ES-MEN 46

2007年8月30日
 外来。藤堂の近くに直立不動の僕ら。

「事務長さんの言う通りだ。<子どもは小さな大人>。そう思えば抵抗はない」
 さっそく受診してきた小児を、丹念に診る藤堂。

「もしもしだよ〜。へへへ」
 まさしく子供のように振舞うその表情は、プライドを完全に捨てていた。子供も期待に応え、笑う。

「う〜ん。ぜいぜい言ってるね。このあとチューチュー吸おうか」
「チチを?」慎吾が僕に呟いた。
「プッ!んなわけなかろうが!」

 椅子がクルッと振り向き、大きな板が僕の頭の上から振り下ろされた。
「いてえ!くそっ!」

「吸入だ吸入!今の乳児は痰が出しきれず!RSウイルスで!さあ診断は何だ!お前!」
「てて。お前って呼ぶなよ・・・あ、俺も呼ぶか」

「IRDS習っただろ。頭大丈夫?内科医ならやれテオフィリンとかステロイドとか平気でいくんだろ?小児はデリケートだ!地道に行くのが基本だ!アイテムばっかで解決しようとすんな!」

「地道?」
「お前らは1回患者診て2週間後とかに受診だろ?」
「それは病態によって・・」
「子どもの世話は親がやる!それも不安の中でな!毎日毎日が不安で!」
「じゃあ毎日来させろ!」
「いやそそ!それだと、俺の体がもたんのだ!君らのサポートが要る!これじゃ、枕も高くして眠れん・・・」

 いきなり<君ら>に格上げか・・・。

 診察。僕はおそるおそる、小児のフニャけた口の中におそるおそる綿棒を突っ込んだ。

 母親の固定が甘く、突然暴れまわる。
「うげあ!うげあ!」
「な!ちょっと!3かけ11は?」

反動で、喉の奥を少し突いてしまった。

「ふげあ!ふげあ!」
「ったー・・・いてっ!」後ろからまた板を振り下ろされた。

「きちんと押さえてもらわんか!バカ!子供に謝って死ね!」
「あんた俺より、口悪ぃ・・・」

 その点、ジェニーは得だった。女性らしき優しさのようなオーラがあった。
「ウフ。トーマスで遊ぶの?」
「ひぃひ・・・」照れくさく小児が横になる。腹を診察するジェニー。

 だがジェニーは心底嫌だったようだ。このように女は決して腹の中を見せることがない。世の女性らがヘソクリしても、男が気付かないわけだ・・・。

僕はまた叩かれた。
「いてっ!」
「ほらほらあ!今は小児の時間だぞ!しょうにの!やる気はあるんですか院長先生?つぶれますよおこの病院!」

近くで立っている母親同居のばあさんが笑った。
「ひひひ。どちが院長先生か、分からんなあ」
「(一同)わっははははは!」

 慎吾も隅で笑っていた。
「くっくくく!いたっ!」早速、藤堂に足を踏まれた。

「笑えるたーちーばー!なんですかー!慎吾さーん!いつも傍観者の、慎吾さーん!」

 一言多い奴だった。だが見慣れたタイプだ。

 慎吾はおそるおそる、小児のぷよぷよした腕を握った。血管確保のためだ。
 藤堂は見下ろす。慎吾の顔、指先すべてにチェックを入れる。

「手で駆血帯すんですか〜?慎吾さ〜ん」
「ああ、あたりをつけるためだよ!」
「そこに血管はあるんですか〜?慎吾さ〜ん?」
「え〜っと、え〜っと」

近くで母親が不安がる。慎吾はどうも気になった。

「すみませんけど、お母さん。処置するんで、あちらのほうで待機・・・」
「ならんならんよお!どうして?」藤堂は目を丸めた。
「処置中だから・・」
「何?意味が分からないよ。ねえお母さん!ついてないとねえ!」
「ええ・・」母親は腕組みした。

慎吾はやっと駆血帯を巻いた。そしてまた血管を探す。

「う〜ん・・う〜ん・・・」
「早く。慎吾さんもっとはやく!熱中症の症状なんだよ!僕の先生だ!(肩たたき)フィーバー!」藤堂がまた囃し立てる。

「う〜ん・・・代わって!」慎吾は去ろうとした。
「はずせ!」
「はいはい。う?」背中をつかまれた。
「駆血帯を!はずせ!」

 慎吾は大人2人に見下ろされながら、すごすご外しにかかった。

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