ES-MEN 70

2007年9月1日
「ぼかあね。去年の続きで日本を1周してるんす!」

 ユースホステルの食堂で、ライダースーツの男は夢を語っていた。

「そうですか・・・」
 食べ終わって立ち上がりたい一心の僕は、何度も椅子に腰かけた。

 小児科医がバイクも好きなのを思い出した。
「そういや、知り合いがバイク好きで」
「えっ?そうなの?」

「おい!」
 近くで献立を眺めていた小児科医が振り向いた。

「どうした?」彼は寄ってきた。
「こいつです。一言多いんですが。バイクをちょうど止めてるんです。外に」
「えっ?みんな、見に行こう!」

 ライダーが立ち上がったとたん、周囲の数十人のライダースーツが立ち上がった。
 小児科医は眼を閉じた。

 僕は病院へ向かった。途中、携帯が鳴る。

『ハカセです。おい!何を考えてんだ!』
「はっ?お前かよ?」

 それまで敬語で接していたハカセが・・人が変わったように。一応、僕のほうが年上なんだが。

『お前のとこの事務長が、会場にまぎれてやってきた!あれはお前の差し金だろ!えっそうだろ!』
「ハカセ?なにを言ってるのか・・・」

『とぼけんな!こっちは商店街がついてるんだ!計算では200票こっちが有利なんだ!せいぜい余命を楽しめ!その代わり・・・最後に一泡吹かせてやるからな!』
「酔ってんのか?」
『あ。もう着くな・・切るよ!』

 ハカセは車から降りて、院内へ入っていった。
 患者からの苦情が絶えず、受付けは混乱中。

キタノが近付く。

「薬剤がやはり補給不可能だって!」
「どうしたそれが!しつこいぞ!」怒り心頭で無視。

「さっ!もう出発に入りますか?」
「時期を見てやってよ?」
「大丈夫だよ。商店街の支持は絶大だよ。票はいけると思う」
「くそ〜!あのユウキの奴!」

 ハカセはジェニーにジェントルな分、怒りのストレスにブレーキがきかなくなっていた。

 キタノは愉快だった。

「そいつはね。そいつはスミがあとで片付けるんだって。スーパーマンのカタキらしいよ。個人的な復讐!」
「キタノ。当院の残りの患者も、全部送れ」

 キタノの口から、楊枝が落ちた。
「ぜ・・全部?」
「そうだ全部だ。この病院を空にしてでも、患者を集中して送る」
「ぜ、全部向こうが受け取ったら・・・」
「いいんだよ。どうせ投票で勝つから。でも、やるならとことん・・・」

 キタノは、あっそうかと笑った。
「奴ら、今度こそ過労で・・・!」

 ハカセは身を翻し、院長室へと入っていった。
 キタノはガッツポーズ。

「運転は、オレが・・・!へへへ!」

 病棟は次々と患者がいなくなり、ジェニーは詰所で暇そうにしていた。
「何・・・お祭りでもあるの?」

 ここ最近、派手な生活をしていた。爪にはアートを塗った。架空の会社の経費で好きなものを予約しまくった。でも、心までがなかなか埋まらない。

 耳などあちこちに金ピカのアクセサリーが輝く。

 PHSが鳴った。

「はい」
『ジェニー。昇格させてやるから、ひとつ仕事を頼む!』
「よろこんでハカセ!」

 ジェニーは立ち上がった。

 ガオンガオン、とコンテナ7両編成のトラックが噴煙を上げる。

 ジェニーは勢い余って、軽くコケた。
「うわ〜これって。なが〜・・・」

「早く乗れこの大バカ者があ!」スミが助手席から手招き。運転はキタノ。
「コンテナの患者の管理?」

「貴様は医者だろうが中での管理を指導せよ指導を!」

 真っ赤なトレーラーが屈曲しながら、轟音とともに出発した。

 ハカセは院長室から見下げた。

「大丈夫だよ。あそこは、もううちのものになる。それは分かってる。でもあそこは重大な間違いを犯した!」
「さようで・・・」側近らが心配そうにうつむいた。
「僕のプライドを傷つけた・・・!恥をかかせた!お前らは・・・前から嫌いだった!」

 ハカセは椅子に腰かけた。

「あれが出たら、僕らは町内投票のアピールに出かけるぞ!」

 プアーーーン!とトレーラーの汽笛が響いた。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索