ES-MEN 65
2007年8月31日 歩行器の横綱とこの僕は、やっと回診を終えた。補修中の医局。ガガガ、チュイーンとあちこちで火花が散る。周囲は段ボールだらけ。
僕らはそれらを足でよけながら歩いた。
「病棟の重症は8名か。感染症・悪性腫瘍が大半だ」
「ういっす」
「議員は肺炎だが領域的には広くない。でも引き続いて影が出ることもある。白血球は増やしたが・・・」
「血液疾患があるんですかいな?」
「いや・・今は正直な左方移動だ。何か、免疫を抑制するような薬剤が投与されていたような形跡を感じる」
「ユウキせんせ。飛行機事故はテロリストみたいでんな。この事故が起こって国の間で緊張が走って、薬品が流入しづらくなったって。大丈夫ですか?」
「ああ、言ってたなテレビで」
「検査もひょっとしたら・・」
「そうです!以前ほどはできまへん!」事務長が叫んだ。
小児科医が張り切ってやってきた。
「今日から常勤だ。よろしく以上」
「あ、いたのか。いやいや!ありがとう!」思わず礼。
「俺も以前から内科をやりたかったから。いろいろ教えてくれや!<大人は大きな小児>だからな!」
「あいあむさむ・・・!」
小児科医が去ろうとしたが、また戻ってきた。
「事務長さんよ。動物の死骸が出たとこに、子供を連れてきづらいという意見がある。診療は別のとこでさせてほしい」
「私もナースらから聞きました。田舎民を怒らせたら大変ですから・・」
「なら、どこで?」
事務長は間をおいて答えた。
「横の医師宿舎の1階を改造します!」
「な!そこは・・・1階は俺らの寝床!」僕は椅子から飛びあがった。
「その間。先生と・・・小児科の先生は、すみませんが」
僕は小児科医と目を合わせた。
「(2人)・・・どこで泊まれと?」
翌日、僕と小児科医は折りたたんだシーツを持って廊下を歩いていた。
「俺はゲストだぞ?なんでこんな扱いを受けるのか!」小児科医はプンプンだ。
「押すな!せっかくたたんだのに・・・!」
受付へ、まず小児科医がシーツをあずけた。
ヤンキー上がりっぽい兄ちゃんが丹念にチェックする。
「ふん、ふん・・・・やり直せ」
ドサッとシーツが床に落とされた。
「ああっ!何す・・」怒った小児科医を押さえた。
「情報が漏れたらいかんから身分は内緒だって!」
「・・・・・」
「事務長の命令だ」
ユースホステル。
外の芝生で、国旗掲揚。音楽が鳴る。
「気をつけせんか!そこ!」これまたヤンキー上がりっぽい青年に注意される。
「はい・・」僕は背筋を伸ばした。
「外出して、何をしてるか何を!宿泊しとる限り!お前らは俺の支配下だ!」
ザマ見ろと微笑んだ小児科医は、足を棒でたたかれた。
「てっ!」
「痛いということは!生きてる証拠!」
僕らは旅行者らとスシ詰めの8人大部屋。2段ベッド×4。僕は下の段から降りて立ち、上段の小児科医の目線に合わせた。
「なるほど。そういう所見に注意だな」僕は感謝した。いろいろ教わる。
「ウーン。でもホントに理解してんのかな?」
「小児科は俺にとって、未知の領域だよ。重症は診れなくても、流れはつかみたい」
「だが、素養がないような気がする。いいか。君は小児に遠慮してる。何かあったのか?ぎこちないんだ」
「別に・・」
「ジェニーさんが辞めて、恋しくなったとか?」
「はあ?」
「人間不信か。それで子供の目を見てないのか」
「うっ・・・」
「それだ。子供は見ている。彼らが何も知らないと思ったら大間違いだ。君の出す言葉の雰囲気、オーラ。子供は五感で感じ取っている。雑念は捨て去れ。見透かされるぞ」
「ERみたいな喋り方っしやがって」
「なら、大人だけ診たほうがいいかもな」
「オレに、子供を見させてくれ!あっ」
近くの喋り声が小さくなった。変態だと思われたろう。
「すんません・・・内科の研修も頑張れよお前」
「その<お前>というの、やめてくれないか?マイルドな雰囲気な医者になれ。投与量も間違うなよ。大人と子供の体重は」
「それはお互い様だろが!」
「あまり高慢な態度なら僕は教えんぞ。人に教えを請うのなら、土下座して頼みこむ必要がある。本来ならね」
僕はベッドに小さく座り込み、土下座した。
「頼むから!見捨てないでくれ!俺を男にしてください!」
「わっ!バカ!」
また周りが静まった。
<ショウトー(消灯)!>
掛声とともに、電気が全て消された。
僕は最後に、耳打ちした。
「<バカ>はやめてください・・・」
看守は長い警棒をゴリゴリゴリ・・と壁に横に這わせつつ、闇へと消えていった。
僕らはそれらを足でよけながら歩いた。
「病棟の重症は8名か。感染症・悪性腫瘍が大半だ」
「ういっす」
「議員は肺炎だが領域的には広くない。でも引き続いて影が出ることもある。白血球は増やしたが・・・」
「血液疾患があるんですかいな?」
「いや・・今は正直な左方移動だ。何か、免疫を抑制するような薬剤が投与されていたような形跡を感じる」
「ユウキせんせ。飛行機事故はテロリストみたいでんな。この事故が起こって国の間で緊張が走って、薬品が流入しづらくなったって。大丈夫ですか?」
「ああ、言ってたなテレビで」
「検査もひょっとしたら・・」
「そうです!以前ほどはできまへん!」事務長が叫んだ。
小児科医が張り切ってやってきた。
「今日から常勤だ。よろしく以上」
「あ、いたのか。いやいや!ありがとう!」思わず礼。
「俺も以前から内科をやりたかったから。いろいろ教えてくれや!<大人は大きな小児>だからな!」
「あいあむさむ・・・!」
小児科医が去ろうとしたが、また戻ってきた。
「事務長さんよ。動物の死骸が出たとこに、子供を連れてきづらいという意見がある。診療は別のとこでさせてほしい」
「私もナースらから聞きました。田舎民を怒らせたら大変ですから・・」
「なら、どこで?」
事務長は間をおいて答えた。
「横の医師宿舎の1階を改造します!」
「な!そこは・・・1階は俺らの寝床!」僕は椅子から飛びあがった。
「その間。先生と・・・小児科の先生は、すみませんが」
僕は小児科医と目を合わせた。
「(2人)・・・どこで泊まれと?」
翌日、僕と小児科医は折りたたんだシーツを持って廊下を歩いていた。
「俺はゲストだぞ?なんでこんな扱いを受けるのか!」小児科医はプンプンだ。
「押すな!せっかくたたんだのに・・・!」
受付へ、まず小児科医がシーツをあずけた。
ヤンキー上がりっぽい兄ちゃんが丹念にチェックする。
「ふん、ふん・・・・やり直せ」
ドサッとシーツが床に落とされた。
「ああっ!何す・・」怒った小児科医を押さえた。
「情報が漏れたらいかんから身分は内緒だって!」
「・・・・・」
「事務長の命令だ」
ユースホステル。
外の芝生で、国旗掲揚。音楽が鳴る。
「気をつけせんか!そこ!」これまたヤンキー上がりっぽい青年に注意される。
「はい・・」僕は背筋を伸ばした。
「外出して、何をしてるか何を!宿泊しとる限り!お前らは俺の支配下だ!」
ザマ見ろと微笑んだ小児科医は、足を棒でたたかれた。
「てっ!」
「痛いということは!生きてる証拠!」
僕らは旅行者らとスシ詰めの8人大部屋。2段ベッド×4。僕は下の段から降りて立ち、上段の小児科医の目線に合わせた。
「なるほど。そういう所見に注意だな」僕は感謝した。いろいろ教わる。
「ウーン。でもホントに理解してんのかな?」
「小児科は俺にとって、未知の領域だよ。重症は診れなくても、流れはつかみたい」
「だが、素養がないような気がする。いいか。君は小児に遠慮してる。何かあったのか?ぎこちないんだ」
「別に・・」
「ジェニーさんが辞めて、恋しくなったとか?」
「はあ?」
「人間不信か。それで子供の目を見てないのか」
「うっ・・・」
「それだ。子供は見ている。彼らが何も知らないと思ったら大間違いだ。君の出す言葉の雰囲気、オーラ。子供は五感で感じ取っている。雑念は捨て去れ。見透かされるぞ」
「ERみたいな喋り方っしやがって」
「なら、大人だけ診たほうがいいかもな」
「オレに、子供を見させてくれ!あっ」
近くの喋り声が小さくなった。変態だと思われたろう。
「すんません・・・内科の研修も頑張れよお前」
「その<お前>というの、やめてくれないか?マイルドな雰囲気な医者になれ。投与量も間違うなよ。大人と子供の体重は」
「それはお互い様だろが!」
「あまり高慢な態度なら僕は教えんぞ。人に教えを請うのなら、土下座して頼みこむ必要がある。本来ならね」
僕はベッドに小さく座り込み、土下座した。
「頼むから!見捨てないでくれ!俺を男にしてください!」
「わっ!バカ!」
また周りが静まった。
<ショウトー(消灯)!>
掛声とともに、電気が全て消された。
僕は最後に、耳打ちした。
「<バカ>はやめてください・・・」
看守は長い警棒をゴリゴリゴリ・・と壁に横に這わせつつ、闇へと消えていった。
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