ES-MEN 60

2007年8月31日
 使命を果たした感もなく、僕らは寂しく車を発車させた。

 患者本人の同意が得られないのは、僕らのせいでもあるんだろうか。

 林道に乗り上げ、もと来た道で戻る。

「やっと携帯、つながった!かけて!」ジェニーに渡す。
「だれに?」
「事務長にだ!」
「・・・話し中!」

 川を左手に見ながら、もと来た道をひたすら辿る。

 真田第二。

 先ほどの大部屋。

 患者らはヘリのまぶしい光を見上げていた。

「あ。また下を照らすぞ!そこに映るから!」1人が叫んだ。
「なにが映るって?」となり部屋の患者がやってきた。
「なにがって・・・」
「光るぞ!ほら・・・」

 ヘリが照らしたのは病室のすぐ外だった。
 映ったのは巨大な猛獣・・・巨大なのは当たり前だった。すぐ目の前、突っ込む寸前だった。

「うわあ!きた!」

 1人に遅れ、みな伏せた時には窓ガラスがすでに四散していた。

 ガシャアアン、と一瞬のうちにガラスは飛び散り、まぶしい光まで差し込んだ。

 黒い獰猛な物体はあちこちバウンドしながら病室の外であちこち踏みつぶし、そのまま廊下へとアタックしていった。

 みな、何が起こったか分からない。とりあえず叫んで隅に逃げた。

 事務長に内線電話がかかってきた。

「もしもし?ナース?さっきはどうも!こっちは子供らが!」
『そちらへ!行きます!』

ドカドカドカ!と大きな足音が聞こえてきた。

事務長は子供らを数珠つなぎで捕まえた。
「なんかヤバい?かまたり!いやかたまれ!」

 ドカン、と獣がドアを突き破り、事務所の中に転がり込んできた。
「(一同)うわああああああ!」

 獣はすぐさま体制を立て直し、ヨダレを流しつつ起き上った。
子供も事務長も、チョップの手を左右に振る。俺じゃないという合図。

「(一同)ぶるぶるぶるるる!」

 いきなり獣が左に反応した。1階に獲物を見つけた模様。脚の向きが変わった。

 滑り台の下では、徘徊のじいさんが点滴台持って立っていた。バナナを食べている。

 田中君は遠くから駆け寄った。
「ちょっとあんた!たしか検査前で絶食中でしょうが!」

「何かなと思って」
「あ、誰か来た!」
「は?」

 大きな塊が、ゴロゴロ滑り台を転がってきた。
 田中君はじいさんにしがみついた。

「わわ!逃げよう!」
「これ食べてから」

 しかし2人はひるみ、そのまま横に倒れた。
 田中くんは顔だけ持ち上げ、とっさに点滴台を片手でつかんだ。
「こっちに落ちてくるぅ!」

 イノシシは、クワア!と大きな牙を向いたまま下へスライドしてきた。

 混乱した数秒が過ぎた。

獣が目の前、ペチャンコに横たわっている。
「死んでる?寝てる?」
「はあ、はあ」真横に徘徊じいさんが天井を見て横たわる。
「あ・・・」

点滴台の長い棒を、イノシシがそのまま咥えこんでいる。どうやらそのまま串刺したようだ。

田中君は呆然と立ち上がった。

「・・・串カツ食べる?」

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