ES-MEN 84

2007年9月1日
 往診を中断していた山奥の相原氏の家。

 彼はベッドで苦しんでいた。
「はあ!はあ!胸が!胸が!」

 見上げると、点滴の落ちが悪い。遺産目当てらしい親族が、周囲をグルグル回る。

「て、点滴はもうないか!せ、先生が置いてったろう!」
「・・・・・・」みな、知らんふりで見下ろしている。
「点滴が終わりかけると、やっぱり苦しい!なあ苦しい!」

 じいは弱気で当然だ。胸痛が襲ってくる。

 近くで、中年息子の1人の声が聞こえた。
「わざわざ実家に戻ったのに、これじゃまだまだかと思ってたけど・・・」
「ぐぎ!ぐぎ!」
「な、そろそろかな・・・あれ?あの犬」

 外から入ってきて、時々様子をうかがっている。
「また入ってきたよ。あのバカ犬」
 別の兄弟が呟く。
「この前、医者が来ただろ。あのあとからいるんだよ」

 娘の1人が、じいを覗き込んだ。

「ねえ。もう同じことやし。うちら、近くにおるから」
「あの点滴・・・」
「ここにおるって。言うたやない?」
「てんてき・・・」

 犬の首輪、小さなカメラがある。中年男性が驚いた。
「おおっ!これカメラついてるやん!はやりのバイヨみたいやな!」
 
 誰もバイオと突っこまなかった。

 じいが腕を伸ばすが、何度も布団の中にしまわれる。

 じいはうなされながら、三途の川を泳いでいた。
<岸は、岸は・・>
 いくら泳いでも、岸は見えてこない。

「あ、なんかトラックが来た!」

 グアアアアン!と停車した音とともに、ウイーンという音がした。

 兄弟の1人が着替えた。
「宅急便だ!金だったりして!」
 他の兄弟連中にはタダゴトではなかった。

 次々に靴が履きかえられ、ついにはドカドカと突進していった。

「ちょっと!」
「(兄弟ら)うわ!」

 僕と田中くんは、タンカを引っ張ってじいの部屋へと向かった。

 点滴が・・・もう落ちてない。

「うわっと!まだ詰まってないかな!」
 点滴をつなぎかえ・・良かった・滴下する。

 ニトロ剤が再び補充されたじいは、みるみるうちに生気を取り戻した。

「はあはあ!はあ!先生!先生!どうも〜ありがとう!」
「じいさん!やっぱ行こうよ!」
「今さらいいんですか?」
「生きてくれ!」

 兄弟らをかきわけ、有無を言わさずタンカが乗せられた。
ハッチが閉じ、じいは慌てるように中へと吸い込まれた。

 僕は運転手に指示した。

「地球に向けて!出発!」

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