ES-MEN 30

2007年8月30日
 シュパー!と満月が影で隠れた?と思ったら・・・
 飛び込んできた白衣が乱れつつ、横綱の反対側で両手が動いた。

「うわ!忍者だど?」
「シャシャシャ!(音)」
「うい?」
「シャシャシャ!」今度は反対側。
「おう?」

 横綱は鈍く、いつもワンテンポで見逃した。

 ドン!と患者が浮いた。電気ショックだ。脈はもどった。ラインも左鎖骨下から入っており、薬剤も注入。

 その医者の片手が見えた。3指の間に光がカチカチンと走った。対光反射確認らしい。

「なんだべか?猫さんの目みたいにヒカッタべ!」
横綱は見上げた。

「うば!すげ美人でよ?しばらく女さみでねえからか!誰でもええんかオデは?」

 金色の髪が月の光で何重にも輝き・・・・ベッドは玄関へ運ばれた。横綱は尻もちをついた。

 その女医はベッドを放り、玄関先の事務員へパスした。もう次にとりかかる。
「イイ!エイ!」掛声が聞こえる。

 またペンライトがバシュバシュと横に2回輝く。器用なことに2〜4指の間に2本ペンライトを挟んでいる。

 僕のほうはドレナージを入れ、超音波で再確認。
「よしこのベッドもいける!・・・あれは?」

 救急車の間、素早く動く影。患者の把握とともに、その影までも追いかけた。

 慎吾もちょっと遅いながらも、点滴をあれこれつなぎ直していた。
 やる気のない救急隊員が、横で呟く。
「どうせ、潰れる病院だろに・・・!」

「ちがうさ!」信吾は唾を飛ばした。
「真珠会へ、こちらとしては運びたかった。向こうは海外の薬で最先端の治療をリードしてるんだぞ!」

「だって。オレ。行くとこないから」
 慎吾はベッドを抱え、ダッシュで玄関まで走った。

 ほぼ全てが収容されていき、あとは1台ずつゆっくりと手続きが行われる。

 僕の横に慎吾、横綱が自転車で集まった。遠くから、息せき切りながら歩いてくるスリムな白衣女性・・・僕は目を細めた。蚊が近付いてきたからだ。

「じぇ・・ジェニー!あれはジェニーだ!おれ知ってるよ!」

 僕は叫んだ。それくらい嬉しかった。もう2度と会えないと思い込んでた。

 ヒロスエ似だった顔はすでに顔が大人びて、都会の洗練された美しさを放っていた。バブル期の小説風にいうと、<一体どれだけの男が彼女のふとした表情に平伏し一喜一憂してその魂さえも悪魔に売ってもいいと願ったことだろう・・・>。

 僕らは事務室へ駆け込み、事務長らが振り向いた。
「やりましたね!先生!」
「おかげさんで。なんとか対応できた!」

 カラになった救急車が多数、遠くの山へと撤退していく。

 スミは動画を繰り返し見、パソコン上と照らし合わせる。

「むうう・・・計算外とはこのことだ出直さねば!しかしこの女医・・・ハカセの集合写真で一度私のIQに間違いがなければ」

 スミはゆっくりとわずかな記憶をたどっていき、ブラック救急車は反転していった。

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