ES-MEN 35

2007年8月30日
 僕と事務長は、師長やナースらと親睦会をやっていた。
 山の中腹の住宅街。ニュータウン。

 公園にシートをいくつも敷き、ナースら職員とその子供らが多数。
 あちこち散らばっており、ゴミ同様収集がつかない。

「どある。オレ、子供苦手だよ・・・」

 円陣を組んだ形で座る。
 師長が乾杯の音頭。

 みな一斉に弁当を食べ始めた。

「もごご・・・!ここの子供らはこれから大変だなあ事務長!」
「・・・・・」事務長が妙にうつむいている。

「どひた?<子供みたいで気分が悪い>って注意へんのか?もごご・・」

 事務長は、どうやらナースらに言葉を期待されているようだ。彼らの目線で分かる。

「あの・・・では、その」
「へえんな奴!」

「間もなくですね。当院も総力を挙げて診療体制をですね。その万全としようと最大限の努力をばいたしておりますが」
「ハッキリ言えハッキリ!」

「小児科の併設を考えておりますです」
「あっそ、すれば・・・ええっ?」

 周囲の視線が、僕に集中した。

「小児科なんて・・・そんなヤだよ」
「まあ先生、聞いて」
「聞いた!たくさん聞いた!」
「当院のスタッフの大半をしめます、彼らナース・・・」

 一応、そのナースらを見渡した。

「で?」
「最近、異様な忙しさがあるじゃなかとですか?」

「お前はどこの出身だ?」
「実はスト寸前なんです。集団退職も夢ではないと」

「ストって。ストリップじゃないよな・・・脅しか・・・?ならオレもやめよっと」
「ちょ、ちょお!院長先生!」

(沈黙)

「自分らの子供の世話をしてもらうため、小児科をわざわざ作れってか」
「いえ。そうじゃなくて」1人のナースが箸を挙げた。

「?」
「あ・・・ごめんなさい。それもまあ、ありますが。この地域がますます過疎化してるのも、小児の医療への不安があります。そうすれば小児だけでなく、それを抱える家族までがこの地を去って・・・結局、地域自体が崩壊してしまうのです」

「・・・・それを抱える家族って、そのだから・・・アンタらだろ?」
「はあ」

「はあじゃないよ。正直言えよ。直球、こうだろ。私たちにメリットが生じない限り、この忙しさを受け続けるわけにはいかない・・・」
「そこまでは」

「でも否定はせんかった。キレイごとじゃないのは分ってんだよ・・・・事務長!」
「ははっ」

「待遇面も、もちっと考えたら?例えばあの託児所・・・病院裏に建ってる掘っ立て小屋。瓦葺きの」
「ははっ」

「もうちょっと、近代的に建て替えてやったらどうだよ。俺の映画上映セット貸すから・・・ディズニーとか上映してやれよ。<ダルになった王様>とか!」
「それ、先生じゃないですか」

「(一同)ははははは・・・」

 みな、殺人的な表情がだんだん明るくなってきた。

「すまんな、みんな・・・でも真珠会の収益に少しでも近づくなら、やってもいいかな」

 解散し、山の上から病院を裏から見下ろした。手前にさきほどの託児所がある。

「みなさん、いい笑顔でしたよ。先生。ありがとうございます」
「あれでいいか?八百長野郎さま」

「見事な演技でございまして」
「もう、せんからな。で・・・小児科を標榜したって、実力が伴わんぞ」

「そこで・・・」
「はあ?まさか・・」
「実行していただきたいのです。時間がない」
「時間?」

 僕らはダッシュで山をかけおりた。途中、犬の頭を撫でた。
その犬の耳横のカメラが・・・遠ざかる僕らを追っていた。

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