ES-MEN 85

2007年9月2日
 山林をなぎ倒しながら、トレーラーは進んだ。

「相原さん。じいさん・・・」
「だいぶ。だいぶ楽になりました」

 じいは、2段ベッドの下にいた。あちこち計器が光る。
ナースが数人、手厚く看護。

 事務長が挨拶した。
「しばらく、大阪で療養しましょう」

「で、でも。な、治らんかったら・・・」
「何言ってるんです!治るために、あなたは行くんです!」

 ガガガガガ・・・とタイヤは音を立てていた。

 じいがそっと開けるカーテンの向こうに、秋の景色。

「年を取ったら、壊れることばっかりで・・・」
じいは独り言のように呟いた。すると、上から

「(かすれ声)いや・・・」
「はっ?誰かいたのですか?」
「(かすれ声)こうしてわしら人間が出会うこと、その人間にこうして生かしてもらってることに・・・何か新しい命、絆というものを感じる」
「・・・・・・・」

 抜管したばっかりの、町議の声だった。しかし鎮静剤から完全に覚めてないせい、かもしれなかった。

 僕らはドッと力が抜け、適当に空いてるベッドに寝ころんだ。
みな、めいめいの事を思う。

 寂しさか、嬉しさか・・あちこちから鼻をすする声が漏れた。みな涙が止まらなかった。

 しかし、僕にはいろいろ後悔がこみ上げた。でもいい経験だった。いや・・・堂々めぐりで時間は過ぎていく。

 田中君は、相変わらず小さい鍵盤を叩いていた。

 行き過ぎるトレーラーを、ダンプとワゴンが側道から見送った。ハカセらも、また耐えきれず泣いていた。

 何を想ったのだろうか。

 タタタタタタタ・・・・

 どうして どうして僕たちは
 出逢ってしまったのだろうタタタタ・・・

 こわれる〜ほど抱きしめた〜
 最後ダダン!春に見た夕陽ダン!
 うろこ雲照〜らしながら〜タタタタ・・・
 ボンネットに〜消え〜てった〜

 ひき返してみる〜わみる〜わひとつ前のカ〜まで〜
 いつか海に降りたおり〜た〜
 あの駐車場にあ〜なたがい〜たようで〜バン!バン!

 どうして どうして私達
 離れてしまったのだろう〜バン!ババン!
 あんなに愛してたのに〜
 岬の灯冴えはじめる
 同じ場所に立つけれど〜バン!ババン!
 潮風 肩を抱くだけ〜

 < 2007年 11月  真田本院は平和を取り戻した >

 すりきれたカセットを久しぶりにかけてみる
 昔気づかなかった
 リフレインが悲しげに叫んでる
 どうして どうしてできるだけ
 やさしくしなかったのだろう
 二度と会えなくなるなら
 人は忘れられぬ景色を
 いくどかさまよううちに
 後悔しなくなれるの?

 夕映えをあきらめて
 走る時刻

 シュッ・・パーン!

 どうして どうして僕たちは
 出逢ってしまったのだろう
 こわれるほど抱きしめた

 どうして どうして私達
 離れてしまったのだろう
 あんなに愛してたのに

 どうして どうしてできるだけ
 やさしくしなかったのだろう
 二度と会えなくなるなら

 どうしてどうしてわたした・・・(フェードアウト)

  <終>

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