サンダル先生R 月曜日 ? 出戻り
2007年11月21日重症部屋。
67歳の女性。薬剤性の間質性肺炎。原因薬剤は伏せておく。
「・・・おはようございます」
「よっこらせっと」
「あああ!起きんでいいです起きんで!」
酸素吸入中。口から痰のバリバリした音が聞こえている。感染症の併発もあるが炎症反応自体は小さい。しかしこれから上がってくるかもしれん。大学で抗癌剤での治療後に間質性肺炎を発症、<長期になった>という理由で当院へ紹介されたばかりだ。
あそことは関連病院になったから、むやみに断れない。
「(在院日数が問題なんだろうけど、責任取れよなあいつら・・・!)」
「昨日と比べてどうです?」
「あ、ちょっとマシです」
「同じくらいかな?でも特に苦しかったは夜中?」
「そうですな〜」
「痰が出しにくかった?」
「ええ」
「それはやっぱり苦しかったな〜」
「それはもう!」
日増しに苦しくなってるのが分かる。この人は気を遣いすぎて病状を小さく伝える傾向がある。
ふと、近くのガラスに自分が映る。僕のほうに問題はないか・・・?
「うおっと!」
「どした・・・?」
「いやいや」振り向き、チャックを閉めた。何て事だ・・・
手洗い後、出直し。
54歳男性の肺気腫。3日前は呼吸が浅く、トシ坊が挿管してくれた。ところが駆けつけた家族が呼吸器を望まず、Tチューブだけが伸びていた。これでは貯留した二酸化炭素が出て行かず、痰が取りやすくなっただけだ。
「・・・眠ってる。でも呼吸はマシか。痰が出て少しは」
モニターでアシドーシスなど、心停止につながりそうな所見はない。
ここの家族は決めていたことを直前にいきなり変えてくる傾向がある。背後に何か、口添えしてくる人間がいるような気もする。
68歳の大柄男性。不安定狭心症。ステントが何本も入ってる(レントゲンで冠動脈の走行が分かるほど)。バイパス手術を10年ほど前に受けてたがバイパスはすでに閉塞し、適宜拡張を続けてきた。今回、心不全の治療中。酸素吸入。血圧が低く、利尿はハンプを使用。長期戦となっている。
「眠ってるか・・・」
聴診を終えて廊下へ。正直、自分の受け持ち患者で精一杯だ。次にすべき事が山ほどある。
各部屋を流れるように回る。時計との睨めっこが続く。
すると、夜勤ナースが個室で若い女性患者とヒソヒソ話している。
「師長。おはよう」
「あ。はーい」ミチルは、さっと身を引いた。
「で・・・?」
ミチルが見張る中、腹部を診察。骨盤腹膜炎を心配してたが。
「抗生剤で高熱はおさまってきたが、炎症反応を確認しないと」
「いつ分かんの?」金髪の専門学校生はガムを噛んでいた。
「昼前かな」
「そしたら帰れる?なー、婦長さん」
ミチルは後ろで小さく頷いた・・はずだ。
「もうちょっとここで療養したほうがいいよ」
「ヤダ!帰るから!」
「なっ・・?」
「帰る帰る!今日帰る!病院いやや〜!キレイやないし!病人だらけ!」
「く・・・でも。中途な治療だとまた」
「出戻り?」
後ろのミチルが、ピクッとうろたえた。この師長は出戻りの形で帰ってきていた。あの時は驚いた。2カ月前。
医局に朝現れた、長身の女性。みな見覚えがあった。
そのときの、彼女のあの言葉。
「おはよーございまーす!でもどりでーす!」
あの開き直った表情。
恐らく・・・(前の職場で)何かつらいことがあったんだろう。
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