ES-MEN 62
2007年8月31日 早朝、明け方。
ブオオン!と病院の前で・・戻ってきた僕らが急停車したときには・・すべてが終わっていた。
駐車場はあちこちスリップの跡があり、転倒したバイクも。
「何があったんだ・・・暴走族か?」
病院のすぐ外では、事務長がボロボロの恰好で壁にもたれている。
「あ・・・う」
「はあ!帰った帰った!なんかいろいろあったみたいだな!」
「い・・・う」
魂の抜けた事務長を押しのけ、1階救急ロビーへ。田中君らが大きなホーキで大掃除している。ガラスの破片に、血・・・。
「この血はいったい、何なんだ?」
直径1メートルくらいの拡がりが、ぼやけて見える。
「大出血の症例でも、あったのか?静脈瘤とか」
「鋭い!でも惜しい!」ホーキをせっせと動かしつつ、田中君は頷いた。
ぎょっと驚いた。大きなブタのような死骸がある。
「なんで豚がいるんだ・・・?」
2階。
医局中は、目もあてられなかった。ぶち破られた窓に波打つカーテン、散らばった無数の書類にガラス。瓦のようなものも、たくさん落ちている。
病棟へ。ダベっていたナースらが固まる。
「(一同)おはようございます・・・」
「慎吾が怪我したそうだな?」
「こちらへ・・」師長が誘導。
慎吾はあちこち包帯、ガーゼで覆われていた。顔は無事だ。
「すげえ・・これ、全部外傷か?」
「あ、お帰り」彼はうつぶせで、眼を覚ました。
「聞いたが。うん。ヘリが瓦飛ばしたって。無茶苦茶だな・・・あいつら」
「そのまま上空で消えたって。警察が来た時は跡かたなしだ」
「警察は、頼りにならんからなあ・・・」
横の椅子に腰かけた。慎吾の奥はカーテンがはってある。
「慎吾先生の横は、町議さんでございます」と師長。
「この人は?」
「真珠会第二で点滴をしたとか」
「急きょ、送ってきたとはな・・・謎ばかりだ」
ナースが持ってきた胸部CTをその場でかざす。今測定した採血もみる。
「肺炎がある・・・CRPが44で、白血球が・・・」
絶句した。3ケタしかない。
「く、クリーンルームの用意だ!し、しかしこれは血液疾患か・・・?そしての肺炎か?」
しばらくして思った。
「真珠会は狭心症だけでなく、これも知ってるはずだ。これを生み出した?まさか・・・」
知らん間に、師長は町議のベッドの横でしゃべっていた。
「どうですか?」
「と、とっとと退院させんかっ!こ、こんな汚いとこ!」
「申し訳ありません・・・しかし病状が病状ですので個室に」
「ほれ、これで!はよう帰らせい!」
「あ、ああ。ど、どうも」袖の下か。
慎吾は顔を横に向け、壁を茫然と見ていた。
「情けないよ・・俺」
「いや。それはむしろ俺・・」
「お前の言う通りだ。俺は役立たず」
「いやいや。そうは言ったかもしれないが・・・よくやった」
ボロボロの医局。各机は原型をとどめていなかった。
ジェニーは泣きそうにうずくまった。
「ちょっと待ってよ!あたしこんな病院だなんてちっとも!」
またパニックしたジェニーに、横綱は杖で近づいた。
「ジェニーさん。すんまへんです。ホントはもっと平和な病院だったんですが・・・でも自分、未だにあきらめるわけにはいかんのです」
「あたしは、きちんとした病院で働きたいの!だいいち、ここの住民のために体まで張る必要があんの?ねえ!」
僕はイライラが頂点に来た。
「うるさい!やる気をそぐこと言うな!バカッ!」
「バ、バカ・・・・・?」
ジェニーは歯を食いしばり、涙を一生懸命こらえた。
しかし泣きをこらえられず、彼女の口は大きな<へ>の字口に。
「うう・・!うぅぅぅ〜わああああん!わああああ!」
彼女はそのまま廊下へとダッシュした。
無理した眞吾が正面で歩行器にしがみついていた。
「ジェニー!どうしたんだ!」
「どいてったらああ!やめてやるぅ〜!」
彼女は非常階段を目指した。
「待って!行かないで!」
慎吾は手を伸ばしたが、届かず。
「行かないでくれえ〜!はっ?」
慎吾は、個人的な過去を思い出した。
それは・・ついこの前。
彼は新築の自宅に帰った。いつものように。
すると・・・ワイフとその両親がいた。
慎吾は両親の前で正座した。
「確かに、確かに私はそう言いました・・・」
慎吾は頭を深々と頭を垂れていた。
「ですが、本気で言ったのでは・・・」
目の前で、義理の両親は見下げていた。
「だがな。君。私たちの娘は、君があのままドクターバンクに戻らなくなって、人が変わったと」
「自分はいい意味でだと解釈を」
「そんなことはないやろ。君が仕事行ってる間、娘から電話は毎日もらってたよ」
「・・・・」
「貧乏から抜け出して、自立した君の精神は認める。しかし、家庭を犠牲にしてまで今さら修業とは・・・それなりの金が入るならいいが」
慎吾は、語句1つ1つに傷ついた。
「確かにマイホームは無謀だったかもしれません!しかし、ここの事務長さんは約束してくれました!修行が実ったら、給料もバンクのときより払ってくれるって。なので僕は夜遅くても・・」
今度は母親が口を開けた。
「あのね慎吾さん。それが娘に、どういった不安を与えるか分かっているの?」
「不安・・・」
「そうよ不安よ。あなた(主人)は黙ってて。研究研究に追われて借金もして、娘を泣かせつづけてやっとまともな勤務になったと思ったら・・・」
慎吾は体が震えた。
「ドクターバンクの犬に!そのまま犬になったら!じじ、自分の人生はどうなっていたかと!」
おやっさんは、ドカンと足を畳に投げつけた。
「バカもん!今さらお前の人生など考えるような歳か!いいか家族を持つ男ってのはな!家族を安心させてこそいい仕事ができるものなんだよ!お前はなんだ?貧乏で不安定な暮らしさせて不安にして!それでいい仕事、いい人生などと語るな!」
僕が眞吾の家にそれとなくお世話になる、その前の話だった。
離婚当日、慎吾にとってはあっけない日だった。ひょっとしたらワイフが泣き出して、許しを乞うと思っていたのだ。
しかしそうではなかった。引っ越しセンターがやってきて、慎吾の荷物があっという間に別宅のアパートへ持っていかれた。
バカ正直な彼は書類や弁護士の言葉もろくに聞かず、親権すら奪われた。
「クソ、クソ〜!」
彼は両目を血走らせ、前へ前へ進もうとした。
「俺は、俺は・・終わるわけには・・いかねえんだよ〜!」
ブオオン!と病院の前で・・戻ってきた僕らが急停車したときには・・すべてが終わっていた。
駐車場はあちこちスリップの跡があり、転倒したバイクも。
「何があったんだ・・・暴走族か?」
病院のすぐ外では、事務長がボロボロの恰好で壁にもたれている。
「あ・・・う」
「はあ!帰った帰った!なんかいろいろあったみたいだな!」
「い・・・う」
魂の抜けた事務長を押しのけ、1階救急ロビーへ。田中君らが大きなホーキで大掃除している。ガラスの破片に、血・・・。
「この血はいったい、何なんだ?」
直径1メートルくらいの拡がりが、ぼやけて見える。
「大出血の症例でも、あったのか?静脈瘤とか」
「鋭い!でも惜しい!」ホーキをせっせと動かしつつ、田中君は頷いた。
ぎょっと驚いた。大きなブタのような死骸がある。
「なんで豚がいるんだ・・・?」
2階。
医局中は、目もあてられなかった。ぶち破られた窓に波打つカーテン、散らばった無数の書類にガラス。瓦のようなものも、たくさん落ちている。
病棟へ。ダベっていたナースらが固まる。
「(一同)おはようございます・・・」
「慎吾が怪我したそうだな?」
「こちらへ・・」師長が誘導。
慎吾はあちこち包帯、ガーゼで覆われていた。顔は無事だ。
「すげえ・・これ、全部外傷か?」
「あ、お帰り」彼はうつぶせで、眼を覚ました。
「聞いたが。うん。ヘリが瓦飛ばしたって。無茶苦茶だな・・・あいつら」
「そのまま上空で消えたって。警察が来た時は跡かたなしだ」
「警察は、頼りにならんからなあ・・・」
横の椅子に腰かけた。慎吾の奥はカーテンがはってある。
「慎吾先生の横は、町議さんでございます」と師長。
「この人は?」
「真珠会第二で点滴をしたとか」
「急きょ、送ってきたとはな・・・謎ばかりだ」
ナースが持ってきた胸部CTをその場でかざす。今測定した採血もみる。
「肺炎がある・・・CRPが44で、白血球が・・・」
絶句した。3ケタしかない。
「く、クリーンルームの用意だ!し、しかしこれは血液疾患か・・・?そしての肺炎か?」
しばらくして思った。
「真珠会は狭心症だけでなく、これも知ってるはずだ。これを生み出した?まさか・・・」
知らん間に、師長は町議のベッドの横でしゃべっていた。
「どうですか?」
「と、とっとと退院させんかっ!こ、こんな汚いとこ!」
「申し訳ありません・・・しかし病状が病状ですので個室に」
「ほれ、これで!はよう帰らせい!」
「あ、ああ。ど、どうも」袖の下か。
慎吾は顔を横に向け、壁を茫然と見ていた。
「情けないよ・・俺」
「いや。それはむしろ俺・・」
「お前の言う通りだ。俺は役立たず」
「いやいや。そうは言ったかもしれないが・・・よくやった」
ボロボロの医局。各机は原型をとどめていなかった。
ジェニーは泣きそうにうずくまった。
「ちょっと待ってよ!あたしこんな病院だなんてちっとも!」
またパニックしたジェニーに、横綱は杖で近づいた。
「ジェニーさん。すんまへんです。ホントはもっと平和な病院だったんですが・・・でも自分、未だにあきらめるわけにはいかんのです」
「あたしは、きちんとした病院で働きたいの!だいいち、ここの住民のために体まで張る必要があんの?ねえ!」
僕はイライラが頂点に来た。
「うるさい!やる気をそぐこと言うな!バカッ!」
「バ、バカ・・・・・?」
ジェニーは歯を食いしばり、涙を一生懸命こらえた。
しかし泣きをこらえられず、彼女の口は大きな<へ>の字口に。
「うう・・!うぅぅぅ〜わああああん!わああああ!」
彼女はそのまま廊下へとダッシュした。
無理した眞吾が正面で歩行器にしがみついていた。
「ジェニー!どうしたんだ!」
「どいてったらああ!やめてやるぅ〜!」
彼女は非常階段を目指した。
「待って!行かないで!」
慎吾は手を伸ばしたが、届かず。
「行かないでくれえ〜!はっ?」
慎吾は、個人的な過去を思い出した。
それは・・ついこの前。
彼は新築の自宅に帰った。いつものように。
すると・・・ワイフとその両親がいた。
慎吾は両親の前で正座した。
「確かに、確かに私はそう言いました・・・」
慎吾は頭を深々と頭を垂れていた。
「ですが、本気で言ったのでは・・・」
目の前で、義理の両親は見下げていた。
「だがな。君。私たちの娘は、君があのままドクターバンクに戻らなくなって、人が変わったと」
「自分はいい意味でだと解釈を」
「そんなことはないやろ。君が仕事行ってる間、娘から電話は毎日もらってたよ」
「・・・・」
「貧乏から抜け出して、自立した君の精神は認める。しかし、家庭を犠牲にしてまで今さら修業とは・・・それなりの金が入るならいいが」
慎吾は、語句1つ1つに傷ついた。
「確かにマイホームは無謀だったかもしれません!しかし、ここの事務長さんは約束してくれました!修行が実ったら、給料もバンクのときより払ってくれるって。なので僕は夜遅くても・・」
今度は母親が口を開けた。
「あのね慎吾さん。それが娘に、どういった不安を与えるか分かっているの?」
「不安・・・」
「そうよ不安よ。あなた(主人)は黙ってて。研究研究に追われて借金もして、娘を泣かせつづけてやっとまともな勤務になったと思ったら・・・」
慎吾は体が震えた。
「ドクターバンクの犬に!そのまま犬になったら!じじ、自分の人生はどうなっていたかと!」
おやっさんは、ドカンと足を畳に投げつけた。
「バカもん!今さらお前の人生など考えるような歳か!いいか家族を持つ男ってのはな!家族を安心させてこそいい仕事ができるものなんだよ!お前はなんだ?貧乏で不安定な暮らしさせて不安にして!それでいい仕事、いい人生などと語るな!」
僕が眞吾の家にそれとなくお世話になる、その前の話だった。
離婚当日、慎吾にとってはあっけない日だった。ひょっとしたらワイフが泣き出して、許しを乞うと思っていたのだ。
しかしそうではなかった。引っ越しセンターがやってきて、慎吾の荷物があっという間に別宅のアパートへ持っていかれた。
バカ正直な彼は書類や弁護士の言葉もろくに聞かず、親権すら奪われた。
「クソ、クソ〜!」
彼は両目を血走らせ、前へ前へ進もうとした。
「俺は、俺は・・終わるわけには・・いかねえんだよ〜!」
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