60歳男性。糖尿病腎症が進行し、透析導入前。

「先生こんばんは!」
「おはよう。ちょっと顔が腫れてるな・・・」
「安静は守っとります!」
「山仕事は?」
「今日はもう終わりました!」
「診察に合わせて?どある・・・」

 早朝の採血ではクレアチニンがやや悪化。レントゲンもうっ血著明。

「こりゃまた入院だな・・・月曜日って入院多いよな」

説得の上、自分が主治医で入院。

 若年男性。いつもの喘息の人だ。

「スー!ハー!」
「あ。無理に喋らんでいい!」聴診するまでもないほどのの喘鳴。
「2日前からしんどかヒー!でも先生のヒー!診察まで待とうとヒー!ちなみに昨日ヒー!電話したらヒー!」
「点滴、行こ!話はあとで!」
「当直の先生ヒー!今日はあかん明日来いヒー!」
「・・って言われたの?」

 次の患者の鼻から綿棒を抜き、僕は事務長を呼びとめた。

「おい事務長!」
「はいな!」
「昨日の当直日誌あるか?」
「はいよ手配します!」
 「あっ」

 手元から、綿棒が落ちコロコロ・・向こうから走ってくる事務員。

 ニコラス・ケイジのように飛びかかり、鼻水ごとつかんだ。

 当直日誌はドクターが直接書くものもあれば、事務当直が書くものもある。事務当直が書くものには、さらに<ウラ日誌>が存在する場合もある。ウラ版には、実際断ったりトラブったケースが書いてある。

 僕は、ウラ版を見つめた。
「・・・救急を4件断ってる。事情はあろうが・・・」
「喘息の方まで断ってましたね」事務長が腕組みしていた。
「初診は仕方なくとも、うちでのかかりつけまで断るとは・・ベッドは十分空いてたぜ?」
「まー、大学からの派遣なので。うちがそこを突つくわけには・・・」

 この男。遠まわしに<面倒は起こすな>と言ってるようなものだ。

「ガニーズの野郎・・・!何が著変なしだ!」
「ナースも大変ですしねえ」
「だいたい経営側にも問題あるだろ?夜間ナース当直を省いたろうが!」
「わ、わたしに言われても・・」
「一般病棟の詰所は3つ。療養が2つ。ナースは2名ずつの2交代。どこも手一杯。その勤務の中、夜間外来を手伝わせる。ここのナースの能力も評価せず、それまで通りの働きは期待できないぞ!」

 だがそれは珍しいケースではなかった。今や病院あちこち、そういうキリキリの体制でやってるとこは多い。

 経営者側は、切羽詰まる危機感を常に持っている。ローコスト・ハイリターンが切なる願い。文句・事故さえ出なければ知らん振り・・の面はある。スタッフ側はたいてい火事場の力で乗り切る。あるいは・・・ガニーズのような怠慢がそれを<支える>。

 これ以上、不満は漏らせなかった。だからといって自分が週にもう1回当直するなど・・・。

 HEROにはなれない・・・。

 ♪例えば誰か一人の泊まり(当直)と
  引き換えに病院を救えるとして
  僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ・・・

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