ES-MEN 28

2007年8月30日
 その頃、全患者を放出させた民間ヤマト病院は、もぬけのカラになっていた。

 巨大な病院の玄関前で、院長らしき白衣老人がヘナヘナと倒れていった。

「ひ、ひいい・・・!」
「医師が引き揚げたんだ。残党では対処のしようがない。で・・・」ヤクザっぽい声。

「ひひ・・・!」
「私らの患者を、どこへ送った?行政の命令にしては極端すぎるぞ」

 何人ものスーツ姿が圧倒する。事務長の西川はかなりのプレッシャーを受けていた。経営側からは次の失敗はないといわれている。

 10代のとき、田舎から大阪へ上京し皿洗いの仕事にしかありつけなかった彼。バブルを常に横目で見ていた。遅くまで車を飛ばす若者、路上で手をつなぐカップル。少しのおこぼれもなかった。

 そんな時、ブティック経営業(自営)と自称する年上女性と知り合いになり、彼はビッグになる夢を語った。駆け出しの2人は求めるように恋に落ちた。

 ところがその女性には借金があり、別れたはずのヤクザの男がつきまとった。西川はそれ以来つきまとわれ、入水自殺まで考えたことがあった。

 そんな中、別の組織が拾ってくれた。金は工面するから、うちの関連の病院で働いてくれという。それが今の病院の走りだった。

 彼は何でもした。患者の送り迎えにドクター・ナースらの尻拭い・・とにかく何でもした。宴会では裸になり、殴られキャラまで演じた。陰でイエスマンと呼ばれながらも・・・。

 そんな遠い道のりを思い出しつつ、再び脅かされた牙城を守るため彼は死ぬ気でやらねばならなった。

 起き上がれない院長は、座ったまま何度も後ずさりした。

「おお、お前らのとちゃう。わ、わしらがもともと・・・」

 西川はメールを送信し、携帯をたたんだ。

 玄関の奥、ナースらが数人倒れこんでいる。
 西川はさらに続けた。

「おたくの医師らは疲れ切って、もう何日もここで寝ているらしいな」
「う、うちの病院の医師が急に減らされた結果だ!き、きさまら!大学の医局になんと通達したのだ?」

「私たちは、アドバイスしただけだ。医療の法律を、少しだけ先回ししただけだ。引き上げたのはあくまでも大学。彼らの指示だ」
「うぐぐ!医師会だ!医師会に圧力かけたな!」

「だが心配するな。どうやらわが部下が移動患者を把握したもようだ」
「なに!」

 西川が立ち退くと、別の機関のスーツ姿が数人現れた。段ボール箱を抱えている。彼らは、うなだれた院長の前に立ちはだかった。

「医療対策課だ。何だこの労働条件は。どういうことか、説明してもらいたい」
「うぎぎ・・・!」

 見上げると、失明するほどの日差しが注ぎ込んできた。

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