掲示板ボードの箇条書きを1つずつ消去し、指示を出し終わる。検査伝票の確認も済んだ。胃カメラ・気管支鏡も午前の検査担当に任せている。以前は<主治医制>みたいなこともしてたが、割り切ることも必要だ。

 夕方、開業医が金稼ぎにやってきている。そのうち松田先生には・・・会いたくないため早めに切り上げたかったんだが。

「お!ヒーローじゃないか!僻地のヒーロー!」
「げっ・・・」
「ありがとう〜ジェニー。ジェニー!」
「・・・・・」
「久しぶりやんけ!」

僕は彼のワキに挟まれた。異様な匂いがする。

「うちのこと、いろいろ批判しちゃいかんよ〜」
「いえ。自分は・・・」
「いろいろ噂は聞くんだよ〜」
「・・・・・」

こういう時に限って、どこからも呼ばれない。

 僕は以前、こういった人種とも互角の態度で応対していたんだが・・・そうもいかない。病院同士のつながり、それを疎かにはできない。個人的な事情で関係が破綻することなどあっては多勢に迷惑がかかる。患者さんらの連携にまでヒビが入る。

「松田先生。また紹介などあれば」
「それはま。シロー君に言うとくから」
「そちらの景気は?」
「上々。ま、うちは患者来てナンボや。オタクらみたいに大学の下請けみたいにやとったら、患者は逃げてまうしな」
「・・・・・」
「患者は1箇所で診てもらうことを望んでんねん。ずっと前の癌の人もそうや」

 以前、クリニック受診→当院受診→癌と判明→治療勧めるも拒否→クリニックで抗癌剤通院・・・というケースがあった。

「ええ。思い出しました」
「うちの患者はな。癌になってもその人は戻って来んねや。子供が親元に戻るみたいに」
「・・・」

「うちで外来治療してんねん。できるねん。お前らんとこでせんでもな。ケモ(抗癌剤治療)だって外来通院の時代やろ?うちは点数いっぱい取れるし!ケモケモ!」
「確かシローがその方を」
「俺が診てる。だって患者さんがそう言うもん。院長先生様。ハハ―ッて。近いうち、大きな地震が来る不安もあるしな」

出た・・・。その宗教話には関わりたくない。

「松田先生。シローはその宗教には・・」
「俺が、入れっちゅうてんのに。バチが当たるわそのうち」
「自分は結構ですので」
「週末、関東で集会あるけど来る?俺、大阪に支店作ろうと思うんだけど」
「あ。呼ばれた。失礼します!」

なんとか抜け出し、療養病棟へ。
声をかけたがっているMRが何人かすれ違う。

 療養病棟では・・・大奥ナースという大柄が現場を仕切っていた。口をモグモグさせている。

「(ゴックン)。あ。めずらし」
「変わりは?」
「変なん、入院させたらしいな!」
「変?」
「コワモテのおっさん。コバンザメまで連れて」
「口わる・・!」

 多くの周囲を取り囲む数匹のコバンザメ。
みな僕を伺う。病院シーソーゲームの見物。

「あんなあユウキ先生。うちには要らんから」
「所見があって処置して・・そのあとお願いすることはあるかもしれん」
「いやや!あかんで!」
「じゃあミチルに言ってみろ!」
「一般病棟の師長?へっへ。あたしらホントは仲ええし」
「なにっ?」
「犬猿の仲かと思うやろ。でも飲み会でうちとけあってん」
「(女ども・・・!)」

 底にオモリをおつけた人形みたいに・・・(何度も起き上がる)!

 回診を簡単に終える。外はもう暗くなっている。
「夜診がもう、始まってるか・・・!」

 知らない間に、PHSに履歴。
「ピート?救急室か!」

タン、と手すりへ乗ろうとしたが、近くで大型扇風機がブワーンと鳴っている。

「おっと?」
「エレベーターで行け!」険しい表情で座り込んでる、掃除のおばちゃん。
「ワックスがけ?」
「エレベーターで行け!」
「何時までやんの?」
「エレベーターで行け!」

 扇風機の音のせいか、聞こえてない。

 エレベーターに乗って振り返り、ハリソンフォードの人差し指を天上へ向ける。

 おばさんはついに立ち上がった。

「だからエレベーターで!」

 のとこで、ドアが閉まった。

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