ES-MEN 80
2007年9月1日 そして・・・1夜明けた。
ジャリ、ジャリと細かなガラス片を踏みながら、僕は滑り台横の階段を登る。
「はあ、はあ、はあ・・・」
見下ろす救急室は血やガーゼ、布や物品が散乱していた。
事務所にドサッと座ると、事務員らが口を開け、死体のように座っている。
何も音はしない。
駐車場に目をやると、ゲートに挟まれたトレーラーが1台。近くで多くの水色白衣が横たわっている。外に出られず、開くのを待ってる。
「全部の・・・全部の患者を入れたのか。うちってすごいな」
横でドタッと倒れる音。横綱も疲れ果てていた。
「ふーひーふーひー。も、これ以上は無理ですたい」
「ど、どこへ行ってたんだ・・・?」
「医師官舎も、もう満床で。あちこち汚れて大変ですたい・・・」
「引っ越ししてて、よかったな・・・小児科医は?」
「じゅ、重症の子供を隣県まで送るって出たとこですたい・・・」
「戻ってきてないのか?」
「そんな感じじゃないねえ・・・」
ゲートが開き、役人の車が入ってきた。
「この惨状は、何ですか・・・?」
鉄クズやゴミを蹴散らし避けながら、選挙カーのような車は停車した。
助手席から出てきたのは・・・ハカセだった。僕は玄関からはみ出た。
「ハカセ・・・それでも開票するってか?」
「やあ先生!くれぐれも忘れないように。これで存続が決まるんですよ。お忘れか?僕は現場にタッチはしてないから」
役人らは実に機械的に、大きな投票箱をひっくり返した。大きな机の上にばら撒かれる。
「町民って、こんなにいたんだねえ」
ハカセは役人を制した。
「院長代理先生!投票は終わりましたので、これよりここで開票します!」
「きたねえ!うちのスタッフら忙し過ぎで、投票どころじゃなかったぞ!」僕は叫んだ。
ナースらも総動員、僕らも含めてそんなのに出向く余裕などなかった・・・。
ホワイトボードが用意され、どこかの教師らがマジックで書く用意。
役人が1枚ずつ、読み上げる。
「真珠会、真珠会、真珠会、真珠会・・・」
「あわわ・・・」僕は観念したが、事務長はクールだ。
こいつ、何安心してんだ・・・。
「真珠会、お?真田会」
「おっしゃあ!あ。ども」田中くんが礼する。
「真珠会!真珠会!」
圧倒的に差がつけられていく。
ハカセは僕に近づいた。
「忘れもしませんでした。もう何年前だったか」
「言いたいことがまだ、あったのか?」
「実を言うと、僕はあなたが憎かった」
「そうなん?」
「僕らは毎日アカデミックな日々を送っていた。医者としてのテンションを保ち続けていた」
「俺が・・非常勤でやってたとき?」
「ええ。なのにあなたがやってきて・・・何かが変わった。上司は僕らを大事にせず、しょせんは非常勤であるあなたを評価し始めた」
「俺、そんな能力あったのか?」
「なかったです。でも何かが変わった。上司の僕らへの思い入れが、あれから変わったのです・・・笑顔が増えて、厳格なヒエラルキーが霞んだ。この国と同じことに」
「雰囲気が良くなったら、いけないのか」
開票は少し風向きが変わった。
「真田!真田!だよね。真珠!さなだ!さなだ!」
ハカセは臆することなく続けた。
「そして当院は緊張感を失い、みな変に自立に目覚めるようになった。リベラルな思想を持つようになった。それならそれで、あなたが皆を引っ張ってくれると思ってた」
「お、おれは当時。大学の人事で動いてたんだから。仕方ないだろ」
「そして僕らが窮地に立たされて、あなたは僕らを見捨てました」
「だから人事だってのに!」
「悔しかった。あれは本当に悔しかった」
ゲートの彼方から、大型バスが走ってきた。2台、いや3台・・・
ハカセは眼を丸くした。
開票は中盤を過ぎている。
「サナダ!サナダ!真珠!サナダ!」
ハカセは僕の目を見た。
僕はどうしていいかわからず、ニッコリほほ笑んだ。
「はは・・・これってどうなってんの?商店街の票が・・寝返ったのか?」
「そんなことは、まずない!」
ハカセの目が血走った。
ジャリ、ジャリと細かなガラス片を踏みながら、僕は滑り台横の階段を登る。
「はあ、はあ、はあ・・・」
見下ろす救急室は血やガーゼ、布や物品が散乱していた。
事務所にドサッと座ると、事務員らが口を開け、死体のように座っている。
何も音はしない。
駐車場に目をやると、ゲートに挟まれたトレーラーが1台。近くで多くの水色白衣が横たわっている。外に出られず、開くのを待ってる。
「全部の・・・全部の患者を入れたのか。うちってすごいな」
横でドタッと倒れる音。横綱も疲れ果てていた。
「ふーひーふーひー。も、これ以上は無理ですたい」
「ど、どこへ行ってたんだ・・・?」
「医師官舎も、もう満床で。あちこち汚れて大変ですたい・・・」
「引っ越ししてて、よかったな・・・小児科医は?」
「じゅ、重症の子供を隣県まで送るって出たとこですたい・・・」
「戻ってきてないのか?」
「そんな感じじゃないねえ・・・」
ゲートが開き、役人の車が入ってきた。
「この惨状は、何ですか・・・?」
鉄クズやゴミを蹴散らし避けながら、選挙カーのような車は停車した。
助手席から出てきたのは・・・ハカセだった。僕は玄関からはみ出た。
「ハカセ・・・それでも開票するってか?」
「やあ先生!くれぐれも忘れないように。これで存続が決まるんですよ。お忘れか?僕は現場にタッチはしてないから」
役人らは実に機械的に、大きな投票箱をひっくり返した。大きな机の上にばら撒かれる。
「町民って、こんなにいたんだねえ」
ハカセは役人を制した。
「院長代理先生!投票は終わりましたので、これよりここで開票します!」
「きたねえ!うちのスタッフら忙し過ぎで、投票どころじゃなかったぞ!」僕は叫んだ。
ナースらも総動員、僕らも含めてそんなのに出向く余裕などなかった・・・。
ホワイトボードが用意され、どこかの教師らがマジックで書く用意。
役人が1枚ずつ、読み上げる。
「真珠会、真珠会、真珠会、真珠会・・・」
「あわわ・・・」僕は観念したが、事務長はクールだ。
こいつ、何安心してんだ・・・。
「真珠会、お?真田会」
「おっしゃあ!あ。ども」田中くんが礼する。
「真珠会!真珠会!」
圧倒的に差がつけられていく。
ハカセは僕に近づいた。
「忘れもしませんでした。もう何年前だったか」
「言いたいことがまだ、あったのか?」
「実を言うと、僕はあなたが憎かった」
「そうなん?」
「僕らは毎日アカデミックな日々を送っていた。医者としてのテンションを保ち続けていた」
「俺が・・非常勤でやってたとき?」
「ええ。なのにあなたがやってきて・・・何かが変わった。上司は僕らを大事にせず、しょせんは非常勤であるあなたを評価し始めた」
「俺、そんな能力あったのか?」
「なかったです。でも何かが変わった。上司の僕らへの思い入れが、あれから変わったのです・・・笑顔が増えて、厳格なヒエラルキーが霞んだ。この国と同じことに」
「雰囲気が良くなったら、いけないのか」
開票は少し風向きが変わった。
「真田!真田!だよね。真珠!さなだ!さなだ!」
ハカセは臆することなく続けた。
「そして当院は緊張感を失い、みな変に自立に目覚めるようになった。リベラルな思想を持つようになった。それならそれで、あなたが皆を引っ張ってくれると思ってた」
「お、おれは当時。大学の人事で動いてたんだから。仕方ないだろ」
「そして僕らが窮地に立たされて、あなたは僕らを見捨てました」
「だから人事だってのに!」
「悔しかった。あれは本当に悔しかった」
ゲートの彼方から、大型バスが走ってきた。2台、いや3台・・・
ハカセは眼を丸くした。
開票は中盤を過ぎている。
「サナダ!サナダ!真珠!サナダ!」
ハカセは僕の目を見た。
僕はどうしていいかわからず、ニッコリほほ笑んだ。
「はは・・・これってどうなってんの?商店街の票が・・寝返ったのか?」
「そんなことは、まずない!」
ハカセの目が血走った。
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