重症部屋。

 67歳の女性。薬剤性の間質性肺炎。早朝に回診し、家族にいったん説明したあの人だ。

トシキ医長は外国製の聴診器をかけた。
「松本さん・・・失礼します医長です。聴診をさせていただきます」
「よっこらせっと」
「あああ!起きなくていいです!」

 酸素吸入中。

トシ坊は、僕のマネみたいに質問。
「昨日と比べてどうです?」
「ちょっとマシです」
「そうですか。じゃあマシなんですね」
「はい。ヒーヒー」

そんなはずはない。

 喋っただけで、モニターの酸素飽和度が下がってる。
 僕はカルテを広げた。
「・・いや、医長。実際は苦しいと思う」
「呼吸はどうです?」改めてしつこい医長。
「医長。もっと分かりやすく聞けよフレンドリーに!」

ムッとしたトシ坊を尻目に、みなカルテや写真を閲覧。

「俺としては、ちょっとうっすら新しい陰影が増えてきたこの段階で・・・ステロイドパルス注射を3日間、大量投与しようと思うんだ」
「(その他)・・・」
「他に方法があれば別だがこのまま見るのはオレには。皆も、それでいいか?ザッキーは?」

わがまま男は、いつもハッキリしている。
「not effective(効果なし)」

「・・・シローは?」
「フィフティーフィフティーというか」

「なるほど。医長は?」
「組織型が分からない分、難しいですね」

「このケースは原因が明らかだ。ある程度ファイブローシス(線維化)も進行してる。原因薬剤を中止しても進行が続いてるし、とにかく食い止める必要がある。大学のカンファではSE(副作用)の説明が強烈すぎて・・・」

「家族がのコンセンサス(同意)が得られなかったわけですね」医長はメモする。
「ドーター(娘)が2人いて、意見が分かれたんだよ」
「家族に医者が2人も?」
「ドクターじゃねえよ。ドーター!」

 ドーッタんだこの男は・・・。

「ふん。じゃあオブザベーション(経過観察)ですね」
「いや今日もう一度説明するんだが。それまでその・・家族の希望でな。俺だけじゃなく皆の意見も聞いて結論してくれと」
「主治医への信用」
「(そんな言葉で止めるな!)」
「主治医は、ステロイドを推したいと?」
「ああ」
「・・・いいでしょう。許可します」
「なっ・・?」
「異論のある者は?僕に対して」
「(一同)・・・」

 医長に返り咲き、ますます勢力を持つトシ坊。

 僕は見えない尻尾をプルンプルン!と震わせた。

 威張れよ皇帝、ナポレオンオン!

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