ES-MEN　55

スミはイヤホンでニューヨーク事情を入手していた。

「よおし出動命令だ！久しぶりに軍人の血がたぎる！」
サッと背後に隠した注射器をハカセは見落とさなかった。

「それは・・・？」
「あ？うん？おい！出発するぞ！」

　ローターが再び、プン、プンプンと回り始めた。

「それは注射器じゃないか！」
「はあなに聞こえんな！」
「注射器！ひょっとして僕を・・・？」

　動物の近く、じいさんが倒れている。
ハカセはすぐ飛びつき、脈を確認した。

「気絶してる。まさかこの人に注射を？」
「まあさかそんな価値があるかあ！」

　ハカセは背中のバッグから道具を取り出し、酸素をバッグで送った。

　スミはイノシシから離れた。これに注射を打ち込んだもよう。

　スミはヘリに乗り込んだ。

「出動命令に従う前に、ちょっとやっとくことがある。飛ばせい！」
　砂埃を巻き上げながら、ヘリは月へと舞い上がっていった。

　ブルル・・と奮いながら、イノシシは一気に駆けだした。
ハカセを目指したかに見えたが、大きく逸れた。

「うわ何！」

イノシシはまっすぐ、下り坂のほうに向かった。

「たた・・」じいは眼を覚ました。
「どこへ！」ハカセはじいを投げつけるように振りほどき、動物を追いかけた。

しかし速過ぎて追いつけない。

山の斜面の端で立ち止まり、下って行った動物のその先は・・・

僕らの病院だった。

「し。知らないよ・・・！」

　スミは水を得た魚のように、ケラケラ笑い始めた。
　ババババ！と轟音が耳をつんざく。

「よおしよおし！私の予想通りだ！おい！」
「はっ！」部下の操縦士。
「戦争で一番効率的な方法は？」
「今回のハイジャックでありますか？」
「意表をついた突入。それと＜選択的な＞治療だ！」
「まさか・・・」
「根回しはしてある！」

　スミは腕時計を見つめた。