ES-MEN 44
2007年8月30日 検診車は大きな橋を渡り、ゴーゴーという川の流れを横切った。
「なあ。慎吾。おまえ・・」
「なんだ?気持ちわりいな」
「いや・・・」
慎吾の生活の影を聞いてショックだったが、聞いてどうなるものでもない。
気がつくと、検診車は停車している。
「あれ?エンスト?」
「・・・・・」
「慎吾。落ち込んでんのか?」
「着いたって!」
「うおっと?」
2階建ての有床診療所。
すると、1台ドクターカーが到着。
「事務長!」
運転席のウインドウが、スーと下がる。
「先生らだけに任せたらどうなるか・・・不安で来ました」
「どある・・・!そしたら最初からオメエやれよ!」
おそらく、事務長は1人でお願いしに来る予定だったんだろう。
慎吾は検診車で、そのまま検診へ。
「はいはいはい!通して通して!」
ガリベン風の青年は、最後の段ボールを積み終え、それら数10個を壮観に眺めた。
6畳ほどの診察室、古びた椅子に深く腰掛ける。沈没船のように沈む音は、まさしくこの数年間のため息だった。
「は〜・・・」
両手で思わず顔を隠す。この数年間、1人で診療所を引っ張ってきた。小児専門でやってきたが近隣の大病院が潰れてしまい、行政の助けもなくやってきた。
医師を惜しむ声が、すりガラスの向こうから聞こえる。転勤を惜しむ町民たちの声だ。
「(だって。だってよ。もう疲れてんだよ!紙頼みをNHKに根回ししやがってこの愚民どもが!)」
心を鬼にし、藤堂医師は大きなバッグを持ち上げた。
廊下に出ると、母親らしき中年女性やオバサン連中、子供までが大勢両側を挟む。
「先生お元気で!」「にいちゃんまたな!」「がんばって!」
ところが一瞬
「結局帰るんだか!」
という声が耳をついた。藤堂はそのまま立ち止まりうつむき、声の出所を睨んだ。
「そんなこといってもなあ!何もかも、俺のせいじゃないんだよ!あんたらはどうなんだいつも勝手に・・・!」
「(一同)・・・・・」
「あんたらだって、少しは俺の体調とか考えたこと、あんのかよ・・・!」
老婆が叫んだ。
「あんたがタイチョウ!」
「それはタイショウでしょうが。おばあちゃん・・」と娘。
玄関の手前、愛想ない中年事務員が名刺を差し出した。
「あ。これ」
「品川?業者の挨拶などいらん!」
突っぱねて飛び上がった名刺を、僕は反射的につかまえた。
「とと!と、藤堂先生?」
「はぁ?白衣・・あなた医者ですか?」
「ええ。一応。あっちの・・」山の向こうを2回指さした。
「フン。何の用か知らないけどね。先日もそんなのが来て、蓋を開けたら民放番組の取材だ!いやNHKか!」
「ぼ、僕らは違います。な!事務長!」
事務長は突っ立ったまま、僕の肘をついた。
「院長でしょ!ちゃんと挨拶・・」
「代理だよ!」
「代理でも一番上でしょうが!」
「好きでなったんじゃない!お前らの陰謀で!結局残りの俺が引受け・・・」
呆れて立ち去ろうとする医師を、追いかけた。
僕のイヤホンに声が入る。
『事務の田中ですが、宅急便が届いてます。交渉のほうは?』
「事務長が来てる心配すんな!荷物はティッシュのまとめ買い!」
『くっくっく!よっぽど溜まってんだな!』
「あの。戻ったら、はんごろしだから」
周囲を女性陣や子供らが取り巻いた。
「何してるの・・」「白衣だけど」「散髪屋?」「魚屋?」「一人でしゃべってる・・・」
おじぎしながら輪を抜けた。事務長は一足先にドクターカーに乗り、近くの駐車場へ向かった。
『先生?ちょっと先生?帰りに買ってきてほしいものが!サランラップに・・・!』
追いついたドクターカー、その横に出発を妨害された小児科医のジャガー。
クラクションが鳴ってるが、事務長は石のようにどかない。
「院長先生!これでどうでしょうか?」
「藤堂先生!どうどうとひいてください!」
車はあきらめで停車。エンジンが切られた。
「いい・・いいよ!今日は冴えてるぜ事務長!」
全力でジャガーまで走った。
「なあ。慎吾。おまえ・・」
「なんだ?気持ちわりいな」
「いや・・・」
慎吾の生活の影を聞いてショックだったが、聞いてどうなるものでもない。
気がつくと、検診車は停車している。
「あれ?エンスト?」
「・・・・・」
「慎吾。落ち込んでんのか?」
「着いたって!」
「うおっと?」
2階建ての有床診療所。
すると、1台ドクターカーが到着。
「事務長!」
運転席のウインドウが、スーと下がる。
「先生らだけに任せたらどうなるか・・・不安で来ました」
「どある・・・!そしたら最初からオメエやれよ!」
おそらく、事務長は1人でお願いしに来る予定だったんだろう。
慎吾は検診車で、そのまま検診へ。
「はいはいはい!通して通して!」
ガリベン風の青年は、最後の段ボールを積み終え、それら数10個を壮観に眺めた。
6畳ほどの診察室、古びた椅子に深く腰掛ける。沈没船のように沈む音は、まさしくこの数年間のため息だった。
「は〜・・・」
両手で思わず顔を隠す。この数年間、1人で診療所を引っ張ってきた。小児専門でやってきたが近隣の大病院が潰れてしまい、行政の助けもなくやってきた。
医師を惜しむ声が、すりガラスの向こうから聞こえる。転勤を惜しむ町民たちの声だ。
「(だって。だってよ。もう疲れてんだよ!紙頼みをNHKに根回ししやがってこの愚民どもが!)」
心を鬼にし、藤堂医師は大きなバッグを持ち上げた。
廊下に出ると、母親らしき中年女性やオバサン連中、子供までが大勢両側を挟む。
「先生お元気で!」「にいちゃんまたな!」「がんばって!」
ところが一瞬
「結局帰るんだか!」
という声が耳をついた。藤堂はそのまま立ち止まりうつむき、声の出所を睨んだ。
「そんなこといってもなあ!何もかも、俺のせいじゃないんだよ!あんたらはどうなんだいつも勝手に・・・!」
「(一同)・・・・・」
「あんたらだって、少しは俺の体調とか考えたこと、あんのかよ・・・!」
老婆が叫んだ。
「あんたがタイチョウ!」
「それはタイショウでしょうが。おばあちゃん・・」と娘。
玄関の手前、愛想ない中年事務員が名刺を差し出した。
「あ。これ」
「品川?業者の挨拶などいらん!」
突っぱねて飛び上がった名刺を、僕は反射的につかまえた。
「とと!と、藤堂先生?」
「はぁ?白衣・・あなた医者ですか?」
「ええ。一応。あっちの・・」山の向こうを2回指さした。
「フン。何の用か知らないけどね。先日もそんなのが来て、蓋を開けたら民放番組の取材だ!いやNHKか!」
「ぼ、僕らは違います。な!事務長!」
事務長は突っ立ったまま、僕の肘をついた。
「院長でしょ!ちゃんと挨拶・・」
「代理だよ!」
「代理でも一番上でしょうが!」
「好きでなったんじゃない!お前らの陰謀で!結局残りの俺が引受け・・・」
呆れて立ち去ろうとする医師を、追いかけた。
僕のイヤホンに声が入る。
『事務の田中ですが、宅急便が届いてます。交渉のほうは?』
「事務長が来てる心配すんな!荷物はティッシュのまとめ買い!」
『くっくっく!よっぽど溜まってんだな!』
「あの。戻ったら、はんごろしだから」
周囲を女性陣や子供らが取り巻いた。
「何してるの・・」「白衣だけど」「散髪屋?」「魚屋?」「一人でしゃべってる・・・」
おじぎしながら輪を抜けた。事務長は一足先にドクターカーに乗り、近くの駐車場へ向かった。
『先生?ちょっと先生?帰りに買ってきてほしいものが!サランラップに・・・!』
追いついたドクターカー、その横に出発を妨害された小児科医のジャガー。
クラクションが鳴ってるが、事務長は石のようにどかない。
「院長先生!これでどうでしょうか?」
「藤堂先生!どうどうとひいてください!」
車はあきらめで停車。エンジンが切られた。
「いい・・いいよ!今日は冴えてるぜ事務長!」
全力でジャガーまで走った。
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