ES-MEN 20

2007年8月29日
ドクターカーは林道を走り続けていた。
 田中君がやけに嬉しそうだ。

「♪きんみよずっとしやわせにぃ〜。未来日記、見てます?」
「ヤラセだろ。あんなの・・」

「ええっ?いきなり夢を壊さないでくださいよ〜!」
「ああいう話を作るから、みなありもしない幻想を抱くんだよ!」

「やだなあ。希望のない僕らに投げかけられた光に、手をかざさないで下さいよ!」
「踊らされてんだよ・・・」
「あ〜あ!人に希望を与えるべき先生が、踏みにじってどうすんですか!」
「あ〜あ。今の日本を見てみろよ。女がどんどんふんぞり返って、男は硬派な個性が消えて・・・今や日本はみんな農耕民族だよ」
 
 完全な偏見かもしれないが、自分はそう思ってた。でも女をそうさせたのは、男の優しさだろうか。母親が子供を過保護にしたように。

 では今の患者・家族の風潮も、僕らに責任の一端があるんだろうか・・・。

 彼は正面を向き、しんみりとなった。
「幻想でも・・いけませんか?」
「あ。いや・・・で話は変わるけど。さっきのじいさん」
「変えすぎちゃいまっか!」
「本人の意志では検査拒否だけど、家族はそうではないと思うな。ただ、あのじいさんには見えないオーラがある」
「おーら?」
「前見てろ。たぶん絶対的な権力者なんだろう。周囲は遺産目的みたいなとこありそうだ。ああいう人を説得するのは大変だよ。で、悪くなって判断が家族にまわったとき治療の方針がいきなり変わる」
「ぼ、僕に言われても」
「きっとそうなるよ・・・」

 気がつくと、独り語っているときが多々ある。これはあまりよくない傾向だった。

 そうだよ。僕はいつの間にか・・・自分の嫌いな医師像に片足を突っ込んでいた。

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