ES-MEN 13

2007年8月29日
 パソコン画面の僕の後姿を未届け、机の上に届いたコーヒーが置かれた。

「うん。どうも」聡明そうなイケメンは、もう1つのパソコンをクリックし続けた。

 何のことはない、さっきのスーパー男だ。1時間の距離を脚で走って、もう戻っていた。

「今の会話を・・・転送!」あっという間にファイルし、メール転送。

 余興のように、さっきの会話が一部繰り返される。
「うちはバックがリッチだから!」「るさいよ。消えろ」「こっちには・・・強力なメンバーがいますよ。院長・・」「ハカセだろ?あいつは以前から知ってる」「だったね」

 余裕のコーヒーを上品に飲むと、細い腕が回された。もちろん女性の。
「まだだよ。まだ・・」
「どうせ。くだらない会話でしょう?」
「うん。でもこれが、僕の仕事なんだ」
「病棟は?」
「情報係なので、楽にさせてもらってる。患者さんのメンバーが、メンバーだけに大変だけどね」
 白い歯がこぼれた。

 抱きついた女医が、パソコンで患者経過を観察。
「お父さまの病気、治るかしら・・・」
「大事な町議だからね。ハカセが実験薬で治すだろう」
「あなたも、大事にしてね」
「もちろん。僕は1週間寝なくても大丈夫な体力がある。しかし彼なくして、この病院の発展はありえない」

 彼は自前のノートパソコンをたたんだ。
「報告終わります。豪邸宿舎にでも戻ってチークでも踊りますか」
 豪勢なたたずまい、医局の電気を消し、2人はまばゆい廊下へと消えていった。

 少し離れた部屋では、ハカセがさきほどのファイルを受信した。
 頭に天井の光がまぶしく反射する。

「ふむ・・・」
 考えあぐねていると、ノックなしで誰かが入った。
「そのノックは町議さんですね」
「うむ。でな・・」50代後半の町議だ。

「一応患者さんなんですから」
「(無視)立地は問題ないがな。役員のスペースを」
何やら建築物の作図のようだ。

ハカセは食い入った。
「議員さん。どんどん話がしぼんでいるようなんですが」
「しぼんでる?わしの話が嘘か?」

「病院の規模を下げろと言っても、こちらは屈しませんよ」
「少々縮小しようが、いいではないか。どうせこの地域全体は、君らのものになる」

「ま、根回しには感謝してます。真田会がつぶれるのも、時間の問題ですので」
「保険適応外薬だろうが。海外治験薬だろうが。金で困ることはない。悪いようにはせん。わしが将来も約束する」

「お願いしますよ。隠遁生活は保障してあげますから」
「議員や高官官僚の、老後の計画としても重要だ。私の責任は重い」

「この病院はあくまでも臨床棟です。私は実験棟が欲しいんです」
「それは真田を潰してからの話だろう」
「では、病室に戻ってください」

 バスローブの議員は、トイレにでも行くように病棟へと戻っていった。

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