ES-MEN 81

2007年9月1日
 小児科医の藤堂を先頭に、子供を引き連れた親らが次々とバスから降りてくる。

 僕は手を振った。
「おかえり!」
「大変だったようだな!」

 横綱は泣きながら走った。
「やったあ!もどったあ!」
 抱きつき、藤堂とともに吹っ飛んだ。

 僕は藤堂だけ引き上げた。

「でも遅かったな。何をしてたんだ?小児の転院だけじゃ、ないだろ?」
「人を集めてきた。開票前に紹介しようと思ったが・・・」
「人?」

 バスが、また1台。もう4台目にもなる。降りてきたメンツは、子供複数にその両親、はたまたその両親・・・。いくつかは見た顔だ。

「藤堂。彼らは・・・」
「この僕に、これから一生ついてきてくれる人間だ」
「なに?じゃあ隣町の・・・」

 そうか。この男が診療していた町の人間か。

 みな、大きな荷物を持っている。

 事務長は一歩踏み出した。
「とにかく、すごい人数です。集合住宅からの移住はそのうち、ということだったんですが・・・財力で何とか都合をつけました」
「住居の手配を?」
「ええ」

 僕は呆れ、座り込んだ。
「強引に、住民にしたとは・・・何考えてんだお前」
「いやいや」
「また八百長か?」
「いえ。これは・・・先生の主義に従ったままです」
「は?おれはこんな・・・」
「<正義のためなら、何をしたっていい>」
「う・・・」

 事務長はさっそうと、その場から離れて開票に耳を傾けた。

 投票は、ひょっとしたら・・・。

 でも俺は。いずれにしても、大阪に戻る必要がある。残存艦隊を駆逐する必要があるからだ。

小児科医はバンと胸をはった。
「もうここの住人だ!」

 ドドーン、と壮観な眺めだった。小児科医の両側に拡がる群衆。核家族、大家族・・・。
 ざっと五百人はいるはずだ。

 僕は開票のほうを振り向いた。
「そう。それで・・・」

 開票は終わりにさしかかる。
「サナダ!サナダ!サナダ!真珠!サナダ!・・また真田!」

 ハカセの頬を、一筋の涙がつたった。
「陰謀だ・・こんなの陰謀だ。なんで僻地の人間は、分からないんだ。見抜けないんだ」

 開票が終わっても、役人らは押し黙っていた。

 事務長は、ホワイトボードの数を計算機で叩いた。

「・・・・真珠会368。真田会・・・・440!真田会の勝ち!」

「(一同)いやったああああああ!」

 小児科医がたくましく見える。慎吾も、横綱も成長した。

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