サンダル先生R 月曜日 ? 嵐の前
2007年11月20日「ば!ばかやろ!」
僕は思わず、じいさんの点滴の入ってるであろう腕をつかんだ。
「あ、ごめん。コイツにです!」
そのナースは他人事のように落ちついていた。
「何してんの先生」
「し、止血を!ひっこ抜いたんだろ多分!」
「点滴、足やで先生」
「なっ・・・!」
ナースは脚の出血部位をしっかり押さえた。
「目を離したら、いかんだろが!」
「あ〜焦った焦った」
「もっと出血してたかもしれんだろ!」
「・・・・・」
内容が内容だけに怒って当然だが・・・しかしこの頃、僕はかなり怒りやすくなっていた。僕らが僻地から戻ってここでの勤務を再開したとき驚いたのは・・・入れ替わってたナースら面々の、非情なほどの非常識さだった。
当院の再出発にあたって給与面など待遇面が大幅に見直され、事務長の提示した条件に反対するナースが続出。下がった給料と今後の激務(それまで割とヒマだったらしい)との割が合わないというのが本音らしい。
医療従事者のサラリーは、(今のところ)世の流れにそれほど左右されない。しかしプライドがみな高い分、<割に合う>以上の額を要求してくるのが常。事務長はうつ傾向になり、頭に円形(脱毛)が出来ていた。
それなりに能力のあるナースらが、みな転職してしまった。ガサツな非常識ナース、オークナースらは皆残った。性格に問題ありのナースは、仕事面でもそれが顕著だった。
それにしても・・・こんなに性格が出る仕事(医療従事者全般)なんて、ほかにない。
「主治医のシローが来たら報告して、家族に説明するよう段取りしなよ!」
じいさんのバイタルを確認し、カルテを閉じた。
すると、奥から出てきたのは・・・白衣の男。当直医だった。
「おはようございます!サンダル先生っすよね!光栄です!」
アカぬけたジャニーズ中年。僕より年下のはずだが・・無礼者。何度か話したことはある。彼はどこかガニマタで、僕らは陰で「ガニーズ」と呼んでいた。
「なんか、色々あったみたいだね〜!」
当直医によくある、疲れを通り越したハイな状態。しかしこの男はコールにまともに対処せず寝ていたようだ。寝ぐせで分かる。
「ちゃんと電話!出ろ!」
なんて言えない言えない。彼は僕が所属してた大学医局から来てもらってる。もちろん患者への不利益は注意すべきだが、結果を考えるとどうしても。
「夜中は変わりは・・」
「いや別に。呼ばれなかったっす!」
「詰所からコールを何度か?」
「いや。なかったっす」
「してたようだけど」
「あ、風呂入ってたかな・・・自分、風呂は夜中なんっすよ!」
「あっそ・・・」
僕はカルテを確認。重症患者の情報確認。
しかし、ガニーズは横にくっついてくる。
「サンダ・・ユウキ先生。大学、おれもうイヤっすよ・・・」
「あっそ。熱が39.5・・・」
「あそこはもう暗黒ですよ。暗黒」
「ほう。バイオプシーはやっぱGroup Vか・・・」
「暗黒大将軍っすよ。中堅ばっか働かされて。先生。ここ来ていいっすか?先生のコネってことで」
「にゃおう。CTは・・ほんとだ。放射線科のコメントでは膵臓に・・」
「ネコじゃないっすよ先生?コネですよ?あ、もう帰ろっと」
鳴った腕時計をソデ伸ばして隠し、ガニーズはガニマタで医局へと戻っていった。
奇妙な一句が浮かんだ。
< いつまでも いると思うな 明けの医者 >
淡々と過ぎていく時間。カチッ、カチッと進んでいく。耳を澄ますと、ちょっと開いた窓の外に自転車のブレーキ音や挨拶の声。
「あと30分で外来か・・・ちょっと回る!出るぞ!」
誰もいない詰所をズドーン、と出て廊下へ。
僕は思わず、じいさんの点滴の入ってるであろう腕をつかんだ。
「あ、ごめん。コイツにです!」
そのナースは他人事のように落ちついていた。
「何してんの先生」
「し、止血を!ひっこ抜いたんだろ多分!」
「点滴、足やで先生」
「なっ・・・!」
ナースは脚の出血部位をしっかり押さえた。
「目を離したら、いかんだろが!」
「あ〜焦った焦った」
「もっと出血してたかもしれんだろ!」
「・・・・・」
内容が内容だけに怒って当然だが・・・しかしこの頃、僕はかなり怒りやすくなっていた。僕らが僻地から戻ってここでの勤務を再開したとき驚いたのは・・・入れ替わってたナースら面々の、非情なほどの非常識さだった。
当院の再出発にあたって給与面など待遇面が大幅に見直され、事務長の提示した条件に反対するナースが続出。下がった給料と今後の激務(それまで割とヒマだったらしい)との割が合わないというのが本音らしい。
医療従事者のサラリーは、(今のところ)世の流れにそれほど左右されない。しかしプライドがみな高い分、<割に合う>以上の額を要求してくるのが常。事務長はうつ傾向になり、頭に円形(脱毛)が出来ていた。
それなりに能力のあるナースらが、みな転職してしまった。ガサツな非常識ナース、オークナースらは皆残った。性格に問題ありのナースは、仕事面でもそれが顕著だった。
それにしても・・・こんなに性格が出る仕事(医療従事者全般)なんて、ほかにない。
「主治医のシローが来たら報告して、家族に説明するよう段取りしなよ!」
じいさんのバイタルを確認し、カルテを閉じた。
すると、奥から出てきたのは・・・白衣の男。当直医だった。
「おはようございます!サンダル先生っすよね!光栄です!」
アカぬけたジャニーズ中年。僕より年下のはずだが・・無礼者。何度か話したことはある。彼はどこかガニマタで、僕らは陰で「ガニーズ」と呼んでいた。
「なんか、色々あったみたいだね〜!」
当直医によくある、疲れを通り越したハイな状態。しかしこの男はコールにまともに対処せず寝ていたようだ。寝ぐせで分かる。
「ちゃんと電話!出ろ!」
なんて言えない言えない。彼は僕が所属してた大学医局から来てもらってる。もちろん患者への不利益は注意すべきだが、結果を考えるとどうしても。
「夜中は変わりは・・」
「いや別に。呼ばれなかったっす!」
「詰所からコールを何度か?」
「いや。なかったっす」
「してたようだけど」
「あ、風呂入ってたかな・・・自分、風呂は夜中なんっすよ!」
「あっそ・・・」
僕はカルテを確認。重症患者の情報確認。
しかし、ガニーズは横にくっついてくる。
「サンダ・・ユウキ先生。大学、おれもうイヤっすよ・・・」
「あっそ。熱が39.5・・・」
「あそこはもう暗黒ですよ。暗黒」
「ほう。バイオプシーはやっぱGroup Vか・・・」
「暗黒大将軍っすよ。中堅ばっか働かされて。先生。ここ来ていいっすか?先生のコネってことで」
「にゃおう。CTは・・ほんとだ。放射線科のコメントでは膵臓に・・」
「ネコじゃないっすよ先生?コネですよ?あ、もう帰ろっと」
鳴った腕時計をソデ伸ばして隠し、ガニーズはガニマタで医局へと戻っていった。
奇妙な一句が浮かんだ。
< いつまでも いると思うな 明けの医者 >
淡々と過ぎていく時間。カチッ、カチッと進んでいく。耳を澄ますと、ちょっと開いた窓の外に自転車のブレーキ音や挨拶の声。
「あと30分で外来か・・・ちょっと回る!出るぞ!」
誰もいない詰所をズドーン、と出て廊下へ。
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