外来で挿管となった、気管支拡張症で坑不安剤を飲んでいた患者さん。炎症反応は軽度。肺炎像はなさそうだが、慢性の肺病変がある場合レントゲンでの評価は・・

「よう分からんな・・・」
「CO2はそこそこ飛ばして(減少させて)、早めのウイニング(離脱)とします」医長は聴診を終えた。
「そうだな・・・感染の機会は避けたいな」

 慢性の気道感染がある場合、ベンチレーター(人工呼吸器)による肺炎いわゆるVAP(人工呼吸器関連肺炎)を回避したいという気持ちもあるが、あと自分は・・・院内感染への危惧があった。ナースの質低下のせいにするのも短絡的だが、ケアを怠るとスタッフ経由の感染頻度は増す。

 54歳男性の肺気腫。3日前トシ坊が挿管したが家族によりTチューブどまりで人工呼吸器は拒否。早朝、回診した僕の患者だ。

「先輩。家族はあれから・・」トシ坊は機嫌が悪い。家族に呼吸器のことを何度も説得したが、最後に登場した<長老>に罵られ、断られたそうだ。そのあとトシ坊がトイレに逃げたかどうかはどうでもいい。

「あれからも、いろいろ言ってくるよ。ナースに相談してきたり、遠い親戚が怒鳴ってきたり・・慣れてるけどな」
「ドプラムの持続注射ですか」点滴の横から。
「少しでもCO2を下げるため。でも痰が多すぎる。痰からはM(MRSA)とシュード(緑膿菌)。シュードは以前から持っている。部屋を移したかったんだが・・」
「それも家族が?」
「ああ。モメそうになったんでな。個室は・・」
「料金的なことでですか・・・」

助けたはずが、家族があとでタラタラ言ってくるケースは多い。
どうも、どこかで知恵をつけられているようだ。

68歳の大柄男性。不安定狭心症。バイパス術後だがすでに閉塞。今回、虚血性心不全の治療中。酸素吸入。血圧が低く、利尿はハンプを使用。長期戦となっているのは前述のとおり。

彼は起きていた。礼儀正しく挨拶を。
「医長先生。どうかその神通力で治してくれはりませんか」
「じんつう?」医長は驚いた。
「なんみょう・・・」
「私は神ではありませんので。加藤さん」

出た。医長の最近の十八番だ。

「先輩。点滴治療が長すぎます。内服の方向で」
「何度かはトライしたんだ。だがなかなか・・・」
「あきらめないでください。主治医!」
「ななっ・・!」

すると、周りの医者が1人ずつ肩を叩いてきた。
「(1人ずつ)主治医!主治医!主治医!」
「さ、さわんなよ・・・!」

 叩かれ終わったと思ったら、バシンと痛かった。

「てっ!加減を!」振り向くとミチル師長だった。
「主治医が諦めたら患者は終わり。それはアンタの言葉でしょ?」と小声。
「誰が諦めると言った!」
「怒りは指先に集中。それもアンタの」
「るさいな。あとは要チェックの患者さんを回ろう」
「そこ、開いてるで」
「ん?おお!」

 またチャックが開いてた。

 <要チャック>だ・・・。

 ヒマそうな放射線科医が、後ろで鼻息を荒げた。
「さあ、引き続き回診の続きといきましょか!」

 僕は振り向き、ハリソン・フォード風に人さし指を突き立てた(少しうつむき加減)。

「・・・・・!」

 無言。しかし一番効果がある。

 

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