ES-MEN 41

2007年8月30日
 朝早めに来た僕は、事務長の横でダベっていた。
「びっくりしたよ。俺の行動とか、動物にたえずチェックされてるんだなって。教訓を生かせなかったよ」

「捕獲しましたからご安心を!」事務長は机の上を片づけていた。
 大きな記録紙を、事務員から手渡される。

「で、ハカセは知ってんだよ。俺が散髪屋に行ったりとかそういう行動パターンを・・・情報はサマライズされて奴らの手中にある」
「まず敵を知れってことですかね」
「お前。どっちの味方だ?」

 田中くんが僕の肩を叩いた。

「よっ!スーパーマン負かせ男!」
「どある。字余りな呼び方だな」
「運がいいよな〜」
「まあな。おい事務長!」

 歯磨き中の事務長はピタッと止まった。
「はい?」
「言っとくけど、これは八百長じゃないからな!」
「一体どんな手を使って・・・」
「正義のためだ。正義の!オレは手段を選ばなかった!」

 うがいを終えて、事務長は内線電話した。

 僕はベッド状況を確認。

「ベッドはほぼ満床。でも回転が悪い。これからかな。往診・外来は増えてるけど、小児科は軽症しか診る自信がない。あと1つ何かインパクトがあればなあ」

 振り向くと、泣いている中年女性がいた。おそらくうちの職員だ。

「ん。まあ・・・それは僕から言っておく」事務長は周囲を見回し、しめくくった。

「ですが・・・」
「そうですか。どうしてもですか・・・」

 事務長は肩を落とした。どうやら何か交渉で失敗したようだ。

 憂鬱に廊下を歩く事務長を追いかける。

「おい。いきなりブルーだな」
「また1人、失いましたよ。実家のの農業にを手伝うそうです」

「小児科が正式に立ちあがるまで、スタッフらは各自辛抱するんじゃなかったのか?」
「その前にここのドクターが、ここのスタッフを追い詰めますよ!」
「どうしたんだよおい?」

 言葉を失った僕は、取り残された。
「それって・・・俺か?」

 誰もいない真っ白なミーティングルームで、事務長とジェニーは向かい合った。

「外来の途中ですみません」
「何・・・当直明けで疲れてるのに。あ〜眠た!」

ジェニーは机の上で伸びをし、髪がバサッと舞い散った。
事務長は冷酷に見ていた。

「ジェニー先生。単刀直入に言いますね」
「ふん。言えば?分かってるけど」

「クレームが・・・苦情が出ています」
「間違ってる?あたしが?訳を説明してよ」

「先生の処置がどうとか、そういった問題は一切・・これはただ、患者さん側からの。それとナースらの」
「あっそ。あなたはそれで・・・辞めさせたいわけ?あたしを?来てくれって頼んで、今度は辞めろって?」

「とと!とんでもない!」
「事務長の役目はスタッフを守ることでしょ?なのに泣きついた人間にヘーコラ・ヘーコラとゴマすって、言いなりになってどうすんの?」
「あ・・・」
「その場しのぎなことばっかしてたら、後々泣くわよ!」

 ジェニーは去った。

 結局、亀裂が広がっただけだった。それだけジェニーの癇癪というのは、これまた手に負えなかったのである。

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