53歳女性。うつ・イライラ症状で再診。

「この前の血液検査はと」オークに促す。
「出てまへん」
「ホンマか?1週間したらもう出てるだろ?」
「カルテにはないけど」
「聞けよ!」検査室に電話。

 僕は受話器を置いた。
「あっちにある。取ってき・・あれ?」

 ナースはいない。自分で。

 検査室に入ると、技師長ではない女性2人の甲高い声。

「えっらそうになあ!」「そうや!」
「あのう・・」
「取りに来いって言うたった!」「せや!」
「結果・・」
「電話するくらいなら来いや!」「来いや!」
「けっか・・」

「(2人)ひっ!」

 伝票を持ち、診察室へ。

「結果は甲状腺も含め異常なしか。その症状はこう・・」
「更年期か自律神経でっか」
「なっ・・!」
「よかったよかった。癌はないっちゅうことやな」
「待って。そこまで言ってない・・・!」
「あんがと」

 満足した表情で出ていった。

 73歳女性。息子に肩を抱えられている。

「先生!うちの母!お願いします!この前、もう1人の先生にかかったんだけど!」
「あっち・・・もう1診の?だったらそっちで!」
「いやいや!あの先生はあかん!」
「いやしかし・・・前回も彼だったら今回も」

「・・と私も申したのですが」
 事務の田中くんがすまなさそうに立っている。
「長男さん!主治医の先生と!よく話合って!」
 彼はうまく逃げた。

 採血し、僕は島に声をかけた。

「今、横になってるんだけど・・・」
「あ。今度は先生んとこ来たんっすか?」
「何度か診てるよな?」
「ですけど。そこに来たのならそこで診てもらわないと」
「倦怠感で何度か来ている。表紙には不安神経症。抗不安剤が処方されてるけどいくつか・・・効きすぎなんじゃないか?」
「あーもしもし!」

 彼は携帯を持ち上げた。

 どうも携帯電話が登場して・・・パーソナルな会話がまともにできなくなった。

 ナースがデータを持参。

「ブヒブヒ。悪いです」
「なにぃ?かせ!うっ?二酸化炭素が・・・」
 かなり高い。微量の酸素を流し、そこの超音波を当てる。

「鎮静剤が効きすぎて呼吸が・・じゃないな。心臓がこんなとこ(みぞおち)にある。COPD(肺気腫など)がもともとあるんじゃないか?息子さん。この人タバコ・・」
「いや吸ってない!」
「以前は?」
「昨日までは吸ってた!1日3箱!」
「どあ・・いやいや。ニップネーザルをつけよう!うわあっ?」

 ばあさんはいきなり暴れ出した。皆で押さえる。息が荒くなる。痰も多くからんでそうだ。

 僕は周囲になるべくと救援を頼んだ。

「島!おい!手伝え!」
「(電話中)えーわかりました!3本ほどあればいいですか?」
「なにが毛が3本だ!おい挿管しよう!今ここで!」

 鎮静剤を筋注、アンビューを受け取る。
「おいナース!どこ行く?」
遠ざかるナースらを引き留め、点滴・吸痰の処置など命じる。しかしほとんどの処置は駆けつけのドクターに依存した。

 そのくらい、当院の残存ナースのレベルは低くなっていた。

 ・・・あっという間の出来事で、周囲の机や台などが外にはみ出ていた。
 主治医はトシ坊。呼吸器が接続されたあと、島は後ろから覗いてきた。

「はい?」
「どある。もう処置は落ち着いたよ・・・!」
「大学からの大事な用で」
「こっちも大事なんだよ!」
「カリカリせんでも・・・」
「非常勤でもな。気を抜くんじゃないんだよ!」
「どうしても要望がおありなら、医長先生を通してからでお願いできませんか?」
「くっ・・!」

 僕は、もう医長ではなかった。
「でもやっぱ腹立つ!おめえ!」

 島は振り向いた。
「(toナース)あ。次の人。入ってもらって」無視し、リセット。
「どあ・・!」

 この世界。怒りにそのまま任せたら、自分まで潰れる。それが患者にプラスになることは、決してない。

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