から離れて落ちていく。
「まさか・・・僕は明日も生きてるはずなのに」
「ヒイイッ!」今、震えた看護士の悲鳴。
押しつぶされそうな衝撃が始まるとともに、闇が全てを包んだ。
(暗闇)
「はあ!はあ!」
「どあるう!もう戦う気力ない!」
「うらあ〜!」暴力医者じゃない。これは・・髪の乱れた美少年。
「宮川先輩じゃないですか!」
「大学の!大学の先輩に刃向かうようなマネを!」
看護士が気づき、徐行に切り替えた。車はもう国道に出ている。街路樹スレスレに走る。
「お、落ちるぞ。ますよ。先輩・・・!看護士!車、止めるか?」
宮川先生は額の血をぬぐった。
「仲間になれよ!俺たちの仲間に・・・ぐあ!だんだんだんだん!」
宮川先生の背中に街路樹が連続して当たり、そのまま彼は樹の間へとはじき飛ばされた。
ドアは、何事もなかったように電動でスラ〜、ガチャンと閉まった。
「はあ、はあ・・・どあるう!あ、あそこで一緒に育つかな?」
ドクターカーは、高速道路を東へと進んでいた。
「生駒の山を、このまま突き抜けるのか?看護士」僕は聞いた。
「いや、途中で降りて山を登ります」
「登って降りるのか・・ま、任せる。病院行く前の役場の調印のときは、起こして!」
半分眠る状態で、イスを倒した。
「センセ。ちょっとセンセ」横の看護部長。
「あのなあ。あんだけ職員らが泥まみれでやってんのに、あんたは手伝いもせずに・・救急の時はいつもそうだがな!」
「いんやいんや。起こしてくれたらばよかったのに!」
「それが余計、腹立つんだよな!」
車は高速道路から外れ、一般道へ下降していった。
ポケットをまさぐると、車の揺れでついディスクが床に転がった。
「おっとと・・あっ」
拾おうとすると、看護士の左手が盲目的につかんだ。
「それ・・こっちにおい?大事な機密情報があるんだよ。各病院の計画書などが入ってる」
「・・・・・・」看護士はこちらに目もくれず、盤を見つめている。
「運転中だぞ。危ないよ」
車はやがて、ゆるやかな坂道を登りだした。
PHSが鳴る。
「もしもし?」
『先生!先生・・・!』事務長の声だ。
「おう事務長。ベッドの調整頼むぞ」
『先生!先生!どうか、平然とこの電話を聞いてください!』
「平然と?ああ、もう何が起こっても怖くは・・」
『シッ!必要事項だけ!聞いて!』
「ああ」窓に接して座る。
『今、運転してる看護士の正体は・・・』
「何?」
とたん、片道2車線の対向車線に、車は強引に引っ張られた。
「うわっ!」看護部長は窓に思いっきり、額をぶつけた。
「看護士!何だったんだ今の!ウサギでも出てき・・・!」
隙なく、今度は右に引っ張られた。
「くそっ!絶えず揺れてる!地震でも起こってんのか!」
何度も体を叩きつけられた看護部長は、鼻血を出したまま床にゴロン、と死体のように倒れた。
「看護部長!うわわわ!マジか!死んだ?」
坂道を大振りなジグザグで、ドクターカーは登っていく。
「殺される!こいつは異常だ!」
看護士はミラーごしにこっちを見たまま、目を離さない。事務長のPHSが離れていく。今度は頭を反対側の窓にぶつけ、すぐに反対側にぶつかった。
車は体勢を立て直し、生駒の頂上に近いところにやってきた。これから下りのようだ。減速している。
「止めろ!止めろ!」
口から血を流しつつ、運転席の左に飛び込んだ。
一瞬何か分からなかったが、<お>という表情のまま左ドアの内側にぶち当たった。
右の頬がジンジンする。看護士は左手をグーパーリハビリしていた。
「な、殴ったね・・・!」オヤジにぶたれたことは何度もあった。
怖くて飛びかかれなかったが、逆に看護士は僕の頭の髪を引っ張ってきた。
「いてえええ!いてええええええ!」
「かげ〜!これでもかげ〜!」看護士は、そのまま自分の股間に僕の顔を押し付けた。
「ふぶぶぶぶ!ふぶぶぶぶ!」
「あーもしもし?」
どういう体勢か分からないが、携帯での会話を始めたようだ。
「えーえー!ワリと簡単でしたわ!」ふつうの喋り方だ。これがこの男の本来の姿か・・・
「うぐぐ!うぐぐ!」身動きが取れない。
「今からはい。そっち行きますわ!ディスクもありましてな!偶然偶然!値ははりまっせ!で、オバハンはどうひまひょ?そうですか?途中で捨てますはい!(切)」
「うぐぐ・・・」
看護士は下に向かってすごんだ。
「おとなしくしとけよコラ。そせんと命ないで」凄みのきいた言葉に、僕は固まった。
「・・・・・・」
「この後も、十分かわいがったるからな。家、帰れへんぞ、お!待て待て。おしおきや」
左肩に一瞬チクリと感じた。
「たた!」注射なのか。だとしたら何を・・・
左手で、痛む大腿に手をやると・・・白衣に当たり。そこに何かがあった。武器など携帯はしてないはずだが・・・。
車は徐々に減速していった。タイヤの軋む音。大きなカーブでも曲がっているのか。
僕は最後の力をふりしぼって、左手を振り上げた。それは半円を描き・・・
「うまくいきゃ、昇進やでオレ・・・ヒッ!」
「ががあ!」
思いっきり、目標の膝下を・・・その打腱器で打ち付けた。
「ヒイ!ヒイ!ヒイ!」
「が!が!が!」何度も何度も、同じ場所に叩き込んだ。
しかし急に睡魔が襲ってきた。打腱器は手から離れて落ちていく。
「まさか・・・僕は明日も生きてるはずなのに」
「ヒイイッ!」今、震えた看護士の悲鳴。
押しつぶされそうな衝撃が始まるとともに、闇が全てを包んだ。
(暗闇)
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