大学病院に患者を搬送、脳外科医に説明。

「では・・・よろしくお願いします」

 僕は頭を下げ、本人・家族にしばしの別れ。
自動ドアを何度もくぐり、いろいろ頭をよぎる。

 この患者さんは採血の前に食事してきたり、そういうに僕も呆れて検査をそこまでしてなかった。CT・MRIは年1回してたがMRAまでは・・・だが動脈瘤はたまたまの検索では見つからない。主治医に強い気持ちがあれば(いろいろ検査を)勧められたはずだ。

 5時をとっくに回り売店も終わり、早くも薄暗くなった廊下を歩いて行く。

「改築したのか・・・ずいぶん変わったな」

 自分がかつて属した医局へ行こうかとも考えたが、正直あまり関わりたくもない。
 まわれ右して、裏玄関へ。

駐車場で、ドクターカーは待っていた。エンジンは切ってある。
外でタバコを吸っている田中くん。

「お。終わられましたか!」
「ああ。帰ろっか」助手席に乗る。
「先生。医局に寄らなくても?」
「いいよ。あそこは苦い思い出が多すぎる」
「失恋?」
「あるかもな・・・」

車体は切り返しのため、大きく回り始めた。

田中君はハンドルを何度も切った。

「詰所から伝言です。山ほど」
「申し送りだろ?分かってる」

「仕事、終わらせてなかったんですか?」
「終わっても、次々掘り起こすんだよあいつらは!」これは言い過ぎだったが。

「分かります。私も彼女にいろいろ掘り起こされますんで」
「彼女?彼女いるのか?」
「へえ。同窓会で火がつきまして」
「その手があったか・・・」
「過去のこと、ネチネチ言うんですわ。AV見てたこととか・・・以前つきあってた女、それと寝言の女の名前とか」
「どある・・・!」

「先生は?」

「面倒くさいよ、というのはホラ。でも過去のいい女はみな売れた。それにこの仕事、もう出会いはないし・・・」
「やっぱり作ったほうがええっすよ。先生は僻地のヒーローじゃないっすか!」

「・・・俺も、誰かのヒーローになりてえよ・・・!その人だけの」
「だから僻地の住民の!」
「しつこい!」

帰りなのでサイレンは鳴らず、他の車と同様に渋滞の中。

「ユウキ先生はそうだな。やっぱ職場結婚になりそうですね〜」
「うちの職場見てみろ・・・若くて性格いい女がいるか?」
「・・・・・」

 確かめたとこ、いないといった印象だな。
 いや。実は1人いるんだ。

 ただ、彼女の二重の性格が・・・。

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