詰所では、シローが真っ白な白衣で家族に説明・・同意書をもらっている。早朝の血液したたり事件・・・どうやら輸血が必要になったのか。

「もし必要となったときのために」
「ええ。全部お任せしておりますから」家族である中年女性はシローに何度も頭を下げていた。信頼度がよく分かる。

 そうか、もしものときの輸血同意書、抑制の同意書・・・。何でも同意書がいる時代になったな。

 家族が出て、シローは椅子から立ち上がった。

「どうも!すみません遅れまして!」
「いやいや、遅れてるのは・・・」

 僕は横目で詰所入口を確認・・すると最年少のザッキー医師が入ってきた。ダルそうだ。僕よりダルいと思う。

「あ〜あ・・・」
「何かあったのか・・?」
「はっ(ため息)」

トシキ医長の表情は巨大なマスクで隠れて見えず。
僕らはみなシャーカステンに向かって座りなおした。

「(4人)よっこらせっと」

 医長が自製のメモを読み上げる。

「満床ですので、以後の入院は他院へ紹介するか、あるいは外来でもたすように」
「(3人)はぁ〜い・・・」
「それと、落ち着いてる患者さんらを遊ばせないよう・・・ザッキー!」

「えっ?」反抗的な彼は顔を上げた。
「一般病棟で、落ち着いてる患者さんらは早々に・・」
「落ち着いた人は何人かいますけど・・療養病棟に移したいって希望してます」
「僕は聞いてないぞ?」
「師長には言いました!」
「僕を通してくれないと!」

 醜い言い争いを、師長は冷やかに腕組みで見ている。

トシ坊は見下げたように淡々と受け止めていた。
「・・・君が良かれと思っても、組織は森として動いてるんだ。木ばっかり見ちゃ」

 それ、いつか言った俺のセリフだろ・・・!

「事務長や僕も、経営者側からプッシュかけられてる。回転を上げないと。忙しいのは分かるが」

「だったら療養病棟でノンビリしてる患者らを、追い出したらいいでしょう?」ザッキーがキレかけた。「社会的入院と称してる、彼らですよ!」

 療養病棟に入院してる患者の半分は純粋なリハビリ目的だったが・・・根拠なく検査して終了後、通院レベルのリハビリをしてる患者が多くいた。これはまあ、前にいた医者らが引っ張った名残なんだが・・・。

 ザッキーは頻拍ぎみに興奮していた。

「だいいち入院の必要性自体がないじゃないですか!要は行き先がないからなんでしょう?各病院を転々として!どこかへ追い出すすんません言い方が悪かった・・移さないと、ますます甘えますよ?それからにしてください!入院入れろとか回転上げろとか言うのは!」

 事務長が誰から密かに呼ばれたのか・・入ってきた。
「・・・・・」
 何か起こらないか、冷やかに見ている。

 僕も、確かに思うところはあった。

「たしかに、一般病棟で急性期治療を行って、社会復帰まで時間がかかる人だけ療養病棟へ移ってもらうのが理想だな。でも今は、療養病棟の穴埋めのために不要な入院が・・まあ以前の名残なんだが。増えている。そうすると一般病棟の回転がぎこちなくなる。療養に行けず退院せざるを得ないようなケースが増える」

「先生、でもまた訳の分らん入院入れてるじゃないですか!」ザッキーはおさまらず。

「は?」
「トボケんといてください。結構そのクセ、嫌がられてますよ?」
「別にいいよ。で?」
「23歳のほら、若いペースメーカー入った男性!あと中年のコワモテの!」
「とりあえず入院させるしかなかったから・・」
「質が落ちてるんですよ!職員だけじゃない患者もだ!」
「口が悪いんだよお前は!トシ坊!いや医長!そろそろはじ・・・あれ?」

 立っていた医長がいない・・・。

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