ES-MEN 39

2007年8月30日
夜中。

ジェニーは当直業務をフラフラでこなしていた。病棟では2人が急変。

詰所で指示を出し終わったが、彼女の気持ちはおさまってなかった。

「ん・・・もーっ!なんでよ!ちょっとなんで!」
「・・・・・」近くですすり泣く中年ナースの姿があった。

「急変して呼ばれて、駆けこんだら物品ないって・・・何してんの!どういう教育してんのこのバカ病院は!」
「すみません。ほんとにすみません」ナースは悪気ないといった態度で表わすしかなかった。

「助からなかったら・・でもあたしのせいじゃないわよ!」
急変した患者のモニターを未届け、ジェニーは医局へと引き上げていった。

「それに。小児科やるなんて誰が勝手に決めたのよ!あたしの断りもなく!」

しかし間もなく、彼女のPHSが鳴った。
「はいなに?」
『事務当直です』役人の声だ。

「外来?」
『救急隊からです。山間部からですが・・』

「もう限界。ダメよここのスタッフじゃ。真珠会第二のほうに運んで!」
『そこは断られたそうで。うちにきます。5分で』

「なっ。なに・・・あたしは了解しては!」
『(ブチッ)』

ほどなく、サイレンが聞こえてきた。
ジェニーは医局のドアをバンと開け、廊下へダッシュした。

「クソ役人!何あってもあんたのせいよ!」
大きくバウンドし、滑り台に斜めに着地した。
「偉くなったら消してやる!」

彼女は座り込まず、膝をやや曲げたまま滑走した。下方の玄関のロックが外れる音。

自動ドアが開いたとたん、サイレンの音が倍増する。

運ばれた患者には、生気が全くない。自発呼吸もない。

「酸素吸入とマッサージだけ・・・?挿管は?」とジェニー。
「うちはそこまでは・・・」マスクした救急隊はおじぎした。

「助ける気、あんの?」
「勉強中でして」
「してない人間が、言う言葉よ!」

ベッドに移され、ジェニーは即、挿管した。
救急隊がマッサージする。
ジェニーが中心静脈確保。しようとするがなかなか入らず。

「血がもど・・戻ってこない!いったいどんだけ時間たったの?」
「硬直はまだ・・・」
「どんだけたったのよ!」

遠くの赤電話の横、娘とおぼしき中年女性が座っている。

「ちゃんとマッサージしてよ!ナースは!」
「モニターはフラットですね」救急隊は変に関心していた。
「ナースは!」

呼吸器につながれ救急隊も帰り、ジェニーはひたすらマッサージを続けていた。

「あのう・・」動揺したナースがやっと近づいた。
「なに?」
「よびまし・・?」
「呼んだわよ!アンタ遅いのよ!助かるわけないでしょ!」

一瞬動悸のようなものを感じ、ジェニーは上半身をうずくまった。
「ボケっとすんなッ!代わってよ!」
「ははい」ビビったナースは大きな手で押し始めた。

ジェニーは、座っている家族へ近づいた。
「娘さん?」
「は、はい。長男の嫁です」
「キーパーソンは長男?」
「え?きーぱー・・?」
「長男さんは。いつ来るの?」
「で。電話せんといかんですか」

ジェニーはカッとなった。

「当たり前でしょ!なんでまだ知らせてないの!」
「あたしが見つけた時は、もう息が絶え絶えで」
「長男さんはどこに?だからどこよ!」
「出張で沖縄行っております。今すぐここ、こさせます」
「無理無理!間に合わない!気の毒だけど!ちょっと何休んでんの!」

疲れ切ったナースは、またマッサージを始めた。

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